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紅葉と愉快な仲間達・バルたん編入作戦2章④

 投稿者:ゾルダⅢ世  投稿日:2018年 5月22日(火)16時22分15秒
返信・引用
  > No.945[元記事へ]

慌ただしい日々が続いて、何がどうなってるか解らなくなっちまった。ちょっと話を整理してみよう。
遠足に行ったのは平日で、その翌日から【バルたん編入作戦】が始まったんだよね。



初日・・・
ホームルームで、優麗祭で焼きそば屋やろうと決定。紅葉が実行委員になった。
そこへバルたんが唐突に現れて参加したがったけど、大人の事情で叶わなくて紅葉が落ち込む。
気まずい空気になっちゃったが、亜美の叱責で紅葉が立ち直って解決。
放課後に4人でカラオケやった後、唐突に「バンド組んで優麗祭でゲリラライブやろう」って話になる。
言い出しっぺの紅葉は、さっそく担当を引き受けたギターを買いに素っ飛んでった。

2日目・・・
紅葉がギターと間違えてベースを買ってきた。麻由の妨害工作で、模擬店企画がピンチ。
美穂が軽音楽部でドラム担当してる、クラスメートの田井中律にドラムの教授を願って受け入れられた。
放課後さっそく、律の家で練習開始。晩ごはんもゴチになり、忘れてた家族の団欒も堪能する。
美穂がライブの演目でジャニス・ジョプリンの『SUMMERTIME』を希望。
亜美の家で美穂を除く3人が練習するけど、バルたんがカルチャーギャップで曲の世界観を理解できず悩む。
文架警察署で、妖怪出現の気配だけする。

3日目・・・
亜美がライブで『100万本のバラ』やりたいとリクエスト。模擬店の問題、相変わらず解決せず。
夜、田井中家をミラーモンスターのデッドリマーが襲撃。美穂が変身して、激闘の末に撃破。
律に秘密を知られてしまうが、過去を洗いざらい話したら受け入れてくれて、仲が親密になった。
同じ頃、妖怪・火車が出現してゲンジ出動。文架大橋で救助した人達の中に麻由が居たけど、互いに気付かず。
その際にゲンジが負傷。ゲンジ&バルたんのタッグで、火車を追いつめるも逃げられちゃった。

4日目・・・
紅葉が登校前に『粉木整形外科』で治療。打撲で全治10日と診断された模様。
昼休みに模擬店の問題が解決するも、ふとした事で麻由が紅葉に疑念を抱く。
美穂が、ほんのチョッピリだけどクラスメート達と馴染む。
夕方、警察と科特隊の合同記者会見。火車の事件が【謎の生物によるテロ】と公式認定される。
深夜、美穂が文架警察署に潜入して火車の秘密を探る。

5日目・・・
朝の体育館裏ミーティングで、美穂の火車への疑惑が確信に変わった。
模擬店の件で紅葉と亜美が相撲部部長の石松と出会ったら、石松が亜美に一目惚れしちゃった。



おやぁ~?おやおやおやぁ~?遠足が月曜だったとして、もう土曜なの~?(佐藤二朗っぽく)
いかんいかん。最近の学校は土曜が休みなのに、うっかり登校させちゃったよ。
しょうがねえな~、作者がアラフィフだもんな~。小中高の時は、土曜が半ドンだったもん。
土曜の昼は、メシ食いながら『笑って!笑って!!60分』を観るのが習慣だった。
ジェリー藤尾一家が仲良く司会して、子供心に「円満な家族だなあ」と思ってたけど、その後で離婚しちまって、
しかも『酒浸りで暴力を振るってた』とかドロドロな実情を聞いた時はビックリだよ・・・どうでもいい?ごめん。

さて、どうしよう?

・・・・・よし『優麗祭の準備で、授業は無いけど登校してた』って事にしちまおう。それで決まり!
それにしても、優麗祭を来週の日曜に開催するとして、残り8日じゃんよ。
模擬店の問題は解決したとして、練習が遅々として進まん上に、紅葉がケガ完治しないまま本番になりそうだ。
しかも近いうちに必ず、火車との決戦じゃん。つい、お約束を盛り込み過ぎちゃった。今になって不安だけど大丈夫か?
でもまあ、書いちゃったもんは仕方ない。このまま進めるぜ。




これ以上いじると、亜美が本気で怒っちゃうかな?紅葉には「お互い満更でもない」って風に映ったけど、亜美は単に人見知りで戸惑ってただけかも。
でも石松先輩は、完璧に一目惚れしてるっぽい。大らかで頼りになりそうな良い人じゃん。太ってるけど、良く見ると目鼻立ちクッキリのイケメンだし。
両想いになれたら良いな。そう思った紅葉は、亜美いじりを適当に切り上げた。拗ねてる亜美を「まぁまぁ」と宥め、教室に入ってからは適当な時事ネタで
時間を潰した・・・やがて昼休み終了のチャイムが鳴り、クラスメート達が教室へ戻ってきた。紅葉と亜美は、教壇の特等席でミーティングを始める。

「ぁぶらげ発注しとぃたから、原茶ノルオくんと道尾カケルくんゎ、次の土曜に受け取りョロシク!
 ぉ店の名前と場所と電話番号ゎ、メールで伝ぇるょ。ぉ金ゎ金曜にァミが渡すからね」
「わかった」
「は~い」
「ぁとガソリンの領収書ぉ持って帰って、ァミに渡してね」
「うん、解った」
「焼きそば買い出し係の人も、次の土曜ね!1時に『肉のマサマサ』ぇ集合!」
「はいよ~っ」×5人くらい

まず、買い出しに関してはOK。

「伊太ヌルくん、看板の製作ゎ進んでる?」
「うん、大丈夫。前日までには仕上げる」
「ぅぃ~すっ、ョロシクっ!仕切り作りゎ、月曜の放課後から始めょぅね~っ」
「は~いっ」×たくさん

教室の片隅に、午前中に調達したダンボールとガムテープとペンキと刷毛が置かれてる。テーブル代わりに使う机の置き方も、だいたい決まった。
模擬店のレイアウトも、ほぼOK。

「ぇ~とぉ~・・・・調理実習か・・・
 焼きそば係ゎ、明日のぉ昼にァタシの家ぇ集合ね。材料と道具ゎ、ァタシとァミで用意しとく」
「は~いっ」×たくさん

かなり話が煮詰まって、後は本番に備えた作業を進めるだけになった。あんまり根を詰めても疲れるし、部活でやる企画の準備をする生徒もいるから、
今日はお開き。紅葉と亜美は自分の席に戻り、窓際で椅子に座って成り行きを眺めてた北斗先生と南先生が教壇に上がり、日直の号令で挨拶して解散した。


―体育館―

「あ、ありがとう・・・・俺、勇気が欲しいライオン」
「私はドロシー。白鳥の騎士様との再会を願って旅してるの」
「・・・・え?」
「・・・あ」
「ストップ!風谷さん、どうしちゃったの?」
「・・・ごめんなさい」

2Aの『オズの魔法使い』キャスト達が、ステージで稽古してんだが・・・ドロシー役の真魚が、遠足での出来事を引き摺っちゃってNG連発する。
ステージ下で監督してる麻由は、軽くイラっとしながら何度目かのダメ出しをした。最近ちょっと真魚が変なんだけど、今さらキャスト変更も出来ない。
たびたび口にする『白鳥の騎士様』ってのは何なのか?演出する以前の問題だ。後で改めて注意して、ちゃんと演技に集中してもらわなくちゃ。


―2年C組―

紅葉と亜美が、後ろの扉をソッと開いて覗き込んでみたら、美穂は他のクラスメート達と真面目に調べ物をしてた。まだまだ表情が固いけど、かなりの進歩だ。
2人に気がついた美穂は「ちょっとゴメン」と断って席を立って、廊下に出て微笑みかける。

「よっ」
「おっかれ~っ」
「ちゃんとクラスの企画に参加してんだね」
「まあ、ぼちぼちね・・・
 バルたんを皆に認めさせようってのに、あたしがコミュ障じゃ説得力ないから」
「ぃぃ事ぢゃね。っぃでにミホも、皆と仲良くなればぃぃょ」
「ん~・・・難しいけど、やってみるか・・・今日も亜美の家?」
「うん、その予定だよ。ミホちゃんは?」
「もうちょいクラスの事やってから、軽音部の練習を見学させてもらう事になってるよ」
「へぇ~っ!ぉもしろそぅっ!」
「私達も行っていい?」
「解った、田井中に伝えとく」
「ョロシクっ!ぢゃ、後でねっ!」
「お邪魔」
「うん」

最後に「河原ぇ行ってるから電話ちょぅだぃ」と言い残して、仮設校舎を後にする。門を出て道を横断し、芝生の斜面を登れば河川敷の道。
通りすがりの犬が尻尾振って見上げてたんで、飼い主に断わってモフモフし、名残惜しそうに別れてから反対側の土手を降りる。下まで行かず途中で
止まって、並んで芝の斜面に座る。紅葉はベースを置いて大の字に寝転がった・・・ちょっと雲があるけど、爽やかな秋晴れ。サラサラ流れる山逗野川。
そよ風。土手のあちこちで咲いてるコスモス。耳を澄ませば、親善試合に備えて練習に励むサッカー部の声が校庭から聞こえる。

「・・・・・・・・決まったっ!」
「何が?」
「ラィブでゃりたぃ曲!何にしょぅか悩んでたけど決めたっ!」

紅葉が起き上がってスマホを出し、YouTubeに繋げて検索かける。目的の曲は、直ぐに見つかった。『青空になる』ってタイトルの曲である。
2000年に放送され、練り込まれたストーリーや斬新な演出で、チビッ子どころか大人にまで人気だった『仮面ライダークウガ』のエンディングだ。
パパのお気に入りの1つで、家にあるブルーレイを観て気に入ってたらしい・・・パパが観てた特撮やアニメをヒントに何事か閃くパターンが何度か
あるけど、パパどんだけマニアなんだろう?それは置いといて良い曲だった。ゆったりしたメロディーと優しい詞で、聴いてて癒される。
映像https://www.youtube.com/watch?v=uqLrfxJTi4o 歌詞http://www.kasi-time.com/item-2822.html

「へぇ~、いいねこれ」
「ボクも気に入ったばる~っ!!」
「えっ?」
「バルたんっ!?」

何時の間にやらバルたんが紅葉の隣に座っていて、ビックリしてる様を眺めて「やった~」と言いたげにニコニコ笑ってた。

「ぇ?ぇ?まぢ?!?ぜんぜん解んなかったょ!?」
「宇宙忍法の練習してたばる~。紅葉ちゃんに気付かれないまで、気配を消すのに成功ばるっ!」
「ぬぅ~・・・・ぉぬし腕ぉ上げたな。次ゎ負けなぃょっ!」
「受けて立つばる~っ!」
「・・・何の勝負よ?」
「それは置いといて、良い曲ばる。ボクも気に入ったばる」
「たいがいの悩みが、どうでも良くなっちゃいそうな気になるね」
「でしょっ!でしょっ!・・・・適当だけど弾ぃてみょぅっと!」
「ボクも唄ってみるばるっ」

紅葉は小声で「ぃてて」と言って三角巾を外し、ベースをケースから出してチューニングを終えると、曲を最初から聴いて「ここゎ、こんなかな~?」と
呟きながら弦を弾きだした。ケガの影響を差し引いても、正直に言ってド下手くそ。かなり頻繁に「ぁ、ぃけね」と舌を出しては、またやり直してる。
バルたんのボーカルに関しては、全く問題なし。

♪重い荷物を 枕にしたら 深呼吸・・・青空になる
♪目を開けてても つぶっても 同じ景色は過ぎていくけど 今、見てなくちゃ・・気付けない

音感が優れてる亜美は、3回ばかり聴いたら覚えたらしくて「ここは、この音じゃないの」とアドバイスする。同時にギターのパートを脳内でピアノの音色に
変換して、自分もイメージトレーニングした。小1時間ばかり亜美とバルたんのアドバイス受けながら夢中で弦を弾いてたら、初心者なりだが形になってきた。
「これ、いけんじゃね」って空気になって盛り上がってるとこへ、美穂から電話が来る。これから音楽室で、軽音部の練習を見学するらしい。紅葉がベースを
ケースにしまい、3人は立ち上がって尻をパンパンして葉っぱを落としてから、急ぎ足で学校へ戻る。話を聞いて興味持ったバルたんは、透明化して一緒に来た。


―文架市中心部―

火車の出現に備えて、市の中心部は物々しい雰囲気になっていた。出動要請を受けた機動隊のいかつい車両が、街のそこかしこに停まってる。近隣の警察署
からも応援が駆け付けて、数十m置きに警官が立ち番してる。万が一の際に切り札となるG3チームは、何時でも出動できるようガレージで待機中。
普段の週末と比べ通行人も車も少なくて、街は閑散としてた。警官達は言うまでもなく、やむなく外出してる市民も「いつ再び、あの化け物が出るか」と
ピリピリしてる。

≪・・・・・・コーン・・・・≫

警察署の裏庭で、普通の者には見えない黒い渦が時たま浮き出しては、“バイク達の声”を餌に少しずつ確実に成長してた・・・“声”だけでなく、警官達や
通行人が発する“ピリピリ感”も、負の感情として吸収している。24時間態勢で警戒に当たってる警官達の緊張感が、皮肉にも恰好の餌になってしまってた。


―文架飛行場―

市の中心部から北西へ数kmの場所に、離島への短距離定期便や自家用機が専用に発着する文架飛行場がある。その片隅にジェットビートルが駐機して、
科特隊の現地対策本部として機能してた・・・ピピピィ~ピピピィ~ピピピィ~。機内の空きスペースに設置された機械がアラームを鳴らし、ヘッドホンを
付けて座ってたイデが色めき立つ。

「キャップっ!!イヘンミツケールに反応ありっ!!場所は文架警察署っ!!」
「何っ!?警察署にだとっ!?」

イデが発明して街のあちこちに設置し、様々な“普通じゃない現象”を捉えると知らせる≪イヘンミツケール≫が、潜んで力を蓄えてる火車を捕捉。
だが反応は僅か数秒で消えて、アラームは静まり返ってしまった。イデは科特隊専用車でパトロール中のハヤタとアラシに連絡し、警察署の近辺を
重点的に警戒するよう伝える・・・ちなみにフジ隊員は、先日の件で謹慎中。ホシノ少年は暫く出入り禁止になった事にしておこう。エッチしてたのは
バレてない。あくまでも勤務中に茶飲み話をしてたのと、うっかりレーダーのメインスイッチを切ってた所為で基地がピンチに陥ったって事で。

「灯台下暗しだな。よりによって、警察署で反応するとは」
「防犯カメラの映像を解析したら警察署の近辺で見失ったんで、念の為に設置しといて正解でした」
「警察署と言っても広いが、詳しい場所は何処だ?」
「残念ながら、そこまではチョット・・・急ごしらえで、数に限りありますんで」
「そうか。とにかく署長に連絡だ」

ムラマツは無線で山田署長に事の次第を報告し、厳重に警戒するよう提案。連絡を終えて椅子に座り、ピカピカに磨かれた愛用のパイプに葉っぱを詰めて
ライターで火を点ける・・・いちおう断っておくけど、至って普通の刻みタバコだ。これが【ゾルダⅡ世】とか言う話だと、うっかりダメな葉っぱを
吸ってラリパッパになっちゃって、「ぎゅえええ~~いっ!!」と奇声を発しながらビートル発進させて文架市を無差別爆撃って展開になるんだろうけど、
この世界では大丈夫だから安心してくれ。

「奴は、いったい何者だ?・・・宇宙人なのか、それとも地球の怪物か?」
「特徴を見た限り、僕は土着の化け物だと思いますね」
「そう思う根拠は?」
「たまたま地球に来た宇宙人が、狐みたいな顔で身体に梵字が書かれて、しめ縄を巻いて雪駄を履いてる。
 そんな事、偶然でもありえません。土着の怪物と見るのが自然です」
「・・・・確かにな・・・土着の怪物だとして、正体や出現の理由は何だろう?」
「う~ん・・・そこまで特定するには、情報が少なすぎますねえ」

プカプカとパイプを吹かして香りを楽しみ、漂う紫煙を眺めながら、ムラマツは考えに耽るのであった。イデは冷めたコーヒーを飲み干しておかわりを注ぎ、
でっかく口を開けて「ふわわあ~~~っ」って欠伸して湧いた涙を指で拭ってから、ヘッドホンを装着して機械との睨めっこを再開する。


―中央通り―

ハヤタとアラシが乗った科特隊専用車が、繁華街を中心にパトロールしていた。今のとこ、異常なし。もう一周りしたらビートルへ戻るか・・・
そう思ってたとこへ、イデから通信。警察署の近辺で、怪しい反応ありとの事だった。

「了解、警察署へ向かう」
「よりによって、警察署で異常反応か」
「いったい、奴は何者だろう?」
「何だっていいさ。また現れやがったら、コイツをお見舞いしてやるまでだ」
「・・・・・・・・・・・・・・・」

ハヤタは何事か考えながら、次の交差点で警察署方面にハンドルを切る。助手席のアラシは、張り切った様子でスパイダーショットのチェックをした。


―音楽室―

リードギター兼ボーカルの平沢唯、唯一の1年生でリズムギターの中野梓、左利きのベーシスト秋山澪、お嬢様でキーボードの琴吹紬、そしてドラムの田井中律。
以上5人が、軽音楽部でバンド名【放課後ティータイム】のメンバーだ。正面に楽器や機材をセットし、慣れた手際でセッティングを済ませ、そして練習開始。
本番さながらのテンションで、3曲ブッ通しで演奏する。https://www.youtube.com/watch?v=bwpK5QJu6K4

「・・・・・・・・・・すげ~」
「・・・・・巧すぎる」
「・・・・・・・・・・・マジかよ・・・」

向き合って見学してた紅葉・亜美・美穂は、正直な話、打ちのめされて挫けそうになってしまった。「キャリアが違う」と言っちゃったら元も子もないけども、
技術・センス・聴く者を乗せる雰囲気etc.いちいち自分達と比較するのも虚しくなるくらい、全ての次元が違い過ぎた。「まあ、何とかなるしょ」と気軽に
始めたけど、あと8日ぽっちで何処までやれるかと不安になってくる。バルたんが優麗高に馴染むどころか、満場のブーイング浴びて終わりじゃなかろうか。
亜美と美穂は言うまでもなく、前向きで怖いもの知らずな紅葉さえ、放課後ティータイムのパフォーマンスに圧倒されちゃってた。

「律、また全体的に走ってるね~。合わせるの大変だよ」
「ごめ~ん、気をつけるっ!」

演奏が終わってから、澪が律に注文つけてる。3人は「え?あんな巧いのに、不満なとこあるんだ?」とビックリ。ちゃんと息の合った演奏だと思ってたが、
澪としては「ドラム走ってる」らしい。ちっとも気がつかなかった・・・借りてきた猫みたいに大人しくなっちゃった3人の前で、放課後ティータイムは
専門用語混じりで打ち合わせし、「もっぺん行ってみよう」と練習再開。リズムに注意して聴いてみたら、先刻より巧くなってるように感じた。

(ぉぉぉぉぉ・・・・・ベースってスゲ~)

「弦が2本少なくて楽ぢゃね」なんて理由で買っちゃった上に「間奏でカッコよくギターソロを披露する」って野望も潰えてしまった紅葉だったけど、
澪の演奏を見てたらベースギターの奥深さや重要さを再認識した。ちゃんと美穂と息を合わせてリズムをキープし、亜美の演奏に厚みや深みを与えなきゃならん。
本番まで残り僅かだけど、痛いだの何だのって言ってられない・・・それぞれ想いに耽りながら見学してたら、一区切りついたんで小休止する事になった。
3人は「見学させてくれた礼に」と、最寄りの自販機でジュース買ってきて5人に渡す。

「どう霧島さん?参考になった?」
「うん・・・・・・・・・・・・・楽器を舐めてたよ」
「私達、大丈夫かな」
「ァミゎピアノ歴ぁるから問題なぃぢゃん・・・ァタシとミホ、かなりゃっべぇ~~」

たいがいの事に物怖じしない紅葉だけど、珍しく大人しい。ファンタオレンジを半分ばかり一気飲みしてから、溜息して足元の床を眺めてる。

「だって、まだ初めて4日なんでしょ?
 それで上手に演奏されちゃったら『私達の立場は何?』って話だよ」
「・・・・そりゃまあ、そうだけど」
「源川さんと平山さんは知らないけど、霧島さんのセンスと集中力は凄いよ」
「そっかなあ」
「てゆ~かさ・・・・優麗祭でライブやるなら、何で今頃になって急に?」
「そうそう。せめて、半年くらい前から始めてりゃ良かったじゃん」

放課後ティータイムにしてみたら至極まっとうな疑問だけど、3人は答えに詰まってしまう。

「ぅ~~~~~~~んとぉ~~~~~」
「・・・ちょっとした事情ありまして」
「そう言えば霧島さん?」
「何?」
「昨日、教室で『ボーカルは内緒』って言ってたね」
「うん」
「それと関係あるの?」
「差し支えなかったら、話してくれませんか~?」
「秘密は守りますわ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

かなり困ったが、ちょっと話した3人は「変に隠し事してわだかまり残すより、この5人にだけは話してスッキリしちゃおうか」って結論になった・・・・
ちょっと心の準備が必要かと思った美穂が「かなりビックリするだろうど、大声を出さないでね」と断ると、5人は「いったい何事なのか?」と緊張して、
ゴクリと生唾を飲み込んでから無言で頷く。そこで紅葉が後ろを振り返って、ショパンの肖像画に向かって「バルたん出てきてぃぃょ~」と叫んだら、透明に
なって潜んでたバルたんが現れて、微笑みながらチョコンと頭を下げた。

「こんにちはばる~・・・遠足の時は、お騒がせしましたばる~」
「えええええええええええええええええ~~~~~~~~っ!?」×5
「楽しく聴かせてもらったばる~っ」

いちおう腹を括ってた5人だったが、さすがに軽くパニック。【弁当事件】と【風谷真魚拉致事件】で見知ってる上に、ここんとこ文架市内を中心にした何件かの
【バルたん目撃情報】でSNSが盛り上がってる。そしてトドメで一昨日の夜に、文架大橋を舞台に【謎の鎧武者と一緒に大立ち回りで、モンスターを撃退】って
武勇伝・・・優麗高の生徒達を始めとした文架市民にしてみれば、バルたんは“時の人”なのだ。

「ど・・・ど~も」
「あれからずっと、話題になってるね」
「控えめにしてるつもりなんだけど、どうしても目立っちゃうばる~」
「3人と仲良しになってたんだ?」
「この辺に住んでるの?」
「そうばる~。羽里野山に停めてる母艦で暮らして、あちこち見物してるばる~」
「まさか霧島さん・・・・・・・内緒のボーカルって彼女?」
「うん」
「バルたんって、すっげ~唄ぅの上手ぃんだょ」
「へぇ~っ」
「唄うの大好きばるっ。地球の音楽は楽しいばるっ!」

気になって突っ込んだ質問してみたら、3人は洗いざらい話した・・・火曜のホームルームでの出来事。気晴らしに行ったカラオケで、見物人が集まるくらい
バルたんの歌声が素晴らしかった事。「バルたんの歌を自分達だけで独り占めは勿体ない。大勢に聴かせたい」「ついでに、つまらん大人達に一泡吹かせちゃお」
ってな理由で、優麗祭でゲリラライブやろうと決めた事。カラオケ流してバルたんが唄うだけでも事足りるけど、あえて自分達の演奏でバルたんが唄う事で
【地球人とバルタン星人達が仲良くなるキッカケになれば】と、バンドでやる事にしたって事。

「何かさ・・・・良い話じゃね」
「そうだね。応援したくなってきた」

話を聞き終えた5人は、実に呆気なく受け入れてた。【ゲリラライブ】ってワードに、ちょっとした背徳感を感じてワクワクする。それにどんな形であれ、
音楽に興味を持つ仲間が出来たって事が、素直に嬉しい。あと単純に興味深い。バルたんの『カラオケで見物人が出来るような歌声』って、どんなだろう?

「バルたんさんの歌と3人の演奏、聴いてみたいですわ」
「あ、言えてる」
「やって見せて下さいっ」

ややあって紬が、お嬢様っぽいおっとり口調で切り出した。いちおう、お断り。『けいおん!』を観てないんで、どうにもキャラの書き分けが解らん。
wikiに『紬はお嬢様』と書いてあったから、キャラ判別の為に、お嬢様っぽく喋らせてるのだ。『梓は下級生』って事だから、基本は敬語を使う。
紬と梓は書き分けやすいとして、他の3人は・・・適当に判断しやがれ。これが【ゾルダⅡ世】だったら、台詞の最後に「~〇〇です」と入れといて
済ませちまうとこなんだけど、なるたけ使いたくないのだ・・・横道に逸れちゃったけど、本題に戻る。

「OKばるっ!」
「ぇ、まぢっ?」
「・・・どうしよ」
「参ったなあ」

ちょっと見学するだけのツモリだったのに、思わぬ方向に話が進んじゃった。バルたんを除いた3人は、一転して不安になる・・・今までバラバラに練習してたんで、
4人揃っての演奏は初めてだ。困った、どうしよう。巧くやれる自信が、欠片ほども無い。

「どっちにしろ、大勢の前でライブやる気なんでしょ?」
「・・・・うん」
「なら、今ここでやって見せてよ」
「ここで引っ込んでたら、話にならないと思います」
「・・・・・・・・・そだね」
「確かに」

腹を括った3人は、アイコンタクトして立ち上がる・・・バルたんはマイクの前に立ち、亜美は教壇の隣に置かれたピアノの椅子に、美穂がドラムの椅子に、
それぞれ座る。紅葉がベースギターを取り出して、拙い手付きでチューニングした。澪が興味深そうに紅葉のベースギターを眺めてたが、何かに気付いた
感じで不意に近寄ると「ちょっと見せて」と受け取り、片目を閉じてネックと弦との間を覗き込んだ。

「あ~、これじゃ弾きにくかったでしょ。直すから待ってて」
「・・・?」

澪は自分のギターケースのポケットからドライバーを取り出し、弦を全て緩めてから本体にネックを固定してるネジを微調整。終わってからチューニングして
返した。ワケ解らなくて頭上に無数の【?】を浮かべながら作業を眺めてた紅葉は、受け取って弦を押さえるなり「嘘でしょ!?」って表情になる。
ネックと弦との隙間が、良い感じに調整されて押さえやすくなっていた。

「ぇ~~~~っ!?何これ、すげぇっ!?めっちゃ押さぇゃすぃっ!!」
「ベースの弦は太いじゃん。弦を張る力が強くて、ネックが引っ張られてるんだよ」
「まぢっ!?ベースの弦、はんぱねぇっ!!」
「それで少しずつネックが傾いて、隙間が出来て弾きにくくなるからね。たまにこうやって、調整するんだよ」
「ぁりがとっ!!・・・これから秋山さんの事『ししょー』って呼ぶっ!!」
「いやいやいや」

そんなこんなで準備が整った。バルたんだけケロッとしていて、紅葉・亜美・美穂は緊張した面持ちで「スゥ~ハァ~」と何度も深呼吸を繰り返す。

「ァタシ達まだォリヂナルどころぢゃなぃんで、全部カバーね」
「うん、解った」
「何やるの?」
「そしたら、ミホの希望で決めた曲ね・・・
 ヂャニス・ヂョプリンって人の『サマータィム』って、大昔の曲ゃりまーす!」
「おおおおおっ!?」
「ブルースやっちゃうんだ?渋くね!?」
「楽しみですっ!!」

アイコンタクトしてコクッと頷いてから、美穂がスティックを♪チッチッチッチッチッチッっと打ち鳴らして出だしのリズムを取り、タイミング合わせた
亜美がピアノで前奏を開始。紅葉も必死こいてベースをを弾き始める。バルたんは片手でマイクを握りながら爪先で床をトントンさせて前奏を聴き、やがて唄い出した。

Summertime, time, time
Child, the living's easy
Fish are jumping out
And the cotton, Lord
Cotton's high, Lord so high

可愛らしく、且つ魂を絞り出すかのような歌声に圧倒され、放課後ティータイムは・・・特にボーカルの唯は、目を見開いて唖然と聴きほれてしまった。
紅葉と亜美もビックリしてる。亜美の家で初めて唄った時も充分に巧かったが、さらに磨きかかってた。カルチャーギャップで「曲の世界観が解らない」と
悩んでたが、あれから曲の成り立ちに伴う地球人の事柄について、どんな勉強したんだろう?英語が解らないのに、悲しみが伝わってきそうだ。

Your daddy's rich
And your ma is so good-looking, baby
She's a-looking good now
Hush, baby, baby, baby, baby now
No, no, no, no, no, no, no
Don't you cry, don't you cry

1番が終了し、間奏タイムで亜美のピアノソロ・・・本来ならギターで演奏されてるんだけど、それを良い感じにピアノ向けにアレンジしていた。
オリジナルの哀愁漂うメロディーを、情感たっぷりに弾きこなしてる。美穂は律から受けたアドバイスを初心者なりに解釈して、ピアノの音を損なう事なく
控えめに、それでいてシッカリ存在感を発揮して叩いている。そして紅葉は・・・ド素人な上にケガしちゃってる身で、懸命に4本の弦を弾き続けた。
紅葉も美穂も時々トチるが、失敗をを恐れず演奏を続ける。懸命にリズムをキープして、亜美をサポートしようをとしてるのが伝わって来る。

One of these mornings
You're gonna rise, rise up singing
You're gonna spread your wings, child
And take, take to the sky
Lord, the sky

But until that morning
Honey, n-n-nothing's going to harm ya
No, no, no no, no no, no...
Don't you cry, cry

最後までやり切り、紅葉と亜美と美穂が打ち合わせてたみたいに「ぷはぁ~っ」っと大きく溜息してる以外、音楽室は水を打ったように静まり返ってた。
亜美のピアノは、センスもテクニックも申し分なし。バルたんの歌声に至っては、世界の何処でも拍手喝采で「アンコール」を連発されるレベルだった。
紅葉と美穂は、指摘するまでもなく初心者丸出し。とちりまくったり節々でリズムが狂ったりしてたけど、そこは練習次第だろう。
シ~ンとして聴き入ってた放課後ティータイムだったが、やがて誰からともなくパチパチと拍手し、しまいにゃスタンディングオペレーションになる。

「お粗末さまでしたばる~」
「・・・10回ゎ失敗してたかも」
「我ながら『まだまだ』って感じだねえ」
「あ~・・・・緊張したっ」
「いやいや、4日でこの出来は奇跡だよっ!!」
「あたし達も、負けてらんないねっ!」

バルたんの歌声と亜美のピアノが巧かったからか、想像してたより遥かに良い感じだった。この調子で、他の曲も頑張ってみよう・・・・
そう話が纏まり、ふと気がついたら10月の陽が早くもだいぶ西の空へ向かってた。もうちょっとやってみたかったけど、4時からはコーラス部が
音楽室を使って練習する事になってる。放課後ティータイムは、駅前の繁華街にある貸しスタジオで練習の続きをやるそうだ。名も無きバンドの4人は、
恒例で亜美の家に行こうかって話になり、一緒に後片付けしてから見学させてもらった礼を言って、5人と別れて学校を後にする・・・街の人達を刺激
しないよう、バルたんは例の如くで透明化して、3人の頭上をプカプカ飛びながら付いて行った。

「ぁ、ぃけねっ!明日の用意しなくちゃ!」
「そうだったね・・・今から行く?」
「そぅしょぅっ!」
「明日の用意?」
「模擬店の調理係がね、明日ァタシの家で焼きそばの調理実習ゃるの」
「そっか・・・荷物運ぶの手伝うわ」
「まぢ~?ぁりがとっ!」

亜美の家に行くつもりで学校を出たけど、大事な用事を思い出したんで方向転換。「よくもまあ、こんなに話題があるもんだな」ってくらい、
ペチャクチャひっきりなしに喋りながら、業務スーパー『肉のマサマサ』へ向かった。
 
 

紅葉と愉快な仲間達・バルたん編入作戦2章③

 投稿者:ゾルダⅢ世  投稿日:2018年 5月15日(火)19時43分54秒
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―翌朝:優麗高―

体育館裏で、毎朝恒例のミーティングが行われていた。今朝はバルたんも来てる。美穂がスマホでドリームCB750FOURを画像検索して、出てきた
画像を3人に見せた・・・紅葉と亜美は特にバイクに興味あるワケでもないんで、年齢相応の娘みたいな反応。バルたんだけ興味津々で、食い入るように
眺めて目をキラキラさせてる。

「どりーむしーびーななひゃくごぢゅぅふぉー?」
「ボクの星には、こんな乗り物は無いばる。面白いばる~っ」
「バイクなんて全く知らないけど・・・・見た感じ、古そうだね?」
「古いなんてもんじゃないよ。最初期モデルは、1969年製だ」
「ええっ!?半世紀も前っ!?」
「うん」

ちなみに紅葉と亜美のバイクに関する知識は【派手なカバーが付いてる速そうな奴(スーパースポーツ)・シンプルな奴(普通のバイク)】
【ハンドルとシートの間にガソリンタンクがある(普通のバイク)・無い(スクーター)】【うるさい(カスタム車)・静か(ノーマル車)】
・・・他は、せいぜい【大きい・小さい】くらいだ。メーカーや個々のモデルの名称、排気量の違い、バイクとスクーターの操縦法の違いetc.
全て知らん。「クラッチ?そんな店あったっけ?」って感じだ。まして年式にまで気が向くはずも無い。『昭和』と言う、教科書や大人から聞いた
単語でしか知らない“扉の向こう側の時代”のバイクが、まだ現役で走ってる事に驚いちゃってる。

「んで、この骨董品バィクが何なのぉ?」
「ちょっと考えてみ・・・とっくに生産中止されてる、ビンテージモデルなんだぞ?」
「ん~~~?」
「そう簡単には、手に入らないって事だ。中古車にプレミア付いてんだよ」
「ぁ、そっか!」
「ちなみに、このドリーム何とかってのは幾ら?」
「ビンテージモデルの値段は、色々と難しいからなあ・・・・
 年式・人気の色・何より状態。あんま壊れてなくて見た目も綺麗なら、当然だけど高いね・・・
 ざっと調べてみたけど、コンディション良いと300万円オーバーも珍しくないよ」

紅葉と亜美は値段を聞いた途端にビビった。このバイクに、そんな価値があるとは・・・地球の貨幣の価値を知らない。てゆ~か『働いて稼ぐ』
『金でモノを買う』って概念が無いバルたんは、不思議そうにキョトンとしてる。でもまあ『お金ってのは大事な物』って事は伝わったらしい。

「まぢかぁ~~~~~~~~っ!?!?」
「・・・お父さんの車より高い」
「値段だけの問題じゃないんだよ。まず当然だけど、数そのものが少ない。
 今も乗ってるようなマニアは、余程の理由が無きゃ手放さない。
 専門店にしてみりゃ“置いてるだけでステータスな看板”だから、いちおう商品でも売りたくない。
 早い話、中古車市場に出回る事すら難しいんだよ・・・・ここまでは解った?」
「ぅん、何となく解った」
「存在してるだけでも凄い希少品って事ね」
「そ~ゆ~事」

美穂は原チャリ免許しか持ってないけど、紅葉と亜美よりは興味あるようで多少の知識があった。とは言っても、スマホで中古車の値段を見た時は
正直ビビった。ビンテージ品は、買うだけでなく維持するのも大変である。最近のモデルと違って、頻繁に故障する。故障した場所によっては、簡単に
パーツが入手できない。乗りにくい。燃費が悪い。保険料も高いetc.・・・よほど好きじゃなきゃ乗ってられない。

「そんなビンテージモデルを改造した奴が、警察に保管されてたんだ。変だと思わない?」
「・・・私達くらいの歳で、そんな簡単に買えるもんじゃないね?」
「そぅだょねぇ」
「ちなみにナンバープレートが外されてたよ」
「・・・盗難品?」
「そうとしか考えられないね・・・そんでもってまあ、ここから本題なんだけど」

スマホを操作して、昨夜の【盗難車情報】を見せる。鈴梅市在住のドリームCB750FOURオーナーが、盗まれた愛車の情報を呼び掛ける書き込み。
『祖父が若い時に購入し、父から自分へと乗り継がれた、我が家の家宝とも言える愛車です。情報をお待ちしてます』ってコメントが、気の毒に拍車かける。

「割と近いし、色が警察で見たのと同じだし、この画像と同じ傷があった。この人ので間違いない」
「人の物を盗むなんて、考えられないばる。持ち主さんの元に戻るといいばる」
「そぅだねぇ~」
「紅葉が聴いた『帰りたい』『一緒に走りたい』って声、ひょっとしてさ・・・・
 このバイクが『持ち主の元へ帰りたい』『持ち主と一緒に走りたい』って願った声じゃない?」
「ぅんっ!ぁりぅるっ!ぉ爺ちゃんの代から大事にされてんだもん!
 バィクも寂しぃんだょっ!家ぇ帰りたぃし、持ち主さんの運転で走りたぃんだょ!」
「『バイクの願い』に、妖怪が反応して依り代にしちゃったの?」
「妖怪は専門外だけど、まあそんな感じだと思う」
「ミホすげ~っ!!火車が出た謎が解けちゃったっ!!」

勢いで「さすが年の功!!」と言いかけたが、それ言っちゃうと美穂が激怒するし亜美に説教されるから、寸前で黙って慌てて口を押さえつけた。
美穂は一旦黙って、湿布した左腕を三角巾で吊ってる紅葉を眺めてから、昨夜に思った事を訊いてみる。

「・・・なあ紅葉?」
「何~?」
「考えたんだけどさ・・・火車ってのが復活して暴れないうちに、浄化しちまったらどうだ?
 場所は警察の裏庭で間違いない。紅葉みたいにハッキリ特定できないけど、何か嫌な感じしたんだ」
「ん~~~~~~~~~・・・・・困ったな」
「出来ないのか?」
「ぅん、出来なぃ。ァタシゎ闘う方法しか知らなぃの」
「お祓いには、専門の人がいるんだ?」
「ぅん」
「横の繋がりないのか?お祓い屋に連絡できないのか?」
「ぅん・・・YOUKAIスマホと取扱説明書が、宅急便で届ぃただけ。他ゎ何も知らなぃの」
「不便だな」
「たぶんだけど・・・・ァタシまだ修行中だから、教ぇて貰ぇなぃんだと思ぅ」
「『自力で解決して、経験を積みなさい』って事なのかな?」
「そぅそぅ、それ」
「紅葉ちゃんは強いのに、まだ修業中ばる?」

戦わずに済めば良いのに越した事は無いが、どうやら美穂の目論見はダメなようだった。こうなったら仕方がない。昨夜の電話で話した通り、
切り札なのに負傷中な紅葉に負担かけないよう、自分とバルたんとで頑張るしかない・・・・G3-Xと科特隊の援護もあればモアベターだから、
バルたんが迂闊な事しないよう釘を刺しとこう。ただでさえピリピリした雰囲気なのに、心を逆なでするような事をしちゃうのは拙い。


―昼休み:2年B組―

何やかんやで順調に事が進んでるんで「今日はミーティングお休みしようか」って事になり、皆それぞれ好き勝手に、弁当を広げたり売店や食堂へ
行ったりした。紅葉と亜美は「たまには美穂と3人で食べようか」と、弁当を手にC組へ行こうとした。そこへ、標準より若干ふくよかな体型した
男子生徒が寄ってくる。相撲部の小出部太(こでぶ ふとし)だった。

「ちょっといいか?食堂まで来てくれるかな?」
「どぅしたのぉ~?」
「前に『焼きそば作るのに、でっかい鉄板あったらいいな』って言ってたろ?
 相撲部で使ってるホットプレート使わせてもらえるように、部長に頼んでみようかなと」
「まぢ!?ゎかった、行くっ!!ァミも一緒に行こぅっ!!」
「うん」

言った傍から、弁当を手に教室を飛び出してった。それを亜美が「ちょっと待ちなさい」と呼び止めながら、小出部と追いかける。

「相撲部の部長さん、話した事ゎ無ぃけど知ってるょ~」
「前に、全校集会で表彰されてたよね。個人戦で全国3位だっけ」
「俺達は、ハッキリ言って弱いんでねえ。相撲部は部長で保ってるようなもんだ」

その部長ってのは、3年生の石松英邦と言う。去年の春、親の仕事の都合で熊本の高校から編入してきた。恵まれた体格とセンスで中学生の時から
角界からスカウトされてたが、親から「高校くらいは卒業しときなさい」って言われたんで進学した。卒業後は猪鼻部屋への入門が内定してるんで、
他の3年生みたいに受験に追われる事も無く「落第しなけりゃいいや」と、気楽な高校ライフを送ってる。

「ぅゎ~っ・・・こんなに繁盛してんだ」
「お弁当派だから、来た事なかったもんね」

【雲外鏡騒動】で校舎の1階と2階が酷い有様だけども、幸い食堂は離れで独立してたんで無傷で平常営業してる。安くて美味いと評判で、連日大繁盛。
回転が速いから待ち時間は少ないが、今日も生徒達の行列が出来上がってた・・・ちなみに文架市内の高校や大学の学食は、街でもチラホラ見かける
『龍神うどん』が仕切ってる。太っ腹な2代目組長・・・間違えた、社長が「育ち盛りの学生達に、美味くてボリュームある食事を安い値段で」と、
店で出すのと大して変わらない質のメニューを出血大サービス価格で提供してくれてる有難い存在だ。

「ァミ、ぉ弁当ちょっと持っててっ!」
「ちょ、クレハ!?」

物の見事に雰囲気と漂う匂いに釣られちゃった紅葉は、亜美に弁当を押し付けると、小出部と一緒に食券販売機の列に並んでしまった。チビの大食いで
見た目に合わない巨大弁当を持って来てるが、まだ食うのか?ケガの回復で、通常よりエネルギー消費してるんだろうか?

「ぉ待たせ~っ!!」
「・・・それも食べるんだ?」

暫く待ってたら、メンチカツ定食を乗せた盆を持って戻ってきた。ちなみに小出部は、コロッケカレーと天麩羅うどんだった。席を見渡したけど石松は
まだ来てないらしい。先に食いながら待ってようと、3人は空いてるテーブルに座ってランチタイムにした・・・「片手でも食べやすいように」と、
ママが作ってくれた特大おにぎり弁当を広げ、その隣にメンチカツ定食を並べ、紅葉は猛烈な食欲で片っ端から平らげてく。亜美は見慣れた光景だけど、
小出部はポカ~ンと呆けて食うのを忘れて眺めてしまう。175cmで90kgあって相撲部の自分より食うとは。この身体の何処に入ってくのか?

「このメンチカツ美味しぃっ!ァミ1個ぁげるっ!」
「いや、あの・・・貰ったって食べきれないんだけど」
「ぢゃぁ、ハンバーグ1個ちょぅだぃっ!」
「・・・2個あげるよ」
「まぢ!?ぁりがとっ!!」

そんなこんなしてたら間もなく、相撲部部長の石松英邦が来た・・・180cmを軽く超える身長で、横幅も凄い。特注の制服がパツンパツンだ。
こっちへ来る前は熊本で生まれ育ったんで、訛りが抜けなくて熊本弁で喋る。朗らかな物腰だが、前の学校でチョイ悪だったって噂だ。

「待たせたのうっ!!相撲部の石松たいっ!!」
「部長、ちぃ~~~っす!!」
「おうっ!!」
「こんにちゎ~っ!!2Bの源川紅葉でぃ~っす!!」
「平山亜美です、始めまして」
「よろしくばいっ!!」

両手に持ってきた2つの盆をテーブルにドンと置く。片方は唐揚げ定食(ごはん超盛り)で、もう片方は竹輪天うどんとカレーライス超盛りだった。
それに加え、ペットボトルのコーラが3本。相撲の実力に加え『学食で1回に1000円遣う男』として有名である。折り畳み椅子に座った瞬間に
聴こえたギシって音は、椅子が「助けてくれ」と絶叫してるみたいだ。余談だけど・・・肥えすぎて解り難いが、両親と2人の弟は超絶美男美女らしい。

「部長、さっそくなんですけど・・・・」
「待ちんしゃい、腹が減ってるたいっ」
「あ、すいません」

石松は嬉々とした顔で箸を持って「頂きますばい」と手を合わせるなり「ズゾゾゾゾゾ~ッ」って豪快な音を周囲に響かせながら竹輪天うどんを啜る。
1分ちょいで汁の一滴も残さず平らげ、続いて超盛りカレーライスを食う・・・食うと言うより、飲み干してる。カレーライスも空にして、ようやく
落ち着いたのか。唐揚げ定食を普通ペースで頬張りながら、「話を聞かせろ」と小出部に催促した。

「・・・・・・・ってワケで、ホットプレート使わせて貰えないっすか?」
「ァタシからも、ぉ願ぃしま~すっ!!」
「ああ、構わんたい。相撲部は『ちゃんこ鍋体験教室』じゃから、土鍋とコンロしか使わんたい。
 どうせ空いてるもんじゃ、好きに使うとよかっ!!」
「まぢっ!?やったぁ~っ!!」
「ありがとうございますっ!!」
「助かります」
「ぉ礼で部長さんゎ、焼きそば2杯までタダにしちゃぉぅっ!」
「そりゃ嬉しいのうっ!!御馳走になるたいっ!!」

呆気ないくらいスンナリと話が纏まっちゃったんで、後は年齢相応なネタで盛り上がりながら4人でランチタイムを過ごした・・・
石松は唐揚げでごはん頬張って味噌汁で胃に流し込みながら、テーブル挟んだ向かいの亜美を時々チラッと眺める。大人しくて目立たないが、学内で
TOP10圏内は確実なルックス&ナイスバディで、意外と隠れファンがいる。こうして間近で眺めると、眩しくて後光が射してるように感じてしまう。
如何にも年頃の娘らしい小さな弁当を、上手な箸使いでチマチマと食べてる仕草にも萌える。

(・・・かわいいのう~)
(どうしよう、話が続かない・・・お高くとまってるなんて、思われなきゃいいけど)

亜美はと言うと、『石松が巨体だから、前を向きゃ勝手に視界へ入る』ってのが主な理由だけど、異性とランチしてるって事を軽く意識してしまってた。
優麗祭で紅葉のサポートしてたら、クラスメートの男子とは普通に接する事が出来るようになった。だが人見知りで奥手な所為で、初対面の男子と話すのは、
苦手である。会話は紅葉に任せて、時たま相槌打つくらいだ。石松の目には、それが逆に「奥ゆかしい子」と映って余計に心ときめいてしまう。
亜美と何か話したいけど、ネタは無いか・・・・・あ、そうだ。

「聞いたんじゃけど、いきなり楽器の練習を始めたとね?」
「あ、はい・・・」
「そぅでぃ~すっ!!ァタシがベースで、ァミゎピァノでぃす!!
 C組のミホがドラムで、ボーカルゎ内緒っ!!ァタシとミホは超初心者だけど、聴きに来てねっ!!」
「・・・って感じです」
「見に行くたい・・・平山さん、ピアノやっとるとね?」
「ええ、はい」
「上品でカッコいいのう~。楽しみにしてるばいっ」
「あ、ああ、ああ、、あ~りがとうございますっ!!」
「・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・」

初対面だと言うのに互いに妙に意識してしまい、俯いてモジモジしてる。空気を察した紅葉はニィ~っと笑い、亜美と石松を放置して小出部と話しだした。
肝心の2人は、それっきり話が続かない。亜美は食い終えた弁当をハンカチで包んだら、紅葉が持ってきてくれた水をチビチビ飲んで黙りこくってるし、
石松も頬を真っ赤に染めたまま唐揚げ定食を平らげ、3本目のコーラを飲みながら俯いてる・・・まだ生徒の行列は続いてるんで、食い終えたのに座ってる
のはマナー違反なんで「行こうか」って空気になって立ち上がり、食器置き場に盆を置いて食堂を後にした。出入り口まで来たところで改めて石松に礼を述べ、
「それではまた」と別れる。教室に戻る廊下でも、亜美は黙って俯いてた。紅葉がその様子を如何にも楽しそうに眺めてる。

「・・・・・・・にっひっひっひっ」
「・・・何?」
「ひょっとして、ァミに春が来た?」
「な、何でよっ!?わた、私は別に、石松さんの事は・・・」
「へ?ァタシ一言も、ブチョーさんの話なんかしてなぃんですけど~?」
「!?」
「一目惚れ?」
「なっ、何を言ってんのよっ!!止めてよっ!!」
「ブチョーさん、すっげーぃぃ人ぢゃんっ!・・・応援してるょ」
「止めなさいってばっ!!」
「にっひっひっひっひっひっひっ~!!」
「こらあっ!!」

ケタケタ笑いながら歩く紅葉の肩を、頬を染めた亜美がバシバシ叩きながら教室へ向かうのであった・・・石松も石松で、小出部が何やら話してたのを全く
聞いてなかったり、壁に頭ぶつけたり、階段で踏み外して転げ落ちたりしていた。どうしよう?完璧に一目惚れである。思い切って告ってみようか?
でも仮に上手く事が進んでも、来年の春からは猪鼻部屋のある東京へ行ってしまう。いきなり遠距離恋愛か、厳しいなあ。
 

紅葉と愉快な仲間達・バルたん編入作戦2章②

 投稿者:ゾルダⅢ世  投稿日:2018年 5月12日(土)19時25分21秒
返信・引用 編集済
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―文架警察署の一室―

だだっ広くて殺風景な部屋で、記者会見の準備がされていた。正面に長テーブル。向かい合ってズラリと並んだパイプ椅子にマスコミ関係者が
座って、カメラやボイスレコーダーやら準備してる。その後ろに、各テレビ局のカメラ。茶の間で馴染みなアナウンサーの顔もチラホラ見られた。
やがて定刻となってドアが開き、文架警察署長と小沢澄子とムラマツキャップが並んで入室。フラッシュのシャワーを浴びながら一礼した。

「本日は、お忙しい中ご苦労様です。文架警察署長の、山田太郎です」
「G3チーム責任者の、小沢澄子管理官です」
「科学特捜隊ムラマツ班の、ムラマツ・トシオです」

止まないフラッシュに照らされながら、再び一礼して座る。制服警官が入ってきて、背後のホワイトボードにネットに出回った画像を引き伸ばして
プリントしたモノ数枚を貼りつけて去った。署長が火車の画像を指さしながら、話を始める。

「まずはこの場をお借りして、被害に遭われた方々の御見舞いを申し上げます。
 昨夜、突発的に発生いたしました、文架市中央通りの大規模交通事故及び火災についてですが・・・・
 既にインターネットに流出しております、こちらの炎を纏った未知の生物による【無差別テロ事件】と断定いたしました。
 従って文架警察署に捜査本部を設置。G3チームと科学特捜隊の合同捜査班で、事件の解決に当たる所存であります」

科学特捜隊と警察が、事件を公式に【未知の生物によるテロ】と断言した。どう考えても、今日のトップニュース。会場に集まった報道陣は、
人として不安になる反面で、職業病と言っても差し支えない高揚感に支配されてテンションが上がる。

「はい」
「どうぞ」
「その狐みたいな生物は、何なのですか?いわゆるアンノウンなのか、それとも宇宙人でしょうか?」
「情報が、余りにも少なすぎます。まだ何とも、お答えできません」

汗を拭き拭き答える署長と、ザワつく報道陣・・・小沢澄子が「よろしいでしょうか」と発言の許可を求めて立ち上がり、特徴的なクリクリとした瞳で
並ぶ報道陣を見回しながら切り出した。

「あくまでも私の個人的見解ですが、少なくともアンノウンではないと確信してます」
「その根拠は?」
「まず、今までのアンノウンと明らかに違う身体的特徴が見られます。装飾品や身体の文字に、和の趣向を感じます。
 それとアンノウンは、あくまでも超能力者と思われる人々をターゲットとしています。
 このような無差別テロを起こす事は、今までのアンノウンの行動パターンからして考えられません」

がやがやがやがや・・・
がやがやがやがや・・・

「はい」
「どうぞ」
「先日G3-Xが大破したと言う情報を得たのですが、昨夜のような有事の際に出動可能なのですか?」
「本日の午前に、修理とテストが無事終了しました。装着員の体調も問題ありません」

ざわざわざわざわ・・・・

「ムラマツ隊長、よろしいでしょうか?」
「はい、どうぞ」
「『先日ジェットビートルと交戦して羽里野山付近へ墜落した』と言う、未確認飛行物体との関連はありますか?」
「その未確認飛行物体に搭乗していた宇宙人の死体を、幾つか回収しております・・・
 どれも損傷が激しくて詳細が不明でありますが、昨夜の生物との共通した特徴は見られません」
「その未確認飛行物体から、目ぼしいテクノロジーは発見できそうですかねえ?」
「軍事機密が絡んできますので、その質問にはお答えできません」

恒星間飛行が可能な点では地球より優れてるけど、「形が巨大なケツで、艦内も至る所ケツだらけで、見つかった物がエロ本くらい」とは話したくない。
パリ本部からは「メテオールの研究材料にもならないし、子供の教育によろしくない。さっさと解体処分せよ」と通達が来てる。

―平山家の居間―

学校が終わり、紅葉と亜美は帰り道でバルたんと合流。毎度の如く亜美の家に邪魔して、ソファーで寛ぎながらテレビで記者会見を観ていた。
当事者だってのに気楽なもので、「小沢管理官って人、凛としててカッコぃぃね~」などと呑気な事を言いながら、出された茶と菓子を食ってる。
キッチンでは母親が晩ごはんの支度中。父親はまだ帰宅してなくて、弟は学習塾の日で不在だ・・・ちなみにバルたんについて、亜美の家族は
「ちょっと変わった子」くらいにしか思ってないらしくて、至って普通に接してる。変わり者の扱いには、紅葉で免疫ついちゃってるのだ。

「うぷっ・・・『損傷が激しい』って・・・3人とも、派手に暴れたのね」
「ムカついたんで、つい木っ端微塵にしちゃったばる~・・・・このお菓子、美味しいばるっ!」
「舟和の芋ょぅかんだょっ・・・後で美穂とバルたんから聞ぃたけど、ァタシゎ異次元に吹っ飛ばしちゃったみたぃ」
「美穂ちゃんと戦った奴も、悲惨な最期だったばる~。おっぱいの事、話しちゃダメみたいばる」
「ぅん!ミホゎ、ぉっぱぃちっちゃぃのコンプレックスだからね~。ァタシも前に、それで喧嘩しちゃった」
「・・・・やれやれ」

バド星人共の最期を、軽~く復習してみようか。

リーダー:頭が潰れて全身が捻じれた上に、血の一滴も残さずブラックホールに吸い込まれる。
その①:串刺しにされてから、ミスティースラッシュで真っ二つ。その後、勝手に燃えて灰化。
その②:破壊光線で木っ端微塵。
その③:先代ゲンジの必殺技クリムゾンスマッシュで灰化(誰も知らない)
パイロット3匹:ウルトラマンの光線で木っ端微塵。

うん・・・地球侵略に来て真魚を拉致した代償とは言え、なかなか悲惨な死にっぷりだね!
紅葉とバルたんは血生臭い話題を他人事みたいにケラケラ笑って喋くりながら、舟和の芋ようかんを楊枝で切って口に運んでは茶を啜ってる。
亜美だけが、ちょっとだけバド星人達に同情したみたいに溜息した。実際に戦ってないし、具体的な被害にも遭ってないからだろうか。


―記者会見場―

記者会見が続いてる・・・

「宇宙人達の死因は何でしょう?『争ってるような物音と爆発音を聞いた』と、現地で聞きましたが」
「それについても不明で、調査しております・・・
 現場で複数の足跡が発見されましたが、市場に流通している、どの靴にも該当しません。
 千石釜池の柵の一部が切断されていましたが、切り口を調べたところ、非常に鋭利な刃物で切断されたと判明しました」

わいわいがやがや・・・

「先日の会見で『未確認飛行物体が2機存在して、もう1機はロストした』と伺いましたが、その後の足取りは?」
「残念ながら、掴めておりません・・・
 非常に高度なステルス性能と、保護色で周囲に溶け込む機能を有しております。
 着陸予想地点を中心に全力で捜査に当たっておりますが、発見には困難を伴うと予想しております」


―平山家の居間―

「ボク達の事を話してるばる~っ」
「レーダーに映らなくて、色ぉ周りに合ゎせて変ぇれるの!?」
「そうばる~っ!そう簡単には、見つからないばる~っ!」
「すげ~っ!!バルタン星人すげ~っ!!ァニメみたいだぁ~っ!!」

紅葉が興奮して騒ぎまくった。ミリタリーの知識は皆無だけど、パパが時々レンタルしてくるアニメや特撮を一緒に観てるんで、SF的な知識は多少ある。
苦笑して眺めてた亜美は、「そう言えば、バルたんに訊いてみたい事あったんだ」と思い出し、紅葉がひとしきり騒いで落ち着いてから訊ねてみる。

「バルたん達さ、何か理由あって羽里野山へ着陸したの?」
「そりゃ勿論『ヒロイン達が住む街が近いから』ばる~。こうして会えて、話が進んでるばるっ」
「・・・・それ言っちゃうと、元も子もないから、もうちょい尤もらしい理由にしてくれるかな」
「じゃあ、こうするばる・・・・元から日本を拠点に地球観光しようと思ってたばる。
 ごはん美味しいし、軽井沢に行きたいし、ごはん美味しいし、ディズニーランド行きたいし。
 でも宇宙でバド星人共に襲撃されたんで、ちょっと進入角度が予定と狂ったばる。
 東京湾沖の海底にでも滞在しようかと思ってたけど、羽里野山へ着陸したばる」
「妥当な理由ね・・・・宇宙船は、故障しちゃってるの?」
「応急処置したから、地球の引力圏内を飛ぶには問題ないばる。
 でも宇宙旅行は無理なんで、本国に修理ドッグ艦の派遣を要請したばる」
「ぢゃぁ、暫くゎ地球で暮らすんだねっ!」
「そうばる~っ」


―記者会見場―

とっても美人な女性の記者が、質問を求めて立ち上がった。胸の名札に『桃井令子』と書かれてる・・・・ショートカットからのぞく、艶っぽい首筋。
キリっと意志の強そうな目と、綺麗な鼻筋と、可憐な唇。ジャケットの下に着てるセーターの見事な膨らみ。パンツに浮いた尻のラインも素晴らしい。
両隣の記者は「腰が抜けるほどヤリまくりてえ」とか「罵倒しながらハイヒールで踏んで欲しい」とか思った。小沢管理官は自分の乳と比べて溜息を吐き、
山田署長とムラマツキャップはズボンのポケットに手を突っ込んで勃起したチンチンを押さえた。

「数日に渡って聞き込みを続けているのですが、羽里野山の円盤騒動以来、市内各地で
 『両腕が巨大なハサミの不思議な少女を見た』と言う情報を得ています。
 昨夜、文架大橋で謎の生物を撃退した“2人の不思議な少女”の一方と、特徴が一致しています。
 消えた未確認飛行物体と何らかの関りがあると思われますが、科特隊の見識は如何でしょうか?」
「その情報は、こちらでも得ています。ただし今のところ、情報が少ないため何ともお答えできません」
「ちなみに『楽しそうに飛んでいた』『川遊び中に流された犬を助けてくれた』『綺麗な歌声で癒された』
 『家電量販店で、新作ゲームの映像を眺めてた』『クレープ食べて喜んでた』など、
 証言を聴く限り、敵意があるとは思えない行動をしています。“少女”と遭遇した場合の対処は、どうなのでしょうか?」
「相手が未知の存在だけに『遭遇した時の出方次第で対処する』としか、お答えできません」
「一歩間違えれば、友好関係を築けたはずの知的生命体と星間戦争になる可能性もあります・・・
 “少女”と遭遇した場合、冷静で的確な対応をして頂きたいと願っております」
「その事は、我々も承知しております。戦うだけが科特隊の仕事ではありませんので」


―平山家の居間―

「ぁの女性記者さん、カッチョぇぇぇ~~~~~っ!!」
「皆あんな人だったら、バルたんと直ぐ仲良しになれるのにね。
 てゆか、バルたん・・・・結構あちこち出歩いてたんだね。目撃証言いっぱいじゃん」
「お散歩は日課ばる~。ついでに唄ったり、ワンちゃん助けたりしたばる」
「大丈夫かなあ?残念だけど、皆が善人とは限らないんだよ」
「うん・・・しばらくは気をつけるばる」

記者会見は続いてたけど、3人は「そろそろ練習しよう」って空気になってテレビを消した。とは言っても、紅葉は大丈夫なんだろうか?
亜美はダメ元で「今日は帰って休んだら?」と言ってみたんだけど、頑として聞かないんで自宅へ連れて来た。本人は、痛々しそうな見た目に反して
ケロッとしてベースギターを取り出してる。

「ぁ、ぃけね!薬ぉ塗らなくちゃ!」

鞄をゴソゴソ探って、カットされたガーゼとチューブ入りの軟膏を取り出した。包帯を解いてガーゼを剥がし、肌についてる乾いた薬を拭き取ってから、
新しいガーゼに軟膏を塗り広げて貼りつけて包帯で固定する・・・教室へ来た時から気になってたけど、薬草の匂いが凄い。この薬の所為みたいだけど、
こんな軟膏は初めて見た。何処で処方されたのか?

「その軟膏、凄い匂いだね。何処の薬局に置いてるの?それとも漢方薬店で買ったの?」
「これね~・・・何処の病院ぇ行こぅかと思ってたら、ママに『穴場で腕のぃぃ病院がぁる』って言ゎれたの」
「へぇ~っ」
「場所が陽快町なんだょ~。家からだと優麗高と逆ぢゃん。でも駅の方の病院ゎ混んでるから、面倒だけど行ってきた」
「あんな方に、整形外科の病院なんてあったっけ?」

陽快町ってのは、古くからある昭和の風情が残ってる町である。普段の生活で行く場所とは逆の方だし、リバーサイド鎮守みたいな遊べる場所も無い。
大別すれば広院町や下鎮守町と同じ『鎮守地区』だけど、小6の時に駄菓子屋の婆ちゃんが亡くなって閉店しちゃってからは行った記憶が無い。

「え~とね・・・YOUKAI何とかってィンチキ臭い寂れた店、知ってる?その隣だったょ」
「んんん~~~~?」
「すげ~、ちっちゃい病院!てゅ~か、普通の古い家みたぃだった。ボロッボロの看板だし。怪しくね?」
「初耳だわ」
「『粉木整形外科』だって」
「知らないなあ・・・で、そんな薬を処方されたの?」
「薬局ぢゃなくて、その病院の先生が作ったんだよ~」
「・・・へっ?」
「時代劇のぉ医者さんが使う“ゴリゴリする奴”に、葉っぱ入れてゴリゴリゴリって」
「・・・はあ」
「でもこの薬、すっげ~良く効く~!もぅ痛くなぃもん!」
「薬に痛み止めの成分が入ってるだけでしょうよ。やっぱ無理しちゃダメだよ」
「痛くなぃもんっ!指ぉ動かしたら、リハビリになるもんっ!」
「ったく・・・・・知らないからねっ」

こうなっちゃうと紅葉は聞く耳なしなんで、亜美は諦めた。自分もピアノ練習しないと、本番で壊滅的な演奏しちゃうから頑張らないとだし。
バルたんが『100万本のバラ』を唄ってみたいと言ったんで、今夜はそれを重点的に練習する事にした。
「1,2,3」で亜美がピアノを弾き、紅葉が拙いながらもベースを弾く。バルたんは歌詞もメロディーも完璧に覚えていて、見事な歌声を披露した。


―河原の道―

鬼の顔を模した装飾のカウル、背骨と肋骨を模した装飾を施したエネルギータンク、西陣織のカバーを貼ったシート、彼岸花を描いた九谷焼のサイドカバー。
随分とおかしな格好をしたバイクが道端に停まってた。そして謎の青年がシートに跨って、缶コーヒー飲みながら山逗野川を眺めている・・・
だいぶ長い事、悩んでる風だったが、やがて意を決して手首の無線機に話しかけた。

「なあ、良いのか?爺さんに、新しい設定が盛られてんよ?」
≪はあ?何を寝惚けとるねん?んなもん、とっくの昔に本編で書かれとるやろが
 妖怪から受けた特殊な傷を専門に治療する、退治屋専門の整形外科医もやっとるねん≫
「いや、聞いてねえよっ!」
≪第8話『恋せよ男子』で、おまんがケガした時に治療してやったやろ≫
「あの話は、タイトルだけで未筆だっ!!」
≪そうやったっけ?・・・まあええわ≫
「良くねえよっ!!」
≪過ぎた事うだうだ言っとらんと、さっさとパトロールせいっ!火車が出るかも知れんやろがっ!≫
「どうせ、俺の出番なんか無いだろうが」
≪やかましいっ!さっさと行かんかいっ!≫
「・・・ちぇっ」

謎の青年は舌打ちして通信を終え、さも億劫そうに愛車のエンジンを始動して走り去るのであった。


―深夜:美穂の部屋―

風呂上がりでジャージ姿の美穂が、缶ビール飲みながらスマホをいじってた。真剣な表情だけど、気晴らしのゲームって感じではなさそうである。
スラスラと画面に指を這わせては食い入るように眺めてたが、やがてポツリと「ビンゴ」って呟き、ビールの残りを一気に飲み干した。

~~~~~~~~~~美穂の回想~~~~~~~~~~

今夜も律の家に邪魔して、家族揃っての晩ごはんタイムを挟んで9時くらいまでドラムを教えてもらってから、礼を言って別れる・・・
貴重な時間を割いて教えてくれてる律に悪いんで、練習中はドラムの事しか考えずに叩き続けてた。だが1人になると、朝に亜美と話した時の
自分の台詞が浮かび上がって気になってしまう。「思い過ごしなら、それでいいや」と、今夜のうちに確かめるだけ確かめてみる事に決めた。

「っと・・・・その前に、釘刺しとかなきゃね」

スマホを出して紅葉に電話したら、数コールしてから毎度のキンキン声が響く。

≪ぅぃ~~~~~~~~~っす!!!≫
「よぉ・・・学校で会えなかったから気になってさ。ケガど~よ?」
≪もぅ治ったっ!!≫
「嘘こけっ!!無理しないで、ちゃんと治すんだぞ」
≪ゎかってるょっ!ぁりがとっ!≫
「亜美の家か?」
≪ぅん!バルたんも一緒だょ!≫
「そっか・・・近いうちに、揃って貸しスタジオに行こうな。
 全員で音合わせしないと拙いだろ?あたしが適当なとこ探しとくからさ」
≪そぅだねっ!2人に伝ぇとく!≫

ここで一旦話を区切ってから、本題に入った。

「ところで1つ訊くけどさ・・・・・」
≪何~?≫
「昨日の妖怪、また近いうちに出るよな?」
≪ぅん!でもバルたんに受けた傷ぉ治すのに、ちょっと時間かかるかも≫
「どのくらいだろうな?」
≪とりぁぇず、今夜ゎ大丈夫だね。何も感じなぃから・・・何で?≫
「これだけはキツク言っとく・・・・次に出た時は、絶対に動くな。
 あたしとバルたんが追いつめるから、紅葉はトドメだけに専念しろ。解ったな」
≪ぇぇ~~~~・・・・・・≫
「解ったなっ!!!てゆ~か解れっ!!!」

紅葉の反応に、思わず語気が荒くなった。剣幕にビックリしたのか、紅葉は無言になってしまう。

≪・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・≫
「もしこれ以上ケガしちまったら、ライブどころじゃないだろっ!!
 紅葉だけの問題じゃねえっ!!バルたんの為だし、ドラム教えてくれた律の為だしっ!!
 無理して何かあったら、取り返しつかなくなるんだよっ!!たまにゃ、あたしの言う事聞けっ!!」
≪ぅん・・・・ぁりがとぅ≫
「ああ・・・・じゃ、2人にヨロシク。また明日な」
≪ぅんっ!バィバィっ!≫

まず、気になる事の1つは解決。次が少々厄介だ。火車が何処に出るか解ったもんじゃないんで、何処も厳戒態勢。あちこちに警官が立っていて、
制服姿の美穂を見かけると「危険だから、早く帰宅しなさい」と言われる。帰って着替えた方が良さそうだ。中央通りの現場検証が終わって渋滞も
一段落したんで、定刻通りに来たバスに乗ってアパートへ・・・制服を脱ぎ捨ててパーカーを着て革ジャンを重ね着。下はジーンズって格好に着替え、
スニーカーを履いてアパートを出る。原チャリで出発して、文架大橋を渡ってからは裏通りを選んで警察署に向かう。警官や監視カメラの無い住宅街の
細っこい道に原チャリを止め、ポケットからカードデッキを出してバックミラーに向けた。

「変身っ!」

仮面ライダーファムに変身してミラーワールドへ。あっと言う間に警察署へ到着し、押収された改造バイクが保管されてる裏庭で現実世界に戻る
・・・・・同時に【雲外鏡騒動】の時にも感じた“血の匂いがする直前の、平常が壊れようとしている緊張感”に包まれた。予想が的中。
火車とやらは、この辺りから出現したに違いない。だが妖怪は守備範囲外なんで、具体的に潜んでる場所までは特定できない。もしも紅葉が一緒なら、
復活しないうちに浄化できるだろうか?でもケガ人に無理させたくない。とりあえず、調べるだけ調べてみよう。

「・・・・・・・・・・・・・・」

バイクを端から順に眺める。マスクの能力で、僅かな照明や月明かりでも昼間のように見る事が出来た・・・そして間もなく、気になる1台を発見。
ビンテージバイクがベースになってる改造車だった。スポークホイール、空冷4気筒エンジン、シンプルな構造の足回り、大柄な車体・・・
カウルや変形ハンドルやシートの族仕様だが、タンクやサイドカバーは原形が解るようノーマルのままにされてる。ちなみに、ナンバープレートが無い。

「おいおい・・・これ、10代のガキが簡単に買えるようなもんじゃないだろ?」

一瞬で「真っ当な入手方法じゃない」と直感し、何か解りやすい特徴は無いかと、四つん這いになって下回りまで念入りに観察した。後で調べる為、
細かい傷の1つ1つまで、頭に叩き込んでおく。

「誰かいるのか!?」
「・・・・・・・・・やべっ」

声と同時に、懐中電灯の光が裏庭を照らす。夢中になり過ぎて、警官の接近に気がつかなかった。咄嗟に伏せて様子を窺い、警官が他を向いた瞬間に
最寄りのバイクのバックミラーへ飛び込み、ミラーワールドを伝って自分の原チャリまで戻って変身解除・・・収穫はあった。火車が出現した理由を、
美穂はハッキリと確信しながら帰路につく。

~~~~~~~~~~回想終了~~~~~~~~~~

スマホ画面に【盗難車情報】と表示されていて、愛車の盗難に遭った持ち主がアップした画像・特徴・手掛かりを求めるコメントなどが記載されてる・・・
美穂が見ていたのは、先刻のビンテージバイクと同じ色したホンダ・ドリームCB750FOURの画像。持ち主の住所は鈴梅市内で、被害に遭ったのは
3週間ほど前だった。 http://www.jsae.or.jp/autotech/4-16.php

『祖父が若い時に購入し、父から自分へと乗り継がれた、我が家の家宝とも言える愛車です。情報をお待ちしてます』
『左クランクケースに、転倒した時の傷あり』

コメントと一緒に、さっき眺めたばかりの特徴的な傷の画像・・・間違いない。紅葉が火車との戦闘中に聴いた『帰りたい』『一緒に走りたい』って
声は、このバイクが『持ち主の元へ帰りたい』『持ち主と一緒に走りたい』と願った声だった。

「クソ・・・バカが余計な事しやがった所為で、妖怪が現れて街が滅茶苦茶で紅葉がケガして・・・・
 許せねえ・・・・妖怪退治したら、盗んだ奴にコッテリおしおきしてやる」

ケガを押してベースの練習に励み、電話では何時もと変わらずに振舞う紅葉を思うと、無性に腹が立ってきた・・・空になったビールの缶を握り潰して
ゴミ箱へ叩き込み、明りを消して布団に寝転がると、決意の光を秘めた目で天井を睨みつける。
 

紅葉と愉快な仲間達・バルたん編入作戦2章①

 投稿者:ゾルダⅢ世  投稿日:2018年 5月10日(木)19時44分59秒
返信・引用 編集済
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―翌朝:優麗高―

亜美と美穂は正門で待ち合わせてから、他愛の無い雑談しながら体育館裏へ向かった。生徒達が昨夜の事件で盛り上がって、ちょっとしたカオス状態。
教師や風紀委員が、あちこちで「歩きスマホを止めましょう!」って呼びかけてるけど、好奇心が勝っちゃって余り効果が無いようだ。
騒がしいのは、優麗高の生徒達だけではない。夜を徹して事故処理が行われたけど、まだ完全復旧してない。中央通りは通勤ラッシュで騒然としてる。
一部の生徒は、バスが大幅に遅れて遅刻確定だ・・・てゆ~か、これだけの事件だから全国規模で知れ渡って、文架市に報道関係者が続々と押し寄せて
生中継でニュースやってる。空を見上げりゃ、テレビ局のヘリコプターが朝からバタバタ飛び回ってる。

「で・・・病院へ寄ってからくるワケね」
「うん、今朝メール来た」

中央通りの騒ぎを、美穂は帰りのバスの中で知った。混雑する路線でもないのに渋滞してるし、パトカーや救急車がひっきりなしに走り回ってる。
変だなとスマホでニュース見たら、中央通りが大変な事になってるではないか。しかも丁度そのタイミングで亜美からメールが来て『公になってないけど
妖怪が起こした事件で、クレハとバルたんが戦った。クレハが軽いケガして帰ってきた』と書いてるんで2度ビックリ。「紅葉は大丈夫かな」と電話して
みたら、かなりコールした後に出たけども、たった一言≪むにゃぁ~?≫って声が聴こえたきり通話が途切れちゃった。もっぺん電話してみたけど出ない。
疲れて寝ちゃったようだ。

「話を聞いた感じ、それほど酷くないみたいだね」
「ちょっと痛がってたけど、ピンピンしてたよ。
 それにしてもまあ、晩ごはん、すっごい食べたなあ~・・・
 今朝も食べるつもりで余計に作っといたクリームシチュー、全部なくなっちゃったよ」
「紅葉らしいねえ」

やがて体育館裏へ到着。周りを見て、いちおう無人なのを確かめる・・・・他人に聞かれたくない話をする時は、ここに来るのが習慣になっていた。
内緒話するのに邪魔が入らないし、天気いい日はポカポカと日が当たって気持ちいい。ちょっと前まで少数だが存在する不良生徒達の溜まり場だったが、
最近【ブラックリスト】の美穂と紅葉が頻繁に来るようになったんで、彼等の足は遠ざかってる。2人を怒らせたら、最悪、命にかかわるもんね。


―文架警察署の裏―

相変わらず置きっぱなしな、違法バイクの群れ・・・妖気の所為だろうか?カラッとした晴天だが、何故かここだけドンヨリしていて気分が悪くなる。
そして、これまでビンテージバイクだけが発してた“声”が、あちこちで湧いている。

≪・・・帰リタイ・・・家ニ・・・帰リタイ・・・≫
≪走リタイ・・・・≫
≪マタ・・・一緒ニ走リタイ・・・≫

時々“バイク達の声”に呼応するかのように、≪ココ~ン≫と言う狐の鳴き声のような不気味な声がする。だが、気がついてる者は皆無。
「ゴゴゴオオオオオ」って地鳴りのような音と共に漆黒の渦が現れ、“バイク達の声”を吸い込んでは消える。



☆アバンタイトル終了~オープニングへ☆
『仮面ライダーゲンジたいそう第二』
仮面ライダーゲンジたいそう第二!! ぅぃ~~~~っす!!




―体育館裏―

「ミホちゃんも大変だったね」
「ったく、長らく御無沙汰だったのに・・・よりによって、いい感じで叩いてる時に出やがって。
 しかも田井中のお母さん狙うなんて、余計に許せねえ。ムカついたからブッ潰した」
「田井中さん、心配だな。また別のモンスターに狙われたりしなきゃいいけど」
「大丈夫じゃないかな。ヒーロー番組って【1回助かった人は、もう襲われない法則】あるじゃん」
「言われてみりゃ、そうだね」
「もしまた出てきやがったって、あたしが護る・・・ただドラム教えてもらってるだけじゃなくてさ、
 晩ごはんまでゴチになってんだ。家族の団欒なんて長らく忘れてたのにね。
 それをまた体験させてもらってんの・・・・田井中の家族は、あたしには大事な存在になってんだ」
「ミホちゃん・・・大事な友達が出来て良かったね」
「うん、そうだな」

それに律は、自分の秘密を知っても受け入れてくれた・・・護れて良かった。

「それにしても・・・目立っちゃったね」
「・・・・・う~ん」

亜美はスマホを眺めて溜息。美穂も言葉を失う・・・亜美のスマホの画面に、火車と戦うゲンジとバルたんが映ってる。文架大橋でゲンジに助けられた
被害者に、カメラが趣味の人がいた。戦いの様子を一眼レフでバッチリ撮影して、それをInstagramやFacebookなんぞに投稿したら、
あっと言う間に拡散しちゃったのだ。当然だが、優麗高の生徒達にも知れ渡ってる。先日の遠足での騒動で、生徒達はバルたんをガッツリ記憶してる。
2Bに至っては、教室で再会を果たしちゃった。昨夜の亜美のメールでは『公になってない』とあるけど、単に公式な記者会見が行われてないだけの話。
『バルたんと謎の鎧武者が、大事故の元凶らしい化け物と戦った』って事は、生徒達の間では既に事実として広まっている。

「全国規模の騒ぎになっちまった・・・紅葉がドジこいて、正体バレしなきゃいいんだけど」
「バルたんの事も、知れ渡っちゃったね。どうなるかな?」

画像が拡散して、某巨大掲示板は『文架市に宇宙人美少女キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!』だの『科特隊出撃せよ』だの『変身ヒロインファン集まりやがれ』だの
『鎧少女の正体は誰だ!?』だのと幾つもスレが立って、昨夜から“祭り”になってる。実際に、事態を重く見た科特隊が動き出したって話も小耳に挟んだ。

「今度の妖怪、派手に暴れてくれたわね」
「火車って言う、燃える車輪の妖怪かあ・・・・
 んで戦ってる最中に、依り代とやらが『帰りたい』『また一緒に走りたい』だって?」
「うん。クレハから、そう聞いた」
「追いかけて見失ったのが、警察署の辺かあ・・・・・」

そう呟いた美穂は、腕組みして考え込んでる。

「どうかした?」
「全く根拠ない、単なる推測だけどね・・・・
 何日前だっけ?ここらが縄張りの≪刃禍魔琉堕死(ばかまるだし)≫って暴走族が、一斉検挙されたじゃん」
「うん、ローカルニュースで見たよ。いっぱい逮捕されたんだっけ・・・それが、どうしたの?」

全体的に治安がいい事で評判な文架市だけど、例外な奴等も存在する。私立渡帝辺(どていへん)工業高校の番長・釣ルン手ハシル蔵が率いるグループ
≪刃禍魔琉堕死≫がやらかす集団暴走・窃盗・暴行etc.は、前々から頭痛のタネだった。優麗高でも「〇組の某がカツアゲされた」なんて話を何度か聞いた。
ちなみに美穂は、絡んできたメンバーをトータルで10人くらい病院送りにしてる。それは置いといて・・・先日、遂に交通課と少年課の合同対策班が本腰を
入れて取り締まりを行い、ハシル蔵を始めとするメンバーほぼ全員が逮捕された。

「その時、奴等のバイクが没収されたんだ。全部、警察に保管されてるはずだよ」
「へ?・・・・・・まさか・・・・
 没収されたバイクが『帰りたい』『走りたい』って願って、それに妖怪が憑いたって事?」
「だからまあ、あたしの推測。証拠や根拠なんて、何も無いよ。
 でも、モノが妖怪になる事ってあるらしいんだよねえ。紅葉の受け売りだけどさ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

頭こんがらがって、溜息しか出ない。【2年B組の模擬店】と【ド素人を抱えた即席バンドでゲリラライブ】。この2つを成功させるだけでも難儀だ。
なのに妖怪が出てくるし、紅葉がケガするし、騒ぎが広がっちゃうし・・・障害だらけではないか。何からどう克服すればいいんだろう?


―2年B組―

美穂と別れて教室へ入ってきた亜美を見るなり、元からザワついてたクラスメート達が輪を掛けて騒然としてしまう。例外なく昨夜の事件で
盛り上がってたが、加えて『“火の玉娘”が来ない』と言う異例の事態が起こったのだ。亜美の功績が大きいけど、今まで無遅刻・無欠席。
元気の塊がツインテール結って服を着てるような紅葉に、何が起きた?ひょっとして、昨日の事件に巻き込まれたのか?優麗祭は大丈夫か?
大事件が2つも重なったんで、「校長先生がイメチェンして、髪にウェーブかけてる」などと言う些末なネタには、誰も触れやしない。

「紅葉ちゃん、どうしちゃったの?風邪でもひいちゃった?」
「模擬店の許可が降りなくて落ち込んでんのか?」
「まさか、昨日の事件に巻き込まれたとか?」
「え・・・え~とね・・・昨日の帰りに、クレハが歳埜河原(さいのかわら)を自転車で走ったの。
 トライアルって言うんだっけ?・・・そしたらうっかり、石に乗り上げて転んじゃって」
「マジかよ、大丈夫なのか?」
「大ケガしちゃったの!?骨折とか!?」
「入院してるの!?」
「そんなに酷くないよ・・・とりあえず、私の家で応急処置した。今日は病院に寄ってから来るって」

苦し紛れに、適当な事を言ってしまった・・・ちなみに歳埜河原ってのは山逗野川沿いの一画の名称で、大小の岩がゴツゴツ突き出た場所である。
専用チャリでトライアルを楽しむ人達の溜まり場で有名だ。紅葉の事だから、見物してたら感化されたんだろう。ママチャリでトライアルは無茶すぎだが、
紅葉ならやりかねない。出まかせで言ってみたけど、クラスメート達は納得したらしい。それに大したケガでもないって事が解っただけでも安心したんで、
やがて始業のチャイムが鳴ったら自分の席に戻って行った。亜美はコッソリと≪・・・って事にしちゃったから、話を合わせてね≫と紅葉にメールする。
暫く経ったら返信が来て≪ゎかった!ぁりがと!≫と書かれてたんで、ひとまず安心して授業を受けた。


―休み時間:2年A組―

A組も例外なく、昨夜の事件で盛り上がってた。それに加えて大事件・・・無遅刻・無欠席な、カリスマ生徒会長にして優麗高マドンナの麻由が来ない。
心配した女子達が片っ端からメールしまくってんだけど、一向に返信が来ないんで気が気ではない。まさか、昨夜の事件に巻き込まれて大ケガを!?
大事件が2つも重なったんで、「校長先生がイメチェンして、髪にウェーブかけてる」などと言う些末なネタには、誰も触れやしない。
授業も上の空で時が過ぎ、3時限目と4時限目の間の休み時間。麻由はヒョッコリやってきた。たちまち生徒達が黒山の人だかりで質問攻めする。

「どうしたの?」
「風邪ひいちゃったの?」
「もう治ったの?無理しちゃダメだよ」
「ごめんね、心配させちゃったね・・・ちょっと気分が悪くて寝てたけど、もう大丈夫」

~~~~~~~~~~麻由の回想~~~~~~~~~~

先頭切って優麗祭の準備を進め、紅葉への対策を練り、その合間を縫って『オズの魔法使い』の脚本を書き、同時進行で演出を脳内で構想する。
それでいて、成績は学年トップをキープ・・・・ここ数日あんまり寝てなくて、クタクタだけど一周回ってハイになっちゃってた。
まずは脚本が仕上がったんでホッと一息。キャストは決まってるから、明日から稽古を始められそうだ。大道具・小道具・衣装も、計画通りに作られてる。
一区切りついて安心したら、急に“お出かけ”したい気分になって、校長に電話をして待ち合わせた。郊外の“カップル専用施設”に行こうと車に揺られ、
軽く渋滞してる文架大橋で窓から山逗野川を眺めつつ物思いに耽ってたら・・・

ドオオオオオオオオオオオオオオンンッ!!!!
「きゃあっ!?」
「何だっ!?」

“赤くて熱いモノ”が高速で走り過ぎた次の瞬間、車が吹っ飛ばされてガードレールに激突!何だか良く解らないけど黒煙が発生して、髪はボッサボサで
顔が真っ黒けで制服はボロボロって酷い有様になってしまった。何がどうなってるのやら解らないまま、暗闇の中で煙に巻かれてゲホゲホと咳き込んで
パニックに陥ってたら・・・・

「ふんにゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

妙な気合いが響き渡り、同時に高級セダンの厚くて重いドアがメリメリと剥がされ、シートベルトを外されてグイと引っ張り出された。

「大丈夫~っ!?ケガゎなぃっ!?」
「げほげほげほっ!!・・・・いったい何が・・・・」
「ゴホッゴホッ!!」
「歩ける!?ガードレール跨ぃで、歩道ぇ避難してねっ!!」
「は、はい・・・・ゴホッ!ゴホッ!ゴホッ!・・・・」

(中世日本の鎧武者+女忍者)÷2みたいな謎の人に救出された・・・何故だろう?心は『命の恩人』と認識してるのに、声を聴くとイラっとなる。
その理由を考えて、ふと思いついた。マスクで若干くぐもってるけど、謎の鎧武者の独特なキンキン声が源川紅葉を連想するのだ。

(あの子が、こんな扮装で人助けだなんて・・・・・まさかね、子供番組じゃあるまいし)
≪コココココォ――――――――ンッ!!!!≫
「ゃっべぇっ!!」
「!?」

つい考え事に耽りながらフラフラ歩いてたら、目の前に先刻の“赤くて熱いモノ”が迫ってる!!呆然と立ち尽くしてたら謎の鎧武者に抱きかかえられ、
同時に「ドンッ」と軽い衝撃が伝わる・・・・暫く意識を失い、次に気がついた時は、謎の鎧武者も“赤くて熱いモノ”も姿を消していた。
とにかく、こんな有様じゃ“お出かけ”どころじゃない。この格好でバスには乗りたくないし、タクシーは拾えない。そもそも大渋滞で走れやしない。
人目を避けて裏通りを選んで徒歩で帰宅。まず風呂に入って、真っ黒けの顔と身体を綺麗に洗った。制服はコネをフル活用して、昨夜のうちに新品を用意した。
だがしかし、ボッサボサになっちゃった髪が、シャンプーしても何しても縮れたきり治らない。すったもんだした末、疲れたんで諦めて寝てしまった。そして
朝イチで美容院へ行ってプロの手で色々と処置を施されて、ようやく元に戻ったんで登校して今に至る。

~~~~~~~~~~回想終了~~~~~~~~~~

『中央通りや文架大橋の騒動が、全国規模のニュースになってる』って事は、ニュースやネットで知っている。しかも文架大橋では、自分が気絶してる間に
バルたんが現れて、謎の鎧武者と一緒に“赤くて熱いモノ”と戦って撃退したらしい。報道やネットで、2人を救世主の如く賞賛する声を少なからず見る。

(何なのよ・・・・何で揃いも揃って、私の前に立ち塞がるの?)

正直、バルたんも気に食わない存在だ。それなり苦労して企画した【羽里野山ハイキング】を滅茶苦茶にしてくれた張本人なのだ。「お詫びの印に」と、
変態に拉致された風谷真魚を救出した。でも、それは別の問題。滅茶苦茶にされたって事に変わりはない。大半の生徒達は許したようだが、自分は許してない。
常にトップを走り続けていた自分が、今回は『単なる被害者その1』に過ぎない。そして大活躍したのが、紅葉を連想するムカつく鎧武者とバルたん・・・
何たる事か。すっごく努力して築き上げた今の地位が、ガラガラと音を立てて崩れ落ちてくような錯覚を感じる。


―昼休み:2年C組―

♪とっ とっ とっ とっ とっ とっ ♪たたんっ ♪たんたんたん たかたか ♪たんたんたん たかたか
♪たんたんたん たたたた ♪たんたんたん たたたた ♪とんっ ♪たんたんたん たかたかたか ♪とんっ たたたた・・・・

美穂が昨日と同じく、空になった弁当箱とペットボトルを並べて一心に叩いてる・・・ちなみに今日は、割り箸でなくスティックを使ってた。

「♪Summer time time time・・・・
 ♪Child the livings easy~~~~~~・・・
 ♪Fish are jumping out ♪And the cotton Lore
 ♪Cottons high Lored so high~~~」

耳を澄ますと、美穂が呟くように詞を口ずさんでるのが聴こえた・・・・時たま「いけねっ」と中断し、また叩きながら呟くように唄う。
思い思いに昼休みを過ごしてたクラスメート達は、ついつい気になって聴いてしまう。気にはなるが、決して不快ではない。てゆ~か、昨日より巧い。
中でも律は、感心しながら自分も足で床をトントンしたり、椅子の背もたれを指で叩いたりしながら聴き入ってた。やがて終わってから「う~ん」と
腕組みして考え込んでる美穂の傍へ駆け寄る。

「凄いね霧島さん!リズム感いいし、持久力もあるし!絶対ドラム向いてるよ!」
「ん~、そうかな?・・・・・・・・ありがと」
「ここの部分さ・・・もっと力強く叩いたら、メリハリついて良くなるよ」
「あ、なるほど」
「今日も来るよね?」
「うん」
「頑張ろうね・・・・ちなみに今夜は、豚の生姜焼きだよ」
「まじ?楽しみ・・・・・・・・ありがとな」
「良いんだよっ!お母さんも、好きでやってんだし」

ちょっと会話してから席に戻って、さも嬉しそうな顔して弁当を食った。美穂は再び、ポコポコと弁当箱やペットボトルを叩きながら唄いだす。
他のクラスメート達は、「何が何だか解らない」って感じでポカンとするばかり。

「律~?何時から、霧島さんと仲良くなったの?」
「つい最近・・・・一昨日から私の家で、ドラム練習して晩ごはん食べてる」
「はあっ!?」

そこで中断して「話していいのかな?」と言いたげに美穂を見たら、「好きにしなよ」って感じでニコリと微笑みながら頷いた・・・・
余談だけど「霧島って、ああやって笑ってると超可愛くね」と、男子の何人かが心ときめかしてしまった。

「B組の源川さんと一緒に、優麗祭で何かやりたいらしいよ。
 それで『ドラム教えて』って頼まれたんで、一昨日から私のドラムで練習してんの」
「へぇ~っ」
「何やる気だろ?」
「てゆ~か、意外な組み合わせだよな」

思わずザワザワしてるクラスメート達だが、美穂は「何処吹く風」とばかりにトントントコトコとイメージトレーニングを続けてる・・・・
やがて終了したらしくて「フゥ~」と大きく溜息を吐き、自分に注目してるクラスメート達をチラッと一瞥する。その瞳には、昨日までの
「何、見てんだよ」って攻撃的な光が無かった。逆にコッ恥ずかしそうに俯いて考え込み、暫くしたら何事か決心したみたいな表情で立ち上がる。

「あの・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・?」×いっぱい
「田井中が話した通りなんで・・・・・
 ちょっと思うとこあって、優麗祭でやりたい事あって・・・つ~かライブやる。
 あたしがドラムで、紅葉がベースで、亜美がピアノで、ボーカルは秘密。
 亜美とボーカルは問題ないんだけど、あたしと紅葉はド素人。
 でもまあ・・・・・・・・・気が向いたら聴いてよ。とりあえず、そんだけ」

言うだけ言ってから、さっさと座って俯いて黙り込んだ・・・律が「頑張ってね」と言ったのがキッカケで、あちこちから励ましの声が来る。
美穂は真っ赤な顔して、上目遣いでチラッとクラスメート達を見てから無言で小さく頷いた。


―2年B組―

4時限目が終了する間際に後ろのドアがガラッと開き、紅葉の「ちぃぃ~~~~~~~~~~~っすぅっ!!!」ってキンキン声が教室中に響き渡った。
教師とクラスメート達の注目を浴びて「ぁ、どもっ!」「どもっ!」と言いながら自分の席に座り、亜美とアイコンタクトしてニィ~ッと笑う。
肩から肘にかけて包帯がグルグル巻きになってる左腕を三角巾で吊っていて、ブレザーは袖を通さず羽織ってる。ブラウスも着れなくて、下はTシャツだ。
病院で何を塗られたのか、近寄ると薬草の匂いが漂ってる。そんな痛々しい状態だってのに、鞄と一緒にベースギターを担いでた。

「災難だったな源川。どんな具合なんだ?」
「ぁ、はぃ。骨ゎ何ともなかったですっ!打撲で全治10日って言ゎれましたっ!」
「そうか。大事じゃなくて何よりだ・・・話を聞いたけど、無茶は程々にするんだぞ」
「はぁ~ぃっ!!」

教師と話してる間に、授業が中断したまんま終業のチャイムが鳴ってしまった。日直の号令で礼をして教師が出ていくと、「待ってました」とばかりに
鞄を開いて弁当のサンドイッチを取り出して、亜美と一緒に教壇へ乗って並んで、「いっせ~のせ」で揃って頭を下げた。

「心配させちゃってゴメンっ!!この通り大丈夫でぃ~~~~すっ!!」
「私からも、ごめんなさい・・・・今度から、一緒に外出する時は首に縄つけるんで」

並んで謝罪したら、あちこちから笑い声が起きた。紅葉の言動は予測できたけど、亜美までがジョークを言うとは意外だった・・・当の本人はと言うと、、
頑張ってユーモア効いた謝罪で場を和ませたまでは良いけど、慣れない事した所為か急に照れて頬を真っ赤にしてる。
そんなこんなで、今日も恒例のミーティングが始まった。紅葉は教卓に山盛りのサンドイッチを広げて、片っ端から胃に収めながら司会をする。

「あのさ源川」
「何っ!?」
「クジ外れた3Dの先輩から聞いたんだけど、教室でやる事にしたらしいよ」
「ぁ~、ゃっぱ結局そぅなるだろぅね。ァタシも、それ考えてた」
「今さら、企画変更なんて無理だもんな」
「だょね~・・・・・3Dって、何のぉ店ゃるの?」
「カレー屋」
「大丈夫?匂ぃ強くね?セートカィチョーの許可下りたの?」
「換気に気をつけるって条件で、OK貰ったってよ」
「そっか!・・・・・・・・ぢゃぁ、ゥチも教室でゃる!?賛成の人ゎ手ぇ上げて~っ!!」

数えるまでもなく、全員一致で教室を利用する事に決定・・・問題は、換気と寒さ対策である。文架市は、10月下旬ともなると割と寒くなる。
お客さんが不快にならない程度の室温をキープしつつ、焼きそばを作る時の煙と、あぶらげ焼く炭から出る一酸化炭素を放出しなきゃならん。
あの生徒会長の事だから、その辺キチンとしとかないと許可してくれないだろう。

「厨房と客席の間に、仕切りしよう」
「材料ゎ?私立と違ぅから、ぁんま予算なぃょ?」
「スーパーあやかのレジ横に『ご自由にどうぞ』って段ボール置いてるじゃん?あれ貰おう。
 広げて繋ぎ合わせて、客席側だけ色塗って壁にすんの。終わったら、解体してゴミに出せばいいじゃん」
「ぉ~~~っ!それ採用っ!」
「煙どうすんの?」
「窓ギリギリにコンロ置いて、扇風機を外に向けて並べて回そう。3Dの先輩、そうするらしい」
「なるほどね~」
「はぃ、それ採用っ!扇風機ぉ持ってきてくれる人ゎ、後で決めょぅね~!」
「後は暖房だな」

仮設教室にもヒーターくらい設置されてるが、10月だと灯油の支給がまだなのだ。

「家からストーブ持ち寄って、あちこちに置いとこうよ」
「コンセント足りなかったら、家に小型発電機あるから持ってくる」
「ぅぃ~す、決まりっ!」

昨日の通夜みたいな雰囲気が嘘だったみたいに、トントン拍子で話が進んだ。ふと時計を見たら、昼休み終了まで10分くらいになっている・・・
『善は急げ』で、さっさと麻由から許可を貰う事にした。紅葉がサンドイッチの最後の一切れを頬張って水で胃に流し込むと、元気に立ち上がって
教室を出ていく。決定事項を清書したノートを手にした亜美が続き、他のクラスメート達も何人かゾロゾロついてった。

「セェェェ~~~~~トカィチョ~~さぁぁぁ~~~~~~んっ!!!」

遠慮の欠片も無く、ガラガラと前の扉を開けて突撃。教壇でミーティングを進行してる麻由を見つけるなり、耳をつんざくような声で呼ぶ。
麻由は邪魔されて気分悪いのとキンキン声が生理的に気に食わないのとで、頬を一瞬だけ「ヒクッ」っとさせたけど、朗らかな笑みを浮かべて応じた。

「お疲れ様・・・・・あら、腕どうしたの?大丈夫?」
「チャリで転んぢゃった~!全治10日だって!」
「そうなの、お大事にね・・・・・・で、何かしら?」
「B組も、教室で模擬店ゃるっ!」
「確か、焼きそば店だったわね・・・たくさん煙が出るけど大丈・・・」
「話し合ったっ!!煙対策ゎ、バッチリだょっ!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「3Dゎカレー屋さんだけど、教室で許可されたんでしょっ!?B組もョロシクっ!!」
「え~と・・・こんな感じで、やってみます。煙や匂いが教室に籠る事は無いと思います」

まず紅葉が直球で話を切り出し、続いて亜美がノートを出して、細かい説明をした。丁寧な字で解りやすく書かれてる。簡単ながら図面まで入れてあった。
何の落ち度も無い。これで許可を出さなかったら『ひょっとして、源川さんに個人的な恨みあって意地悪したんじゃないか?』って疑惑が浮かびかねない。
欠片ほどでも、そんな話が出る事態は防がなきゃならん。自分の株が大暴落で、次期生徒会長選挙で落選してしまう。

「解りました、許可します」
「マヂ!?ゃった~~~~~~~っ!!!!ぁりがと~~~~~~~っ!!!!」
「力を合わせて、頑張りましょうね」
「ぅぃ~~~~~~~~~~っすぅっ!!!!」

紅葉の歓声が伝染し、くっついて来た2Bの生徒達も手を取り合って喜んでる・・・・麻由は『紅葉個人でなく、この団結力に負けたかもしれない』って、
ふと思った。A組の企画も順調に進んでいるけれども、考えたら積極的に意見する者は少数。ほぼ全部、自分の意見で進めてると言っても過言じゃない。
それに、紅葉はケガをしている。優麗祭の直前に突然ベースギターを始めて何事か企んでたんだろうけど、あの様じゃ練習できなくてポシャるだろう。
模擬店の企画に色々とダメ出しをしてたのは、元はと言えば紅葉の密かな企みを阻止する為。その企み自体が頓挫するなら、2Bの企画はどうでも良い。

(・・・・・・・・・・・・・・・・えっ!?)

突然、昨夜の記憶がフラッシュバック・・・謎の鎧武者・・・素顔は解らないけど、身体つきを見た限り小柄な女性・・・気に障るキンキン声・・・・
考え事してたら、目前に迫る“赤くて熱いモノ”・・・・抱きかかえられたと同時に感じた衝撃・・・だが、自分は無傷・・・紅葉のケガ・・・・・・

(まさか!?・・・・・そんな事・・・・・・)
「立花さん」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「立花さん?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あ、うん」
「どうしたの?やっぱり体調が悪いの?」
「いえ・・・・・ちょっと考え事しちゃって・・・・・
 昼休み終わっちゃうわね、続きは放課後に。
 今日から稽古を始めましょう。キャストの人は、とりあえず第1幕の台詞を覚えといてね」

凛とした良く通る声で告げると、自分の席に戻って5時限目の支度をする。だがしかし、今のフラッシュバックと紅葉のケガが気になって仕方ない。
何故だろう?「そんな事ない」って否定すればするほど、鎧武者と紅葉とが重なる。
 

ゾルダⅡ世・素敵な仲間達編1

 投稿者:仮面歩行者  投稿日:2018年 5月 4日(金)16時35分59秒
返信・引用
  -数年前・美宿(みじゅく)市-

5月の市内中学陸上大会。成績優秀な選手は、地区大会~県大会~地方ブロック大会と駒を進めるが、大半の中学3年生にとっては、このレースで引退となる最後の市内大会になる。
市立平本(へいぼん)中学校の陸上部は、部員の少ない弱小チームだった。男女合わせて3年生は10人以下で、全員が短距離走の選手の為、長距離走に参加をする選手がいない。去年の秋の新人戦や駅伝大会は、他の部活から長距離向きの生徒を集めてきて、どうにか参加をした。長距離を専門に走っている選手ではない寄せ集めなので、ハナっから優秀な成績など期待はしていない。次年度以降の新入部員の為に、陸上部を存続させなければならないので、体裁を整える為に参加をする程度の学校の意向である。

寄せ集めの長距離選手の中に、少年・佐波木燕真の姿があった。所属はバスケット部だが補欠である。ユニフォームに付けているゼッケンは、エース番号からは外れて、学校からは期待をされていない60番。だからといって、練習をサボっているわけではなく、いつも、がむしゃらに練習をしていた。ただ少し、ゲームメイクのセンスが無い為に、市内では強豪レベルの平本中では、スターティングメンバーには選ばれない。
バスケットボールの試合は、ゲーム中、ずっと、休む暇無く走り回っている為、体力が無いと話にならない。日々の練習の半分(体育館を使えない日)はランニングや連続ダッシュや筋トレなどの基礎体力作りになる。そのお陰で、他校トップクラスの長距離選手を除けば、バスケ部の燕真の方が早い順位でゴールができる。

※まぁ、実際、体育の持久走やマラソン大会になると、トップは陸上部の長距離エースクラスだが、基礎体力の高いバスケ部は対抗馬になりがち。

3000m予選で、同レースにあまり早い選手がいなかったお陰もあって、燕真は3位でゴールして、決勝レースへの参加資格を得る事ができた。口では「え~マジかよ!」「聞いてない!」「キツい」と文句を言っているが、内心は結構嬉しい。平本中の弱小陸上部が、長距離走で決勝レースに進むのは、4~5年ぶりである。決勝レースに残った他校の選手は、皆、長距離専門の市内トップクラスの選手ばかりだ。各選手のタイムを見れば、燕真がこのレースを勝ち抜いて、地区大会に進む事など不可能である。しかし、もう少し頑張れば、奇跡が起こせるのでは無いか?と期待をしてしまう。バスケ部スタメンには選ばれなかったが、それくらいのキツい練習には耐えてきたつもりだ。

3000m決勝に出場する選手達の招集が会場内にアナウンスされ、燕真は、皆から激励をされて集合場所に向かった。集まった他校の選手達は、様々な色のユニフォームを着ているが、仲良く会話をしている。「○○高から推薦の話し来てる?」「どうする?」「迷っている」「一般受験をするつもり」等々、市内一流選手達は、もう受験後~高校生活の事を考えているようだ。所属校が違っても、大会のトップ常連同士は仲が良いのだろう。燕真は、彼等の会話から外れながら、今行われている幅跳びを眺めている。1周400mのトラックを7周半も走る長いレースを、一日で2回も走る事になるとは思っていなかった。

「キミ、平本中だよね?陸上部じゃないんでしょ?」
「・・・・え?」

他校の生徒が燕真に話しかけてきた。常連客でもなければ、記録会や合同練習にも顔を出した事の無い燕真が、決勝レースに残ったのが、珍しく思えたのだろう。

「俺、バスケ部です。学校に言われて、半強制的に、この大会に出場させられました。」
「すげ~!専門じゃないのに、決勝に残ったんだ?」
「はははっ・・・まぁ、バスケ部も、それなりに走り込んでいるからね」
「そういや、うちの学校も、バスケの奴等は長距離が早いっけな。ポジションは?」
「スモールフォワード・・・ただし、補欠だけどね。」
「・・・補欠なの?」
「そうだよ!選抜じゃ無くて悪かったな。」
「ゴメンゴメン!
 そういうんじゃなくてさ、そんだけ足が速いのに、バスケの補欠なんてもったいないって思ってさ!
 高校に行ってもバスケ続けるの?」
「まだ、高校に入ってからの事なんて考えていないよ」
「なんなら、陸上やりなよ!イイ線行くと思うよ!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

気が付いたら、女子の1500m決勝レースが始まっていて、次は男子の3000m決勝の番である。
思いがけない誘いだった。元々、バスケでトップになるつもりは無かったけど、陸上をやる事など、考えた事も無かった。だけど、市内のトップ選手におだてられて、少しだけその気になってしまう。もし、良い記録が出せたら、高校生活は陸上を考えようかな?と少しだけ考える。

女子の1500m決勝が終わって、男子の3000m決勝レースのアナウンスが場内に流れる。1500mを走り終えた女子達は、これで引退の選手も、地区大会に進めた選手もいて、泣いたり笑ったり様々だ。もし高校で陸上部に入ったら、彼女達の数人は、部員になるのだろうか?そんな余計な事まで考えてしまう。

他校の連中の真似をして、スタート練習をしてから、スターティングラインについて、合計18名でスタートの合図を待つ。燕真に与えられた立ち位置は第1コース、つまり一番内側である(中~長距離のトラックレースでは、インコースの奪い合いになるため、実はイン側スタートは不利。)

空に向けられたスターターピストルの音が鳴り響き、一斉にスタートをする。
少しで遅れた。ライバル達が、あっという間にインココースに傾れ込んできて、走りたかったコースが塞がれる。燕真は少しアウト側に逃げてコースを確保して、後ろから3番目で、トップ集団を追う。1週目が終わるまでには1人に抜かれて、後ろから2番目になった。だけど、体力が尽きたわけでは無い。
密集して走っていたライバル達が、徐々にバラけて、インコースに並んで、序盤の順位が安定してきた。一歩アウト側に出ればコースはクリアなので、燕真は追い上げを開始する。1人・・・2人・・・ゆっくりではあるが、着実に抜いていく。走る専門の陸上部に混ざって、バスケ部の自分が健闘をしているのが気持ちよい。
1000mを走り終えた頃には、順位は中盤くらいにまで上がっていた。レース前に話しかけてきた選手は、ずっと前の方を走っている。彼がペースを落としてくれないと、ちょっと、追い付けそうにないけど、バスケ部のトレーニングの手を抜かなかったので、まだまだ走れる。もしかしたら、本当に良い記録が出せるのでは?と思えてくる。
1500mを経過した。少し苦しくなってきた。女子長距離ならば1500mで終わりなのに、男子は3000mも走らなければならない。女子が少し羨ましい。後ろを走っていた2人に追い越された。これ以上は抜かれたくないので頑張って追い掛け、どうにか1人を抜き返す。

だが・・・厳しいトレーニングはしていても、3000mという決められた距離で、体力を使い切るトレーニングなどした事の無かった燕真には、3000m決勝レースは未知の世界だった。レースはまだ半分終わった程度なのに、息が上がって、足が重たくなってきた。また一人の選手に追い抜かれ、懸命に食らいついていく。残り3周(1200m)を越えたあたりで、足が前に出なくなってきて・・・前の選手を無理に追い越そうとして、後ろから抜きに来た選手と接触をして、既にフラフラで当たり負けた燕真だけが転倒をする。

後方から来る選手達に追い抜かれながら立ち上がり、再び走り出した。しかし、転んだところが痛くて、既に体力が限界に来ていて、今までと同じペースでは走れない。後続から次々と追い抜かれて、あっと言う間に最下位になってしまった。ノロノロと走るのが恥ずかしい。ラスト1週を前にして、レース前に燕真に話しかけてきた選手を含めたトップ集団に周回遅れにされる。

トップ選手達は次々とゴールをして、会場の観客達から、大きな声援が送られる。
恥ずかしくて仕方なくて、動揺をしながら、キョロキョロと周囲を見回して走る。会場の皆が、ゴールした選手達を見ていて、自分には誰も興味を持っていない。もしくは、情けない姿を笑っているように思えてくる。
もう、良い記録なんて臨めない。レースタイムに、極端に遅い汚点を残すだけになるのが解ってしまう。心が折れそうになる。リタイアをしたくなってきた。

「ガンバレ!60番!!」

燕真を、懸命に応援する女の子がいた。聞き間違いではない。スタンド席の前を通過する時に、間違いなく「60番」と言った。小学校低学年くらいの小さな女の子だった。女の子が何処の誰なのかは解らない。どんなに頑張って走っても、最下位は覆らない。だけど燕真は、女の子の声援を勇気に変えて、最後まで諦めずに走りきる事にした。もう、足が前に出ないが、前に進みたがる気持ちを力に変えて、懸命に走る。途中で止めてしまったら、女の子の期待を裏切るような気がした。

ゴールをした時、会場のみんなが、自分に声援を送っている事に初めて気付いた。投げ出さずに最後まで走った燕真には、温かい拍手が送られていた。スタンド席にいる女の子も、懸命に拍手を送ってくれている。
他の選手からは1周以上の差を付けられていたので、正直言って恥ずかしかった。もっと活躍をして、上位入賞は無理でも、せめて、真ん中くらいの順位で、拍手を貰いたかった・・・でも、少しだけ嬉しかった。

走り終えた後、競技場の医務室に行った燕真は、「足首の捻挫」を告知された。転んだ直後にリタイアをすれば軽傷で済んだのだが、無理をして走り続けたので、悪化をさせてしまい、完治には時間が掛かるようだ。この足では、バスケの最後の大会には出場できないだろう。レギュラーが故障した時か、勝ちが決まったゲームにしか、出場をする機会は無い補欠だが、他の部員よりも一足早く、事実上の引退が決まってしまった。燕真のバスケ部での中学生最後の大会は、応援だけで終わってしまう。

3000m走で転倒をして周回遅れでゴールをした選手の事は、他校の間でも小さな話題になった。1500m走の決勝レースを走った女子選手の中に、燕真を応援した女の子の従姉妹がいたのだが、その選手が、小さな女の子に、「3000m走選手の捻挫」を話したかどうかは、燕真は知る由も無い。

ただ、諦めずに走り続けた‘ゼッケン60番’の姿は、小さな女の子にも「頑張る」と言う気持ちを植え付けていた。それまでの彼女は、周りからは「お人形さんみたい」と評価されていた。可愛らしいけど、温和しくて人見知りで、友達が居なかったが、その日以降、‘ゼッケン60番’の背中を見て、無駄に「頑張る」ようになった。

上記は、【ザムシード】の【第23話】で書いた回想シーンを、掘り下げた物で、今後、【愉快な仲間達】に【燕真編】があれば流用しようと思うが、今のところ【燕真編】が描かれる予定は一切無い。



-YOUKAIミュージアム-

誰もいない博物館の受付カウンターに、燕真がポツンと座っている。もの凄く暇である。暇すぎて、やる事が無いので、数年前に故郷の競技場で起こった出来事を回想しちゃった。本来、ザムシードの第23話まで、燕真は、‘応援してくれた女の子’が誰なのか解ってなかったし、重要な思い出にした女の子とは違って、最終話直前まで、この出来事を重要視はしていなかったのだが・・・。

「・・・出番が来ない」

【ザムシード】正史ならば、今頃は女子高生に育った女の子と再会をして、押し掛け女房的に付きまとわれるハズだし、【愉快な仲間達】でも、再会後は彼女を精神的に支える重要なポストに就くハズなんだけど、なぜか、まだ、再会をする予定は無さそうだ。普通なら、この手の物語だと、第2~3話くらいで、再会をするのがお約束なんだけどなぁ。

ちなみに彼女が介入して、客の来ない博物館は、客がごった返す喫茶店に経営を変更する予定なのだが、まだ介入どころか、再会すらできていないので、客のいない博物館のまんまなのだ。

ガチャリ!

珍しく、出入り口の扉が開いて、客が入ってきた音がする。燕真は死んだ魚のような目で、客の方を見て、挨拶をした。

「いらっしゃいませ~・・・大人1名様ですか?入場りょ・・・・・・・・ん?」

入ってきたのは真司だった。受付の燕真を見付けるなり、肩を怒らせて、鬼のような形相で、ドカドカと足音を立てて近付いてきて、腑抜けた顔の燕真の胸ぐらを掴んで、グィィと引き寄せる!

「コラァ!燕真!!な~ん~で~、ちゃっかり帰ってきて、こんな所に居るんだよっ!?」
「な、なんでって言われても、【愉快な仲間達】の出番待ちで」
「オマエまで、そっちに行く気か!?【ゾルダ2世】はどうすんだよ!?
 ただでさえ、主要キャラがゴッソリ抜けて、存続の危機なんだぞ!!」

「【ゾルダ2世】は、筋肉の塊と、ユーラシア王国と、萌獣達が居れば、何とかなるんじゃないのか?
 例えば、前々から企画していた【ユーラシア王国vs萌獣達編】とかさ!」
「萌獣組から一人だけが引き抜かれちゃって、他の萌獣達が拗ねていて、やる気を出してくれないんだよ!
 それに、美穂や紅葉ちゃんがいないと、萌獣と戦う展開が思い浮かばん!!」

「なら、オマエも【愉快な仲間達】に参加したらどうだ?」
「出たいけど、出られん!第5話の美穂の回想で、いきなり故人の役にされちゃったんだよ!!
 オマエだって、ずっと待機したり、紅葉ちゃんと再会するためにウロチョロしてんのに、
 いつになっても再会できないんだろ!?」
「う・・・うん・・・まぁ・・・・」
「だったら、【愉快な仲間達】なんてアテにするな!
 俺達は俺達で、【ゾルダ2世】で存在感をアピールするんだ!!」

「え?でもどうやって?
 前章は終わっちゃったし、神崎が企画を持ち込まないと、次章は始まらないんだろ?
 何か新企画があって、神崎の呼び出しが来たのか?」
「新企画なんて無い!神崎のバカは、紅葉ちゃんを追っ掛けて、【ゾルダ2世】を放置しやがった!」
「だったらどうするんだ?企画発案者がいないと、話しが始まらないんじゃ・・・?」
「だから、俺達で勝手に始めるんだよ!」
「・・・なにを?」

「新しい企画だ!破竹の勢いの【愉快な仲間達】に対抗して、俺達もご当地アイドルグループを作る!
 奴等が、チームYUKAIなら、こっちはチームSUTEKIだ!
 俺とオマエ、天界人一人と、宇宙人一人と、歴史上の人物一人と、数あわせで一人をメンバーにして、
 社会人アイドルグループを結成するんだ!
 今章は【ゾルダ2世・真司と素敵な仲間達編】でいくぞ!!」
「え~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~・・・マジで?」

どう考えても、成立しそうに無い企画である。開始数話で綻ぶか、この投稿以降が放置になるか・・・神崎が持ってくる企画の方が、まだマシなんじゃね?
 

紅葉と愉快な仲間達・麻由編パイロット

 投稿者:仮面歩行者  投稿日:2018年 4月16日(月)15時37分14秒
返信・引用
  文架駅から徒歩で10~15分ほどの距離にある・穂登華(ほとけ)町。その既存市街地の一角に、立花麻由が一人で住むマンションがある。



「麻由ちゃん、ロングも似合ってるけど、ツインテールにするとイメージ変わって可愛いよ」
「そ、そうかな?」

放課後に、女子トイレの鏡の前で、クラスメイトの真魚が麻由の後ろ髪を、左右に分けて手で握って、ツインテールを作ってみる。真魚の言う通り、確かに、今までとイメージが変わって、表情が明るく見える。こういうヘアースタイルも、たまには悪くない。
帰宅をした麻由は、鏡の前で、何パターン化のツインテールを作って、自分に一番しっくりくるヘアースタイルを探す。明日、学校に行ったら、みんなが「可愛い」と褒めてくれるかな?期待で胸が高まる。
だけど、翌日のクラスメイトの反応は、麻由の期待をアッサリと裏切った。

「ぁっははっ!ァンタみたぃな子が、急にツィンテールなんてしちゃって、可愛ぃつもり?」
「なにそれ、紅葉のマネ?全然似合ってないんだけど」

クラス内のイケてる女子グループの紅葉と美穂が、麻由のツインテールを馬鹿にする。紅葉は、性格が明るくて、クラス内で一番人気のある女の子で、いつもヘアスタイルをツインテールでバッチリ決めている。同姓の目線で見ても、彼女には似合っている。ツインテールを作る時に、彼女を意識しなかったか?と言われれば、少しは意識をした。自分も、彼女みたいな明るくて人気のある女の子に、少しくらいは近付けるかな?と思った。
だけど、そんな紅葉に否定されちゃったら、もうどうにも成らない。

麻由を指さして笑う紅葉と美穂の後ろで、他の女子達もクスクスと笑っている。誰も、イケてる女子2人には逆らえない。麻由は、クラスメイトみんなから否定された気分になる。動揺しながら教室内を見回すと、麻由に「似合う」と言ってくれた真魚まで、少し申し訳なさそうな表情で苦笑いをしている。

イケてる女子2人は、麻由への当てつけのように、いつも麻由と一緒に居る真魚に向かって「アンタもに変だと思うでしょ?」と同意を求める。真魚は小さな声で「うん」と言うことしか出来ない。真魚の表情を見れば、それが本心で無いことは解る。ホントなら「似合うよ」と反論して欲しいけど、真魚はイケてる女子達に反発しようとせず、一緒になって笑っている。

麻由は友達に裏切れたと感じた。顔を真っ赤にして、教室を飛び出して、女子トイレに駆け込む。皆に見られるのは恥ずかしいので、個室に入って、直ぐに、ツインテールを縛っていた髪ゴムを外して、いつものロングに戻す。眼にはいっぱいの涙が浮かんでいた。気分が悪くなって、便器に、朝食を吐き出す。まだ気分が悪くて、個室から出ることが出来ない。

でも、麻由は、個室から出られない本当の理由を、自分で知っていた。気分が悪いからではない。クラスメイト達に会いたくないからだ。始業のチャイムが鳴って、皆が教室内に入り、廊下が静かになる。麻由は、自分のクラスを通らないようにして、保健室に行き、「先ほど吐いた。気分が悪い。」と言って、休ませてもらうことにした。保健室のベッドに潜り込んだ麻由は、ボロボロと流れてきた涙を、布団を被って隠した。悔しくて仕方が無い。でも、どうすれば良いのか解らない。




「ゆ・・・夢・・・か。」

目を覚ましたら、そこは、保健室ではなく、自分の部屋。少しホッとするが、とても嫌な気分になる。
今見ていたのは夢だが、ただの夢では無かった。登場人物は違うが、国絡(ごくらく)小学校の頃に、現実で同じ出来事を経験している。当時の友達に奨められて、少し期待して髪型ツインテールに変えて、翌朝、クラス中の笑いものにされた。友達も笑っていた。その日は、保健室に逃げて、2時間目が終わる頃に早退をした。麻由は、その時、始めて、クラス内の権力者には、何をやっても勝てないと知った。それ以降、ツインテールが嫌いになった。

それまでの麻由は、クラス内での発言力を持たない温和しいグループで、たまに馬鹿にされることはあったが、決して、露骨にいじめられているわけでは無かった。だけど、その日からは皆が変わった。仲間外れにされたり、外履きが隠されたり、クラス内でいじめられるようになった。イケてる女子グループが、麻由を見て、コソコソと小馬鹿にして、ニヤニヤと笑っている。それまで友達だったはずの子は、話しかけても無視をされる。クラス内の権力が、麻由外しに傾いてしまうと、誰も助けてくれない。どうも、友達が、イケてる女子グループに媚びる為に、麻由のことを悪く言っているらしい。男子達も見て見ぬふりをする。小学生だった麻由は、メソメソと泣く日が増えるようになり、学業にも身が入らず、それまで上の中くらいだった成績は、だんだんと落ち始めた。



嫌な思い出だ。まだ深夜だが、寝覚めが悪くて、直ぐには寝付けそうにない。枕元に置いてあるスマフォを取って、何処かに電話をかける。

「今から来て。・・・会いたいの。」
〈こんな時間に?〉
「一人じゃ寂しい」
〈だ、だが・・・〉
「いいから来て!!」

スマフォを握りしめる麻由の表情は、学校で見せる気丈な生徒会長の顔とは違う・・・まるで、捨てられた子犬のように弱々しい。



※ここでオープニング

『仮面ライダーゲンジたいそう第二』

仮面ライダーゲンジたいそう第二!! ぅぃ~~~~っす!!



生活感のない整然とした室内に、ワーグナーのタンホイザーが流れる。起床の時間だ。麻由は、ベッドの上で寝ぼけ眼を擦る。数時間前とは違って清々しい目覚めである。数分ほど、ベッドの中で、過去のドイツの独裁者が好んだ作曲家の音楽を聴いて気持ちを作ってから起きる。
ホントは、このあと、隣に寝ていた校長も起きることや、軽くバードキスをすることや、麻由が下着姿のことや、校長がパンツしかはいていないことや、シーツが乱れていること等々、若干、赤裸々な描写を入れたいんだけど、このストーリーは下ネタOKな【ゾルダ2世】ではなく、エロ表現が抑えられた【愉快な仲間達】なので、残念がなら書くことが出来ない。・・・って、書いてんじゃん。

タフで激しい若い男には興味が無い。体は満たされるかもしれないが、心は満たされない。いつ朽ちても不思議ではないような死相の出た表情で、一生懸命に頑張る男性が好きだ。一突きされるたびに、男の魂が体内に入ってきて繋がる気がして、気持ちが満たされる。もし、麻由を抱きしめながら息を引き取る男がいれば、「その魂は、きっと、自分の中で一緒になるのだろう」と、麻由は考えている。・・・って、まだ書いてんじゃん。
それが特殊なのかどうかなど、関係はない。麻由は、それが好きなのだ。

朝食は、昨日のうちにコンビニで買っておいたサンドイッチ&サラダと、簡易式のドリップコーヒー。校長が宿泊する予定ではなかったので、彼の朝食は用意していない。麻由は、「半分食べる?」と聞くが、校長は「学校への行きがけに買う」と言って、コーヒーだけを注文する。

「車に乗っていくか?」
「うん、お願いしてもいいですか?」
「なら・・・そうだなぁ、15分後に出発しよう」
「はい、解りました」

15分後、マンション敷地内から校長の運転する車が出て、マンション入り口前で麻由を乗せる。さすがに文架市内では、誰に見られるか解らないので、助手席ではなく後部座席に乗る。助手席には、2泊3日の県外旅行と、市外の日帰り温泉旅行の時しか乗ったことはない。

麻由は、後部座席の窓から外の風景を眺めながら、昨日の夢と繋がる嫌いな過去を思い出す。



幼稚園の頃に両親を亡くし、祖父のトウベイお爺ちゃんに引き取られて育てられたが、祖父も、麻由が小学校低学年の頃に亡くなった。この頃になると、周りの親が自分の子に「麻由ちゃんとあまり仲良くしない方が良い」と擦り込むようになる。幼い麻由は、あまりピンと来なかったが、麻由の母は、母の父親から結婚を許されず、‘かけおち’同然に、麻由の父と結婚をしたらしい。

トウベイお爺ちゃんの友人のタケシが親権を引き受けてくれたが、「世界平和の為に悪のショッカーと戦っている」とデンパな事を言って、あまり帰ってこなかったので、麻由は家の中で、いつも独りぼっちだった。もちろん、授業参観になんて、一度も来てくれなかった。この世界にショッカーなんて存在しない。タケシは、虚言で放浪癖を偽っていた。ただし、完全に放置されていたわけではなくて、毎月、最終日には必ず帰ってきて、月の生活費5万をくれて、翌日には、また旅に出た。

だが、そんなタケシが、「珍しく戻ってきて2日間も滞在してるな~」と思ったら、その後、直ぐに死んだ。よく解らないけど、病気か何かを煩っていたらしい。タケシと共に過ごした時間は、あまり無かったので、涙は出なかった。むしろ、死ぬ直前だけ居座られても、迷惑だった。遺言で、「俺が死んだら焚き火で燃やしてくれ」と言われた時は、「タケシってバカなのかな?」と思った。江戸時代じゃあるまいし、そんな事をしちゃったら、消防法違反か、死体遺棄で逮捕されてしまう。
いつも腰に変なベルトを着けていたけど、火葬場の人が「ベルトは燃やせない」と教えてくれたので、遺体から外して、タケシの遺品にした。火葬場の人のアドバイスのお陰で、タケシは、とても良く燃えた。もちろん、炎が不死鳥の形になって、タケシが蘇るみたいな非現実的な事は起きなかった。

祖父も、父母も、父親代わりもいなくなり、麻由は独りぼっちになった。

タケシの遺品を整理しながら、タケシと過ごした僅かな思い出が蘇る。毎月、最終日に帰ってきた時は、麻由は沢山話がしたかったのに、タケシは「子供は早く寝なさい」と言って、22時頃には就寝させられた。そんなに早く寝たくはなかったけど、一応は父親代わりなので、彼の言うことには従った。
その日は、月の最後の日。本来ならば、この部屋にはタケシがいて、この時間帯は、麻由はもう熟睡をさせられている。遺品の中から、麻由名義の預金通帳が見付かる。不思議なことに、毎月初日に100万円が振り込まれていて、頻繁に払い戻されて、月の終わりには残高は殆ど無くなっていた。タケシから貰った生活費は、毎月5万ずつ。残り95万は何処に消えたのだろう?麻由が、首を傾げながら通帳を見ていたら、郵便ポストにゴトンと何かが落ちる音がした。時刻は0時。こんな時間に何だろう?恐る恐る郵便ポストを見たら、現金100万円が入った封筒が投函されていた。正直言ってビビった。一体誰が置いていったのだろうか?身内のいなくなった麻由に、貰うアテなんて無い。だけど、放っておくことは出来ないし、だからといって間違って置いていったのなら、使っちゃ拙いでの、タンスの奥に保管しておくことにした。



「もうすぐ着くよ、立花さん。」
「あ、はい!ありがとうございました。」

校長の声で我に返る。自宅では「麻由ちゃん」と呼ばれているが、外では苗字で呼ばれる。車であと1分も走れば、学校に着くが、校内の職員駐車場まで一緒に行くわけにもいかないので、少し手前で車から降りて、5分ほど歩いて学校に向かう。まだ、始業前は充分時間があるので、登校中の生徒は殆どいない。校門前の歩道で陸上部が、校庭の空きスペースで野球部が、それぞれ朝練をしている程度である。

登校をした麻由は、先ずは教務室に行って、全学級の学級日誌に目を通す。これは生徒会長の必須業務ではないのだが、日誌を読むと、その日(昨日)に自分の目の届かないところで起きたことや、各生徒の考え方や性格を、何となく把握できるのだ。丁寧な文字で書かれた日誌、汚い字、ちまちました小さい字・・・出来事欄にどうでも良いことを細々と記事にした日誌、ほぼ何も書いていない日誌、一応書いてあるが気に止める価値もない日誌・・・色々あるが、本日見た限りでは、特に面白い日誌は無さそうだ。麻由が率いる2-Aの日誌は、及第点と言ったとこだ。悪くはないのだが、欲を言えば、2-Aに所属しているからには、もう少し知性と教養のある文章を書いて欲しい。

読んでいると、時々、目を引く日誌に遭遇する。そんな時は、ページの上に記入された日直の名を確認する。日直名『源川紅葉』と言う名は、何度か見た。高校1年の時は、別のクラスに「明るい」を大幅に超越して「騒がしい」子が居ることは知っていた。高校2年で生徒会長になって、権限を行使して学級日誌に目を通すようになり、どうでも良い日常的なことを、かなり特殊な視点で表現したり、一般人には理解できない壮大なことを書いたりする『源川紅葉』に、興味を持つようになった。
そして、最近は『源川紅葉』を目で追うようになり、ハッキリと意識するようになった。・・・少し目障りだと。



小学校時代、クラスメイトの、麻由への嫌がらせは、しばらく続いたが、小学校6年生の春になると、少しだけ環境が変化した。6年生になってから担任が替わるのは、あまり無いことなのだが、4月から赴任してきた女の先生が、麻由達のクラスの新しい担任になる。
先生は、いつも独りでいる麻由を気にしてくれた。先生の手伝いを麻由に頼んだり、誰もやりたがらない飼育委員の仕事を麻由に依頼して、一緒にメダカの水槽の水替えをしたり・・・いじめの対象が先生と一緒に居る為に、クラスメイトの嫌がらせは徐々に少なくなった。麻由自身、先生に信頼されてることが嬉しくて、少しずつ元気を取り戻し、小学校卒業の頃には、テストで100点を取って名前を読み上げられる常連になるほどに、落ち込んだ成績も回復していた(中学以降と違って、小学校のテストで100点を取るのは、それほど難しくない)。ただし、一度壊れた友情が回復することはなく、卒業まで、麻由が孤立したままなのは変わらなかった。

麻由と同じ国絡小学校の6年生達は、ほぼ全員が、文架北中学校(紅葉と亜美は文架東中)に入学をした。言うまでもなく、麻由をいじめていたイケてる女子も一緒の中学校である。小学校6年生の1年間を経て、麻由が子供心に学んだことは、「先生に気に入られれば守られる」と言うことだった。麻由の新しい学級の担任は、50代の男性教諭だった。麻由は早速、誰よりも早く提出物を出したり、教務室に授業の質問をしに行ったり、いつも笑顔で挨拶をしたりして、担任に気に入られる努力を始める。
しかし、担任がほぼ全ての教科を教えてくれる小学校とは違って、担当教科とホームルーム以外に接点のない中学の担任では、目が行き届かないところが沢山あることを、麻由は知ることになる。

「アンタさぁ・・・最近、調子に乗ってるよね?」
「小学の時、私たちのこと、担任にチクっただろ?中学に入ってまで、同じ事をするつもりなの?」
「また同じ事したら、男子に先輩達に頼んで、アンタを処刑するよ!」
「自分じゃ何も出来なくて、いつもいつも、先生の陰に隠れていた弱虫のクセに!」

小学校の頃に絶縁をした友達が馴れ馴れしく寄ってきたので、「友達に戻れる?」と淡い期待をしたのが間違いだった。彼女に体育館裏に連れて行かれると、そこには、小学校の頃のイケてるグループの女子達が待ち構えていた。彼女達は、‘いじめの対象’が‘守る術’を失うタイミングをずっと待っていたのだ。いじめを止めたわけではなく、先生が邪魔でいじめることが出来なかっただけ。でも、もう、麻由を守ってくれる先生はいない。

麻由は小学校の先生に、彼女達のことを密告などしていない。先生の方が、異変に気付いて、麻由を気に掛けてくれていたのだ。だが、そんな言い分など、彼女達は聞く気も無さそうだ。少しだけ勇気を振り絞って「私は何もしていない。悪いのはアンタ達じゃないの?」と反論したが、いじめっ子の怒号で掻き消された。彼女達は、ニヤニヤしながら「聞こえなかったから、もう一回言え」と言うが、もう怖くて声が出ない。何も悪い事なんてしていないのに「謝れ!」と言われて、蚊の泣くほどの小さな声で「ごめんなさい」と言いそうになる。「なんで、自分ばかりがこんな眼に?」と切なくなる。

「アンタ等、そこで何やってるの!?」

大きな声が投げかけられて、いじめっ子達が動きを止めた。麻由達を見付けて駆け付けてきたのは、3年の生徒会長だった。いじめっ子達は「何もしていない」「話をしていただけ」と言うが、先輩は聞く耳持たずに「自分が生徒会長のうちは、いじめなんて一切許さない!」と一喝をする。生徒会長では相手が悪すぎると判断した‘いじめっ子達’は、「またね、麻由!」と友達のフリをしながら、オドオドと去って行った。

「大丈夫だった?」
「・・・は、はい」
「あんな、格好ばっか一丁前で、中身の無い奴等なんて、強気で反撃すれば怖くも何ともないよ!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

先輩は、いじめっ子達を追い払った後、ヘタレていた麻由を見てニッコリと微笑む。とても格好良く感じた。だけど、先輩の言う「強気で反撃」なんて理想論でしかない。それが出来る人は良いが、出来ない人も沢山居る。何よりも、たった今、いじめっ子達に「自分じゃ何も出来ない」「先生の陰に隠れていた弱虫」と、麻由も「格好ばっか一丁前で、中身の無い奴」と同レベルの罵声を浴びせられたばかりだ。

「勉強でも、スポーツでも、何か、一個で良いよ。
 努力して、あんな奴等に負けない、自信の持てる物を作りなよ。」
「自信・・・ですか?」
「そう、自信だよ。他人の力を借りるんじゃなくて、自分に自信を付けちゃうの。
 そうすれば、あんな奴等は寄ってこなくなる。
 あいつ等がキミに寄ってくるのは、キミを見下して、
 何をやっても、キミになら勝てるって思ってるからなんだよ。
 自分たちじゃ、何も出来ないクセしてさ。」
「・・・・・・・は、はい」

麻由には「先輩みたいになりたい」と言う目標ができた。先ずは、元々苦手ではない勉強を頑張ることにした。学校での授業に集中して、家庭学習は手を抜かず、生活費に余裕が無くて塾に通えないぶんは、放課後に先生への質問をしてカバーした。スポーツも頑張った。今まではバスケットボールやバレーボールでは、ボールが廻ってこないように人の影に隠れていたが、無理をしてでもボールを取りに行くようにした。沢山失敗をしたが、周りのみんなはフォローや応援をしてくれた。卒業間際の先輩に勧められて、2年生になってからは、新しい友達と一緒に、生徒会活動に参加をした。そして、3年生になって、優麗高への推薦入学を決めた。

高校1年になって、友達と一緒に行ったショッピングセンターで、偶然に小学校時代のイケてる女子×2人に会った。あまり気にも止めていなかったが、彼女達は、麻由とは別の高校に進学をしている。2人とも、麻由を見て手を振ってきたが、その顔は少し引き攣っているように見えた。小学校時代みたいなイケてる女子には見えなかった。一緒にいた友達が「彼女達は?」と聞いてきたので「小学校の幼なじみ。でも、いじめられていたから、あまり良い思い出は無い」と言ったら、友達は不思議そうに首を傾げた。

「麻由が?あんな子達に、いじめられていたの?ちょっと想像できない」
「う~ん・・・元気なかったけど、なんか有ったのかな?小学校や中学校の頃は、もっとイケてたのに。」
「イケてた?嘘でしょ、あんなのか?そんなふうには見えないよ。
 それに、どう見ても、麻由の方がイケてるよ。」
「・・・・・・え?」

始めて実感をした。いつの間には、麻由は、いじめっ子達を超えていた。そう言えば、中学2年くらいの頃からは、彼女達が麻由に嫌みを言うことも無くなっていた。彼女達は、自信見満ちた麻由を‘もう、いじめることが出来ない’と判断したから、寄ってこなくなったのだ。小学校6年で担任の先生のお陰で環境が少し変わって、今は高校1年生。麻由が、イケてるいじめっ子達を超えて、イケてない小者として見られるようになるまで、5年近くかかった。過ぎ去ってみればあっという間だけど、5年間は、とても長かったように思える。今ならば「私は変わった」と自信を持って言える。



そう・・・麻由が、この地位を得るまで、5年もかかった。我ながら沢山努力をしたと思う。だけど、何の努力もせず、何の地位も望んでいないのに、いつの間にか、自分の真後ろにいて、麻由のトップを脅かす者がいる。

「ち・・・ちがう、真後ろなんかじゃない。・・・あの子は」

仮に、目の前で何かのトラブルが発生した時、麻由ならば、一歩立ち止まって考えて、自信と経験に裏打ちされた対処法を選んで、解決の為に足を踏み出すだろう。だが、多分、彼女は違う。自分が立ち止まって思案している間に、トラブルに向かって突っ走っていくだろう。きっと、麻由が対処法を考えて、一歩踏み出した時には、2歩も3歩も先を走っているだろう。それが無策・無能・無鉄砲で、冷静に対処が出来る麻由の方が優れていると言われれば、それは正解なんだろうけど、一刻を争うトラブルの時に、一歩も立ち止まって考える余裕なんて無い。自分には出来ないことを、彼女は平然とやってのける・・・。

「あの子は・・・真後ろではなく、私の先を走っている」

多分、紅葉を意識し始めた頃から、過去に置いてきたはずの、‘嫌な思い出’を夢で見るようになった。自分は弱虫ではなく、勝ち組だと意識するほど、イライラとして、‘嫌な思い出’が繰り返されるようになる。

麻由の悔しそうに歪む・・・足下にある陰が、八本足の昆虫の姿に変化をする。そして、小さく不気味な唸り声を発したら、麻由の全身から湧き出た“誰にも見えない黒い靄”が、八本足の影にグングン吸い込まれていく。

「立花さん・・・怖い顔してどうしたんだい?何か考え事かな?」

出勤をしてきた教頭先生に声を掛けられて、麻由は我に返る。同時に八本足の影は、何の変哲も無い普通の影に戻った。



-文架大橋-

「・・・んぁ!?」

橋の上を通過中の紅葉が、自転車に急ブレーキを掛けて止まり、優麗高の方を見る。つられて、同じく自転車通学中の亜美と、原付バイクに乗っていた美穂も、その場に止まる。

「どうしたの、紅葉?」
「まさか、もうお腹減った?もしかして、また、朝ご飯食べてこなかったの?」
「ん~~~~~~~~~~~~・・・
 なんか、学校の方でヨーカイのヤな感じがぁったんだけど・・・・・・気のせぃだったかなぁ?
 アミとミホゎなんか感じなかった?ヨーカイのモヤモヤした感じっ!」
「さぁ・・・ミラーモンスターならともかく、妖怪は、紅葉が感知できないのを私が感知できるわけないでしょ。」
「え~~~~と、私はその質問に答えなきゃダメなのかな?
 クレハが、妖怪を感知して退治してるのって、一応、私は知らないことになってるんだよね?
 退治してるのは内緒だけど、感知して種類まで判断できるのは、知っていて良いんだっけ?」

ちなみに、優麗高は、学校に届け出をすれば原付の免許は取得して良いが、原付での登校は禁止されている。言うまでもなく美穂は、校則違反中のワケで、亜美が注意しても「自転車が無い」「盗んでも良いなら自転車通学する」と言って、聞く気が無い。原付は、学校の近くにあるショッピングセンター駐車場に止めて、そこから徒歩で登校をするのだ。
 

ゾルダⅡ世・トン騎の結婚編24の4~5話先のネタ?

 投稿者:仮面歩行者  投稿日:2016年 5月 4日(水)15時09分50秒
返信・引用
  > No.651[元記事へ]

小津屋敷の崩壊によって、床下から発見をされた文献=『薩陸村悲話』に眼を通した真司は、大きな溜息をついた。

「薩陸村を離れる前に、【涼村暁之進作・戦場の女神像】を拝みたい。・・・そう言うワケなんだな。」
「ぅん!どんな石像なのか見てぉきたぃしぃ~~!」
「私の窮地を救ってくれたワケですから、礼は伝えたい・・・ジャンヌだ。」
「キリシタン弾圧って事は、今から400年前の歴史有る作品ですからね。・・・亜美で~す」
「なぁ、燕真?オマエも行くのか?・・・城戸だ!」
「あぁ!紅葉や平山さんが行くなら、保護者として、着いて行くしかないと思ってる・・・佐波木です」
「保護者の自覚があるなら、少しは保護者らしくしてくれ!
 オマエがシッカリしないから、オマエの派閥の連中が全員野放し状態って理解してるのか!?城戸だ!」
「何とか頑張るよ!・・・まぁ、そんなワケで、俺達は此処からは別行動をさせてもらうから、
 真司達は先にデブのカレー屋に向かってくれ!」

猛獣のような紅葉を筆頭に、全く役に立たない燕真や、ザコのクセに無駄に存在感を発揮している亜美&ジャンヌが別行動をしてくれるのはしてくれるのは非常にありがたい。この4人(特に紅葉)が居なくなるだけでも、今後のストーリーは、かなり円滑に進むようになるだろう。
・・・が、一抹の不安もある。今章のメイン軸が、そのまま紅葉達に移ってしまう可能性があるのではないか?
今章開始後、未だにスタート地点から動いていないのに、更に、足止めをされるパターンに成り兼ねない予感がする。
真司やデブが目的地に向かう描写が2割、萌獣の描写が2割、残り6割が紅葉達の冒険活劇。場合によっては、特に描写も無く、気が付いたら、デブの実家でカレーを食ってるシーンになっているとか・・・。

「面白そう!私も、ジャンヌの勧誘も兼ねて、紅葉ちゃん達の別行動班に入ろうかな!」
「おぉっ!美穂も、着ぃてきてくれるのぉ!?」
「私の勧誘とは一体?・・・ジャンヌだ!」

しばらく黙って「今後の方針」を聞いていた美穂が、真っ先に紅葉グループに入りやがった。もしかして、この女、嗅覚を働かせて、どっちのチームがメインになって、出番が与えられ続けるかを見極めたのではあるまいか!?

「オマエ等だけでは不安だ!メインのクセに、山中で迷子に成って、今章終了とかありそうで怖い!!
 仕方がない!!俺も行く!!・・・城戸だ!」

そんなワケで、【涼村暁之進作・戦場の女神像】を拝みに行く真司&美穂&ザムシード組と、【デブの実家】にカレーを食いに行く石松&吾郎&あきら&優衣に別れることになったのだが・・・

「チョット、現実問題的に、行きにくいです・・・あきらです」
「俺も同じ事を考えていたっす。石松さんの実家、実は関西や北海道だったって事になりませんか?」
「ぶひぃ!!?今さら!!?」
「それ良いね!英くんの実家は北海道のカレー屋さんにしましょう!」
「ぶひぃぶひぃ!!7~8年前の初登場から、九州弁っぽいのを喋っているのに、今さらばい!?」
「なら、台詞と設定を書き直せば問題ありませんね・・・あきらです」
「勘弁してくれ~~~・・・・・・・・・・・・・・・作者だ!!」
「仕方ないっすね。時間稼ぎの意味も含めて、みんなで御参りに行きましょう!」

・・・と、まぁ、この様な経緯があって、結局は全員で【涼村暁之進作・戦場の女神像】を拝みに行くことになった・・・・・・・・・・が。





―一刻半後・薩陸山の山頂付近―

「異国の者達だべさ!!」
「沢山いたぞ!!」
「引っ捕らえろ!!」
「お代官様に差し出せば、たんまりと褒美を貰えるに違いない!!」

真司&美穂&ザムシード組&&石松&吾郎&あきら&優衣は、洞窟に隠れて、追っ手の村人達をやり過ごす。逃走中にあきらが転倒して捕まりかけた時はかなり焦ったが、吾郎とデブが、村人をブン殴って、辛うじて救出をしてくれた。

「何処に行っただ!?」
「あっちさ、探してみるべ!」
「んだ、んだ!」

村人達は、洞窟には気付かずに、獣道を通って茂みの中に潜り込んでいった。それぞれが、斧や鎌や鋤を持っていて、眼を血走らせていて、真司達を殺す気満々って感じで、非常に物騒である。あと、薄汚い野良着を着ていて、下半身はフンドシ一丁で、頭には髷を結っていた。

デブの実家に行く為に、薩陸村の住宅街を通過したら、民家が藁や板を屋根にしたようなオンボロ小屋ばかりだった。あちこちで、家畜の牛が「モーモー」と鳴いている。最初は、「村内にこんな時代錯誤な地区なんてあったっけ?」と思った。

田んぼに突っ立ってポカンと口を開けて、真司達の通過を眺める村の男達は、皆が上半身は野良着で、下半身はフンドシ一丁だった。最初は「全員、伊達の配下か?」と思った。

だが、違った。村人の1人が「熊童子家来のバテレン人がオラ達の生き肝を取り来おった!」と捲し立てた途端に、農作業中の村男達の目付きが変わった。

しかも、「お光さん」と言う名の、あんまり可愛くない村の権力者の娘が「ワダシより綺麗な娘っ子なんぞ、生かしておくなだす!」と号令を掛けやがったもんで、村人達が、農耕具を手に取って、襲い掛かってきたのだ。言うまでもなく、美穂も、あきらも、紅葉も、亜美も、ジャンヌも、権力者の娘よりも数倍は美人だ。もちろん、優衣ちゃんだって、権力者の娘と比較して・・・・・・え~~~~っと・・・まぁ、それなりに、あれだ。

そんなワケで、真司達御一行様は、ワケも解らずに指名手配される立場になってしまった。

時は、今から遡ること400年前の江戸時代。徳川3代将軍の治世で、キリシタンへの弾圧が激しさを増している。日本人なんだけど、異国の格好をした(21世紀人の)真司達は、薩陸村の人々から、同じ人種とは見なされず、村に着いた途端に追い回されるハメになる。ジャンヌに至ってはモロにガイジンである。言い訳のしようが無い。つ~か、キリシタン扱いで追われているのか、美少女が沢山いるから目の仇にされているのか、よく解らん。とにかく、村男達の血走った眼が怖い。‘捕まりやすい’属性を持つ亜美や、露出狂のあきら辺りが捕まったら、多分その場で押し倒されて、村男達から鬼畜なエロビデオみたいな行為に及ばれてしまうだろう。つ~か、涙眼で逃げ回ってる亜美は、まぁ正常として、あきらは、ワザと逃げ遅れそうになったり、逃走中に転んだりして、まるで捕まることを望んでいるような気がしないでもないが・・・。

どうして、こんな事に成っているのだろうか?

崩壊した小津家を発ったのが3時間前。【涼村暁之進作・戦場の女神像】を拝見したら、【戦場の女神】像ではなく、剣を持って乳首に宝石がはめ込まれた【全裸の女体】像だった。涼村暁之進と言う男は、文献通りの男ではなく、ただの助平なのかもしれない。まぁ、古い文献だし、言い伝えが改変されることはありがちなので、これは良いとしよう。せいぜい、紅葉が【全裸の女体】を見た瞬間に、「ぎゃぁぁっっ!!燕真のヘンタイ!!見ちゃダメ!!」と言いながら燕真の両目を2本の指で突いて、燕真が「うぎゃぁぁっっっ!!」と、20分間ほどのたうち回った程度である。
そんで、しばらく拝んで、「さて、行こうか!」と思って目を開けたら、【全裸の女体】像が切削中の岩の塊になっていて、「ん?」と思いながら洞窟から出たら17世紀(江戸時代)だった・・・何故だ!?



-キャバクラ萌獣-

めふぃ子とベルちゃんは頭を抱えていた。不可能なはずの、疑似空間の続行と、異空間侵入の同時進行・・・つまり、疑似空間を抱えたまま、時の狭間への突入を試してみたのだが、やっぱり無理だった。ものの見事に失敗をしちゃった。

時の狭間に突入した瞬間に、疑似空間が反発をして、時の狭間から弾き出されてしまった。それどころか、変な時の捻れに乗ってしまい、気が付いたら、萌獣アジトビルの周りには、城下町のような風景が広がっていた。

「りんり~ん・・・ここは、17世紀の帝美江洲県・・・この時代の呼び方だと、帝美藩の城下町りん!」
「困っためふぃね。こんな所では、軍資金の荒稼ぎは出来ないめふぃ。
 私達のいるビル以外の全てが17世紀になってしまったのかしらめふぃ?」
「う~~~~~~~~~~~~~~ん・・・
 特殊バリアの影響で時空の歪みに潰されなかったこのビルと、
 標高が高くて時空の歪みに巻き込まれなかった薩陸山の山頂、
 あとは、この地に居るか解らないけど、時空干渉を受けない特異点が居れば、その人くらい・・・りん。
 後は疑似空間全部が17世紀になってしまったりんね。
 もちろん、日本遠征中のゼット姉達は、21世紀の残ったままりん。」
「21世紀に戻る方法は?」
「私達の科学力では無理りん!
 可能性があるとすれば、偶然この空間にいるかもしれない特異点を捜し出して、
 その人に協力してもらって、時の狭間を経由して、元の世界に戻るしかないりん」
「確か、薩陸村付近で、異空間に干渉した記録があっためふぃね?」
「うん!有ったりん!その線で捜索をするべきりんね。
 早速、メトリンちゃんの許可を貰ってこようりん!」
「・・・・・・それは・・・難しいめふぃかも」
「・・・・・・・・・・なんでりん?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

めふぃ子、大きな溜息をついて、窓の外を眺める。メトリンやガッツちゃんやベムスちゃんやバードンちゃん等々、変化をした風景に興味を示した萌獣達は、揃って、サッサと城下町に遊びに行ってしまったのである。

「仕方がありませんめふぃね。メトリンさんには事後報告にするとして、
 修理が終わったばかりのクレゴンさんを連れて、薩陸村とやらに行ってみますめふぃ。」



-薩陸村-

数日前に夕子りんに干物のされて、そのまま旅館内で放置されて居たはずのミッチは、周りの風景を見て眼を丸くする。さっきまで、窓から湖が見える旅館の一室に転がっていたはずなのに、いつの間にか、だだっ広い田んぼの真ん中に立っている一本杉の枝の上に転がっていたのだ。旅館は影も形もない。
フンドシ族は、フンドシ力によって、時の狭間を自由に行き来できる。彼は、その能力(特異点)によって、時空の歪みに巻き込まれてしまったのである。

「どうなっているんだ?」

枝の上から辺りを眺めると、大きな御屋敷が一軒建っている。位置的には、小津屋敷があったはずの場所だが、その形は、光実が知る小津屋敷とは全然違う。
何がどうなっているのか全く解らないが、とりあえずは情報を収集しなければならない。光実は、スルスルと幹を伝って降りて、大きな御屋敷に駆けていくのであった。ちなみに、ミッチはフンドシ一丁なので、真司達とは対照的に、比較的アッサリと、17世紀の人々に馴染める事になる。

小津家は、室町時代(15世紀)から栄え始め、この時代(17世紀)には、辺り一帯の大地主になっていた。
しかし、度重なる飢饉や、戦(キリシタン弾圧によって発生した島原の乱)の為の徴兵で、村は貧困にあえぎ、小津家は、大地主とは名ばかりの、傾きかけた家になっていた。
当時の小津家の当主は、あんまり可愛くない娘のお光を、隣の外陸曽(げりくそ)村の村長・猿見田(さるみた)家の息子・牙萬(がまん)に嫁がせ、色々と援助してもらおうと考えていたのである。

え!?‘下痢グソを我慢してる猿みたいな顔’じゃなくて、猿みたいな顔をした外陸曽村の猿見田牙萬て名前の奴だったの!?



-その頃-

洞窟に隠れて村人達をやり過ごした真司達は、周囲を警戒しながら散策を開始する。村人に追われるのは嫌だが、だからと言って、洞窟内でジッとしているわけにはいかない。飯は、紅葉のYスマフォが有れば何とかなるだろうけど、紅葉のスマフォも含めて、全ての通信機器が『圏外』になっている。まぁ、江戸時代なんだから、当然と言えば当然だろう。はぐれてしまったら連絡を取り合うことが出来ないので、皆は一塊になって、慎重に歩き続ける。

ピ~ロロッピッピ~!・・・ピ~ロロッピッピ~!
突如、真司の携帯電話の着信音が鳴り響く。近くに村人が居て、この音を聞かれてしまったら大変だ。ビクッとして慌てて電話を取り出して着信に応じる真司。

「は、はい!」
〈おう、真司か?〉
「編集長?え!?もしかして、編集長もタイムスリップを?」
〈タイムスリップ!?何言ってんだオマエ!?〉
「気付いてないんですか?編集長達のパソコン、ネットとか繋がらないでしょ?」
〈ん?チョット待ってろ?・・・・・・・・・・・・・・・普通に繋がるぞ!
 おっ!ARASHUの大埜君の主演ドラマ‘世界一難しい鯉’の視聴率が右肩上がり、
 松純の主演ドラマ‘9.99’も好調キープだってよ!
 そんな事より、今、何処だ?直ぐに来れるか?
 尾名君とロシュオ君では、神崎さんの言う恋愛小説は書けん!直ぐにこっちに来て手伝ってくれ!〉
「いや・・・あの・・・直ぐに来いと言われましても・・・・今ちょっと・・・」
〈何だ、オマエ・・・また、ワケの解らない事に首を突っ込んでいるのか?〉
「あの・・・その・・・ちょっとばかり、別の時代に、首どころか全身を突っ込んじゃいまして・・・」
〈やれやれ!相変わらずバカだなぁ~!仕方がない!こっちは俺達で何とかする!
 オマエが暴走をするのはいつもの事だから大目に見るが、危ない事にだけは首を突っ込むなよ!!〉
「ははははは・・・・・・・も・・・もう・・・遅いです。」

プツン!・・・ツー・・・ツー・・・

通話を切り、大きな溜息をつく真司。廻りで様子を見ていた美穂や燕真も、その気持ちを察したらしく、声を掛ける事が出来なかった。
・・・・・てか、誰かツッコミを入れろよ!
「何故、21世紀にいる大久保の電波が、17世紀に届くんだ!?」と!!
宇宙にいても、別の時代にいても、何故か、大久保からの電話だけは、真司に繋がるようだ。

どうやら、大久保や神崎は、この時代には飛ばされていないらしい。17世紀に来てしまったのは、山頂の洞窟に来た真司達だけなのかもしれない。21世紀に戻る手掛かりは一切無いが、洞窟内でタイムスリップをしたのなら、もう一度洞窟に行けば、元の時代に戻れるかもしれない。可能性は極めて低いだろうが、一行は、山頂の洞窟に向かってみることにした。

しばらく歩いていると、自分達以外に、茂みの中をガサガサと動き回る音が聞こえてくる!追っ手の村人か、もしくは獣か!?一行が身構えようとした瞬間!!

「にゃはっはっは~~~!カワイ子ちゃんみっけ~~!!」

友人の亜美を庇うようにして立っていた紅葉目掛けて、素早く襲い掛かってくる人影が出現!!その者は、素早く紅葉の背後に廻り込み、一切躊躇うことなく、紅葉を抱きしめた!!

「にゃっはっは~~~~~!!!!
 発育途中の女子(紅葉)の、子供でも大人でもない体付き!!良き感触だぜぇ~~!!」
「ぎゃぁぁぁぁぁっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっ!!!!」

紅葉は、凄まじい金切り声を上げながら、背後から廻された腕を掴んで、渾身の力を込めて一本背負いで投げ飛ばす!!

「にゃっはっ・・・は・・・・はぅぁぁっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっ!!!!」
「・・・・あ!涼村さん!?」
「はぎゃっぅぁぁぁぁぁぁぁっっっ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!」

投げ飛ばされている真っ最中の男は、真司がよく知る人物=涼村暁だった!!・・・が、真司が気付いた直後には、紅葉に投げ飛ばされた暁は、真っ逆さまに谷底に落ちていくのであった。



-数分後-

とりあえず、1回死んで生き返った暁と合流した真司達は、お互いに「何故、こんな所にいるのか?」を話し合う。宇宙編で女体化した暁は、筋肉の愛人としてキングライナーに連れ込まれ、筋肉が去ってキングライナーの主がイケメン狩り軍団に変わったタイミングで、荒野に捨てられたらしい。気が付いたら男に戻っていた。なんのアテもなく荒野を彷徨い続けた暁は、やがて、謎の扉を見付けて、入ってみたら江戸時代の帝美藩の城下町に辿り着いたそうだ。

「・・・なぁ、美穂?当時のイケメン狩り軍団のリーダーってオマエだよな?」
「あ~~~・・・そう言えば、伊達が居なくなった隙を突いて、大幅な人員整理をしたわ。
 要らない子や、生意気な奴や、使い物にならない干物は、全部、電車の外に捨てたっけな。」
「・・・それは、酷すぎるだろう」

そんなワケで、17世紀の城下町に来た暁は、持ち前の適応力でアッサリと、この時代に馴染み、腕の立つイケメン剣士として、帝美藩に召し抱えられることになった。だがそれが拙かった。イケメンで長身で女好きな彼は、とりあえず、帝美城の姫君を口説いて手を出しちゃった。殿の側室何人かにも手を出しちゃった。そんな事情を知らない殿様は、暁に家老の娘との縁談を持ちかけた。もちろん、許嫁に決まった娘にもソッコーで手を出して身籠もらせちゃった。それを聞いた姫が激怒をする。お陰様で、姫とヤッたことや、側室と乱交したこと等々、全部バレちゃった。暁は地位も許嫁も捨てて脱藩したのであった。

「え~~~~~~~~~~~~~っと・・・あの・・・チョット待って!・・・佐波木です」

暁の武勇伝を聞いている途中で、燕真が口を挟む。

「アンタの名前って、涼村暁だよな?・・・佐波木です」
「あぁ!そうだが!」
「涼村暁之進って人と名前が似てるけど、兄弟か親戚か?・・・佐波木です」
「おぉ!なんでその名を知っているんだ!?涼村暁之進ってのは、俺の偽名だ!
 暁って名前じゃ、江戸時代の剣士っぽくないからな!」
「あの・・・涼村さん、念の為に聞くけど、涼村って・・・キリシタン?・・・城戸だ」
「いや、仏教!・・・てか、無宗教かな?なんで??」
「う・・・うん・・・チョットね」

真司&燕真は、所持していた文献『薩陸村悲話』をパラパラとめくって、涼村暁之進が脱藩した理由を確認してみる。文献には、「切支丹の弾圧から逃れて脱藩をした」と書いてあるが、どうやら違うらしい。涼村暁之進は帝美城城中の女達と不義密通を繰り返しまくって、バレたから逃げたのだ。言い伝えゆえに、ある程度の改ざんや誇張はあるだろうけど、ここまで違う事に成っているとは思ってなかった。

「そ・・・そりゃ、逃げるしかないわなぁ~・・・佐波木です」
「逃げてなきゃ、確実に切腹させられてるわね。」
「アンタ、この時代に来てまで、なんちゅ~ことをやっているんだ?・・・城戸だ」
「にゃっはっはっは!つい・・・な!
 だがな、こんな俺でも、少々困ったことになってんだ!
 つい最近、村の大地主の娘に付きまとわれちゃってさぁ~~・・・
 逃げ回ってるんだけど、どうにもしつこくて!」
「ブヒィ!大地主の娘?」
「・・・もしかして、お光さんて名前っすか?」
「そうそう、お光!
 スゲ~不細工なんだけどさ、この村(薩陸村)には、お光より可愛い子がいないんだから仕方ないよな!
 噂では、お光より可愛い子は、みんな、お光に捕獲されて、城下の色街に売られているらしいぜ!」
「・・・お光さんて、最悪だな。
 21世紀の薩陸村にハズレ娘ばかりが多いのは、アタリ娘の血筋が絶滅しているからか・・・佐波木です」
「でもさ、城から逃げ出して、女日照りになって、ムラムラして、
 つい、誰でも良い感じになって、お光に手を出しちゃったんだ!
 そしたら、その次の日から、まるでストーカーのように付きまとってきっちゃってさぁ!
 ありゃ、ザファイア以上にしつこいぜ!にゃっはっはっはっは!」
「・・・・・・・・・・・・アンタ、最低だな。・・・城戸だ」

なるほど・・・『薩陸村悲話』と現実が、だいぶ違うことは置いとくとして、後半だけで急に『悲話』になっちゃった理由は、その空白を真司達が埋めて『悲話』にしなければ成らないという【ミッション】らしい。
①暁に、鬼退治をさせる。もちろん名乗らせない。②暁とお光に仲良くしてもらう。③暁をキリシタンに仕立て上げて、外陸曽村の猿見田家の長男・牙萬を誘導して発見して貰う。④暁を死罪にする。
上記①~④で『悲話』を完成させた後で未来に戻らなければ、タイムパラドックスが発生して、未来の小津家で、仮面ライダージャンヌ・シャンゼリオンフォームが誕生しなくなってしまう。もちろん、暁を過去に置き去りにして、見殺しにするのは、歴史を改ざんしない為には仕方のないことだ。・・・てか、過去に来てまで女ったらしぶりを発揮している暁がムカ付くから、絶対に置き去り&見殺しにする!どうせ、忘れた頃に、当たり前のように未来で生き返ってるだろうけど、とりあえず死罪になりやがれ!

一同は、暁に鬼退治をさせた上で見殺しにする班と、未来に帰還する方法を探す班に分かれて、行動を開始するのであった。

 

仮面ライダーザムシード外伝・粉木STORY激闘編3

 投稿者:ゾルダⅢ世  投稿日:2015年 4月 2日(木)13時50分39秒
返信・引用
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キィィ――――――・・・・――――――ィン

妖怪接近音が響く!赤竜は飢えているのか?こんな場所で奴が襲われたら成す術が無い!!
だが粉木と由依は、追いかけてる男を細かく観察してるうちに“異変”に気が付いた。

(・・・接近音に反応している!?)
(まさか、契約者?)

そうなのである。スーパーカブの男は、明らかに赤竜の接近に感づいてる様子なのだ。
やがて男は、適当な交差点を右に左にとクネクネ走り回って、路地に入ったとこでカブを停車させた。
道の両側には粗末な木造の民家がビッシリと並んでいるが、その窓は全て擦り硝子で何も映らない。
少し離れた正面に建ってる小さな雑居ビルの窓だけが、映すモノとしての役目を果たしてる。

キィィ――――――・・・・――――――ィン
  キィィ――――――・・・・――――――ィン

接近音が大きくなる。赤竜の巨体が、高々と吠えながら雑居ビルの窓の中を飛んでいる。
そしてカブの男は、明らかにビルの窓から赤竜が襲ってくると確信してるようだった。
窓の中を飛び回る赤竜をキッと睨み・・・懐からカードデッキを取り出した!!
粉木が愛車を跨いでサイドスタンドを立てるより早く、由依が飛び降りて男の元へ向かう。
その間に赤竜が、窓から飛び出して男に襲いかかった!!
だが男は、慌てず騒がずカードデッキを赤竜に向ける。 ☆ピカッ バァーン!!
カードデッキに弾かれた赤竜は、忌々しげに「グガァ――ッ!!」と嘶きながら窓の中へ戻った。

「・・・・・うひゃあ~~っ」

粉木はカードデッキを取り出したが、肝心の赤竜は、一旦諦めて飛び去ったらしくて気配が消えた。
あの男・・・他人を巻き込まない上に赤竜が飛び出せる場所を限定させる為に、この路地へ誘い込んだのか?
「パッと見た感じアホそうやけど、なかなか腹が座っとるし抜け目ないやっちゃなぁ」と粉木が思ってる間に、
由依が男の元へ駆け寄って訊ねる・・・行方不明の兄・史郎を探してるから、彼女も必死である。

「あなた・・・・契約者なの!?」
「・・・へ?・・・けいやくしゃ?」
「そのカードデッキ、門崎史郎って奴に貰ったんか!?」
「カードデッキって、この変な箱の事か?門崎史郎って誰だ?」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・」
「俺、昨日“神隠し”の取材で向かったアパートで、これ拾ったんだよ!!」

男は興奮しきって喋りだす。聞けば昨日、世間で“神隠し”と言われてる現象に遭ったらしい男のアパートに行った。
・・・その部屋は、窓に鏡に戸棚のガラス戸まで“映るモノ全て”が、新聞紙で覆われてたそうだ。
異様な雰囲気に飲まれつつも調べてたら、床に落ちてた“箱”を拾った。その途端“鏡の中の世界”が見えるようになった。

「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・偶然だったんかいな・・・」
「しかも、あの化け物に襲われまくり!!」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「どうやら、鏡とか映るモノの近くに居ると拙いらしいな。あの部屋にも納得だ。
 あんた等、何か知ってんのか!?だったら教えてくれよ!!ワケ解んね~よっ!!
 くんくん・・・・ぅゎ~、くっさっ!!頭かぃぃ~~~っ!!参ったぜ、風呂屋にも行けねぇ!!」
「・・・忙しないやっちゃなぁ・・・」
「あ、そうそう。俺『御礼新聞』の嘉戸真治!!“神隠し”の真相を調べてんだっ!!」
「・・・なるほど、ブン屋だったんかいな」
「なあ!?契約者とかカードデッキとか、何の事だよ!?」
「・・・・知らん方が身の為や。悪い事は言わん、この件からは手ぇ引いとけ」
「そうは行くかっ!!俺はジャーナリストだっ!!・・・見習いだけど」
「食い殺されたら、一人前も半人前もあるかいな!ワシ等に任せて、引け言うたら引けっ!!」
「引かねえったら、引かねえっ!!・・・・あ、いけねっ!麗子さんに怒られる!!」
「あっ!?おいコラ、待たんかいっ!!」
「取材?・・・・ひょっとして、貴方の言う神隠しの?」
「聞いた感じ、そんな事件らしい!!じゃあなっ!!」
「頑固なやっちゃなぁ・・・」

嘉戸真治は慌ててカブに乗って、一目散に走り去った。忙しない上に、見た目に合わず頑固な奴だ。
粉木と由依も後を追いかける。赤竜は逃してしまったが、妖怪が出たなら倒して闇蝙蝠に与えなければならん。


―銀座の裏通り―

路地に駐車してるマツダR360クーペに、御礼新聞の女性記者・百衣麗子が戻って来て運転席に乗り込んだ。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9E%E3%83%84%E3%83%80%E3%83%BBR360%E3%82%AF%E3%83%BC%E3%83%9A
その美貌と颯爽とした仕草に、通りすがりの営業マンが思わず溜息を吐きながら眺めてる。場所柄、働く女性は珍しくない。
ただまぁ美貌が群を抜いてた。それと「恋愛も結婚も興味ありません」ってオーラを発する凛とした雰囲気が、逆にそそられる。
実際24歳だから、この時代なら結婚していてもおかしくない。ついでだが、スリーサイズは上から87-61-85だ。
麗子はハンドバックからメモ帳を出して、調べて書いてきた事を読み返し、余りの謎ぶりに頭を捻った。
休憩に出かけたデパートの従業員が、それっきり消えてしまったのである。
不審に思った同僚が更衣室へ行ったら、ロッカーの扉が開けっ放しでハンドバックが転がっていた。
念の為に、彼女が常連としてる近所の食堂や蕎麦屋などへ行ってみたが、どの店も今日は来てないと言う。
ちなみに財布は、置き去りにされたハンドバックの中だ。仮に自分の意志で失踪したにしても、1円も持たず何処へ?
「ってゆ~事は、もしや誘拐か?」と警察を呼んで調べてもらったが、争った形跡も不審な足跡も見つからない。
つまり「ここで消えた」としか考えられない状況なのだ。しかも最近、この界隈で似たような事件が頻発してるのだ。

「神隠しか・・・・おとぎ話みたいだけど、そうとしか思えない・・・
 それより“あのバカ”何処ほっつき歩いてんだろう?とっくに合流してるはずの時間なのに」

あんまり戦力になってない後輩の事を思う。好奇心が旺盛で何にでも首を突っ込みたがるとこは、ある意味で買ってる。
だが時に暴走しすぎて『盆踊りの取材に行って、何時の間にか櫓の上で太鼓を叩いてる』ような事がある。

キィィ――――――――――ィィン・・・キィィ―――――――――ィン・・・

道端にビッシリと並んだ車の“ボディーの中”に、奇怪な化け物が現れた。そして、刻一刻と麗子の方へ!!
8本の脚をモゾモゾと不気味に蠢かせて歩く、その妖怪の名は【大蜘蛛】。だが、彼女は気が付いてない!!

キィィ――――――――――ィィン・・・キィィ―――――――――ィン・・・

遂に大蜘蛛は麗子の車へ移った。だが、契約者でも何でもない一般人である彼女は気が付いてない!!
大蜘蛛はボディーからフロントガラスへ移動し、不気味に唸りながら口から太い糸を吐き出した。
その糸はルームミラーから現実世界へ這い出して、麗子の首を目掛けてウネウネと伸びて行く!!

「・・・・・何これ!?」

ようやく気が付いた時、糸は既に首や腕へ幾重にも絡み付いていた!!懸命に解こうとしたけれども、絹のしなやかさと
鋼の強度を併せ持つ糸は、人間の力で解けるようなシロモノではない!!
そのままルームミラーへ引っ張り込まれそうになって、ようやく恐怖を感じて叫ぼうとする麗子!!
だが、糸が首に巻き付いてる所為で声が出ない!!
薄れゆく意識の中、彼方からバイクの排気音が接近するのが聴こえる・・・。
間一髪で間に合った真治は、スーパーカブを一直線にR360クーペの元へと走らせて飛び降り、
ドアを開けて麗子を拘束してる糸を懸命に引っ張った!!その背後で、スタンドもかけずに放り出されたスーパーカブが
ガシャンと派手な音を立てて引っくり返る!!

「麗子さんっ!!しっかりっ!!」
(・・・嘉戸・・・くん・・・・?)
「このっ!!離れろ畜生っ!!」
(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

麗子は必死に糸を解こうとする後輩の姿を見て声を聴き・・・そのまま気を失った。
一方、少し離れた所に愛車を停めた粉木は、ジャケットの内ポケットからカードデッキを出してバックミラーへ向ける。
飛び出したベルトが、反転して粉木の腰に装着された!!そしてバックルにカードデッキを嵌めこむ。

「蓮・・・ゴホッ・・・勘平っ!!」
「させるかいっ!!変身っ!!」

バックミラーから飛び出したマスクとスーツが、粉木の身を包む!!コードネーム:騎士に変身完了!!
騎士の姿はミラーへ吸い込まれて消えた。そして“鏡の中”で待機してる特殊バイク【弾丸号】に飛び乗って走りだす。
何処からともなく闇蝙蝠が飛んで来て後に従う・・・・程なく“鏡の中の銀座”へ到着し、弾丸号から降りて大蜘蛛の元へ。
風の如く駆けながら腰に提げてる刀【暗黒剣】を引き抜き、大蜘蛛に駆け寄るなり現実世界へ向かって伸びてる糸を両断!!
同時に強烈な蹴りを叩き込んで吹っ飛ばした!!現実世界の糸が、根っこを失って消え去る。

「こら妖怪っ!!オノレの相手はワシやっ!!」
「ギギギッ!!ギィィ――――――ッ!!」

食事の邪魔をされた大蜘蛛は怒り狂い、代わりに騎士を食い殺そうと向かってきた!!
1つ1つが人間の身の丈ほどある8本脚が、ウネウネと不気味に蠢いて、前脚2本が矢継ぎ早に騎士を襲う!!
暗黒剣で凌いでるが、パワー不足は否めなくてジリジリ後退。それを現実世界から眺めて歯噛みする真治!!

「あ~クソっ!!押されてんじゃんよっ!!」

倒した運転席のシートに麗子を寝かせてドアを閉めた真治は、ボディーに映ってる光景を見て焦れた。
そして何の気なしにボディーへ手を突いたら・・・・全身がズブズブと、ボディーの中へ飲み込まれていく!!

「え!?わっ!?何だこりゃっ!?・・・・わああああああああ~~~~~っ!!??」

現実世界と鏡の世界を繋ぐ【ディメンションホール】をジタバタもがきながら飛ぶ真司の姿が、甲冑を思わせるマスクと
スーツとプロテクターで包まれる・・・まだ妖怪との契約が済んでないので、基本能力で劣る【不完全体】だけれども。
やがてディメンションホールを突き抜けて鏡の世界へ到着。まず地面に尻をぶつけて「いててて」と呟く。
次に周囲と眺めて、文字の類が現実世界と反転してるのに気が付いて「ええっ!?」と言って暫し呆然とした。
そして最後に、傍の車に映ってる我が身を見て「どわああああああ!?」と叫ぶ。

「これって、まさか・・・・・噂の“仮面ライダー”か!?」

その間にも戦ってた騎士は、暗黒剣では埒があかないと判断。飛び退いて距離を空け、同時にベルトのカードデッキから
槍らしき武器の絵が描かれたカードを抜き、それを暗黒剣の鍔を展開して現れたスロットに装填する。
≪ソードベント≫  無機質な機械音声と共に闇蝙蝠が飛来し、自身の尻尾を模した武器【闇翼槍】を渡した!!

「これで、どうやっ!!」
「ギイ――――――――――ィッ!?」

突進してくる大蜘蛛!!騎士は怯むどころか風の速さで立ち向かい、擦れ違いざまに闇翼槍を一閃!!
大蜘蛛の右前脚が飛んで「ギギギィィ―――――ッ!!」と絶叫が響く!!

「なるほど、ああやって武器を・・・よっしゃ、俺も!!」

真治変身体は、無地のカードデッキから刀が描かれたカードを出し、左手に装備された召喚機に装填する。
≪ソードベント≫  何の装飾も施されてない見るからにショボそうな剣が、空から落ちてきて地面に突き刺さった。
暫し眺めてから意を決して引き抜き、形も何もあったもんじゃない屁っ放り腰で、剣を振り回しながら大蜘蛛に突撃!!

「喰らえええええええええええええええっっ!!!!!!!」

ブンッ・・・・・ボキッ!! ヒュルヒュルヒュルヒュル・・・・サクッ

「・・・・・・って、折れたあああああああああああああ~~~~~~っ!?!?」
「何やっとんねんっ!?妖怪と契約してないのかいなっ!?」
「け、契約?????」

離れた所に立ってた騎士に怒鳴られて、何の事かと首を傾げる。その隙を大蜘蛛に突かれ、爪の一撃をモロに喰らった!!
真治に気を取られてた騎士と激突!!揃って吹っ飛ばされて、アスファルトを転がる!!

「ぐはああああああああっ!!!」
「アヘェ~~~~~~ッ!?」
「ギイ――――――――――ィッ!!」

纏めて食い殺そうと迫る大蜘蛛!!手負いにされて気が立っちゃってるんで、余計にタチが悪い!!
真治変身体は思いきり腰を打って「あいたあ~っ!!」と呻いてるが、戦い慣れしてる騎士は受け身でダメージを半減して
直ぐに立った。まだ引っくり返ってる真治変身体を「邪魔や!!」と蹴っ飛ばし、自分も横っ飛びして大蜘蛛の突進を回避。
止まって方向転換して、再び突っ込んで来る大蜘蛛!!騎士はタイミングを計ってジャンプ!!捻りを加えた空中回転で、
大蜘蛛の頭上を飛び越えつつ闇翼槍を一振り!!大きな斬り傷が、背中にザックリと刻み込まれた!!
騎士は着地するなり向きを変え、闇翼槍を振るってダッシュ!大蜘蛛の右側の脚を、残らず斬り飛ばす!!
ガックリ傾く巨体!!さすがに怯んで悶絶する大蜘蛛を睨みながら、必殺技のカードを装填!!

≪ファイナルベント≫
「喰らえっ!!」

青空へ吸い込まれるかのように高々とジャンプ!!その後を追いかけた闇蝙蝠が、騎士の身体を翼でスッポリ包み込む!!
そして変形して巨大なドリルのような形状になり、高速回転しながら大蜘蛛に垂直降下!!
必殺技の【飛翔斬】が大蜘蛛の身体を貫き、爆発四散させた!!大蜘蛛騒動、これにて一件落着。

「帰るで」
「ん・・・・・ああ・・・」
「グギャ――――――――――――――――――――オッ!!!!」
「げっ!?」
「クソッ!・・・嫌なタイミングで出てきおるのっ!!」

大蜘蛛を退治して安心&疲れてた2人の隙を突いたかのように、最悪なタイミングで赤竜が襲来!!
とりあえず、一緒に走って逃げる!!騎士は「事のついでに、奴も」と思い、走りながらカードを抜いて装填した。
≪ナスティーベント≫ 機械音声と共に闇蝙蝠が飛来。赤竜の行く手を塞ぐようにヒラヒラと舞う!!

「耳、塞いどけっ!!」
「え、何だって!?」

ピキィィィ――――ィィィィィン!!!!  闇蝙蝠が、強烈な超音波を発して赤竜を牽制!!
忠告を聞き損なってた真治変身体も、まともに喰らって悶絶!!不快な音と頭痛がダブルで襲ってくる!!

「ぎぃぇぇぇ~~~~~~~~~~っ!!!!」
「だから言うたやろがっ!!」

そして赤竜はと言うと、少しだけ怯んだけれども直ぐに体勢を立て直して襲ってきた!!
しかも中途半端な攻撃を喰らった所為で、逆に闘争本能に火が付いてしまった!!
怒りの咆哮を上げながら上空を旋回し、急降下しながら口から高熱火炎の弾を何発も発射!!
ドカーンッ!! ドカーンッ!! ドカーンッ!! ドカーンッ!! ドカーンッ!!
ビル、アスファルト、車、標識・・・・触れたモノ全てが、焼き尽くされて爆発!!
2人は爆風に煽られて転げそうになりつつ逃げ回るしか術が無い!!

「こりゃ、あかんわっ!!使えるカードも少ないし・・・どないしよ?」
「ど、どうすんだよぉ~っ!?」
「気ぃ散るわっ!!黙っとれっ!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

思わず怒鳴り返したけど、正直な話すると騎士も成す術なし。残ってるカードは分身と盾くらいなのだ。
凄い奇跡でも起こらない限り赤竜を倒すのは無理である。そして更に。
シュゥゥゥゥゥゥゥゥゥ・・・・・ 2人の身体の表面が、粒子のようになって蒸発。
鏡の中に留まっていられる制限時間が訪れてしまったのである。
「一旦退却や!」と判断した騎士は、咄嗟に最寄りのビルのショウウインドウへ飛び込んだ。
後に続いて、真治変身体も飛び込もうとしたが・・・ ガァ~~~~~ンッ!!! 弾き返された!!

「ちょ・・・どうなってんだよっ!?」
≪おまえは、まだダメや!!来た場所へ飛び込めっ!!≫
「き、来た場所・・・・・・令子さんの車!!」


―銀座の裏通り―

「・・・・う~ん・・・・・・?」

麗子が気絶から醒めたら、愛車の運転席に座ってた。気絶前の記憶が徐々に戻る。余りに突飛な出来事なんで
「さっきの事は夢?」と思ったが、ルームミラーで確認したら、頸に紐で絞められたような痕がクッキリ残ってた。
鏡の中から襲ってくる妖怪・・・引き摺りこまれ、おそらく喰われる・・・。
都市伝説程度に思ってた話が、事実だった上に自分が遭遇したワケなのだが、荒唐無稽すぎて信じきれない。

「・・・・・嘉戸くん!?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

ふと横を向いたら、嘉戸真治がビルの壁にもたれて失神してるではないか。慌てて飛び出して抱きかかえて、
名前を呼びながら揺さぶってみたけど、暫くは醒める気配が無い。
どうしようかと困ってたところへ、偶然に通りかかった通行人を装った粉木と由依が声をかけて来た。

「ん~・・・・どうしたんや?」
「大丈夫ですかぁ?」
「ありがとう・・・後輩が気を失ってるのよ。頭でも打ったかしら?」
「出血はしてへんなぁ・・・救急車、呼ぶか?」
「う~ん・・・とりあえず、私の車で会社に連れて帰って様子を見るわ」
「さよか・・・退いてみぃ。ワシが運んだる」
「ありがとう」
「姉さんの車って、コレか?」
「はい」

粉木は真治を抱き起こして肩に背負い、R360クーペの助手席まで運んで乗せてやった。

「御世話様でした」
「ええねん・・・ほな、さいなら」

手助けするだけしてから素っ気なく去って行くカップルを暫し見送ってから、麗子は愛車に飛び乗って
エンジン始動。取材は終わったし、真治を介抱しなきゃならぬので、御礼新聞オフィスへの帰路を行く。
粉木と由依は角を曲がったところで身を潜め、麗子が去ったのを確かめてから戻って来た。

「嘉戸真治くんか・・・カードデッキ持ったまんまだね」
「そやなぁ・・・」
「どうするの?」
「とりあえず、今は持たせとこか・・・
 気ぃ進まんけど、赤竜を誘き寄せる囮になってもらわな。まだ死なれちゃ困るわ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「妖怪は、狙った相手を執拗に追う。奴を見張ってれば、赤竜は、きっと来る。
 御礼新聞て言うてたな。追いかけて、張り込みや」
「・・・・そうだね」

2人はドリームCB72に戻って跨り、銀座の大通りへ飛び出して麗子の車を追った。
・・・・・・
・・・・・・
・・・・・・
・・・・・・
鏡の中の銀座通りで、散らばって漂ってた金色の粒子が徐々に集まって形を作る。
あっという間に元の大蜘蛛に戻り、更にその背中から、人の上半身のような姿の異形が現れた。
完全体となった大蜘蛛は、復活に要したエネルギーを補給するべく暗躍を開始する!!

・・・繰り返すが、この話は『仮面ライダーザムシード外伝・粉木STORY激闘編』と言う
100%オリジナルの話だ。何処かで見たような話だなどと言う、ワケの解らない言いがかりは聞く耳持たん。
 

仮面ライダーザムシード外伝・粉木STORY激闘編2

 投稿者:ゾルダⅢ世  投稿日:2015年 3月26日(木)18時22分28秒
返信・引用
  ―1961年:花鳥―

『何を犠牲にしても叶えたい、たった1つの願い』について想いに耽る蓮・・・ゴホッ・・・
粉木勘平の意識は、何時しか過去へと飛んでいた・・・。

大阪で生まれ育った粉木が東京へ来たのは、かれこれ2年前だったか・・・。
生まれ育った街に、それなり愛着はあった。だが何となく「オラ東京さ行くだ」って気分になった。
天涯孤独の気楽な身なのも手伝い、アパートを引き払って最低限の荷物だけ持って、夜行列車でフラリと上京した。
そして住み込みで働ける仕事を転々としたり、適当な仕事しながら安アパートで暮らしたり。
友達を作るのが苦手で、趣味はバイクと映画鑑賞くらい。だいたい上京したとて、特に夢や目的があるワケでも無い。
そんな気楽なヤモメ暮らしを始めてから約1年。緒川絵梨との出会いは、ある日唐突に訪れた。

キッカケはドラマみたいにベタだった。思わず安田大サーカスが登場して例のネタをするくらいベタだった。
休日に公園をブラブラしてたら、愚連隊(今で言うDQN)が絵梨に絡んでるのに遭遇したのである。
粉木は幼い時から腕っぷしが強くて喧嘩っぱやく、素っ気ない割には変なとこで親切と言うヤヤコシイ性格。
ついでだが、映画館で赤木圭一郎の『拳銃無頼帖 抜き射ちの竜』を観た直後でテンションが上がってた。

「止めたれや、お嬢が困っとるやないけ」
「何だと、てめぇ!」
「痛い目に遭いたくなきゃ、引っ込んでいやがれ!」
「いい歳こいた兄ちゃんが、揃って格好悪いでぇ。
 ほれ、周りを見て見ぃや・・・・皆オマン等の事“ババを見る目”で眺めとるやないけ。
 『バカ』やのぅて『ババ』や。ジャイアント馬場とちゃうで~。大阪ではな、ウンコの事ババ言うねん」
「くっそ~、こん畜生!」
「やっちまえ~っ!」

てな流れで、一戦おっぱじまった・・・実に一方的だった。
愚連隊はタンコブだらけにされて泣いたり、吹っ飛ばされて電線に触れて骨格が透けたりと散々な目に遭い、
口々に「くそ~、覚えてろ~!」「おまえの母ちゃんデ~ベソ~っ!」と、捨て台詞を残して逃げてった。

「口先だけやのぅ、ラジオ体操にもならへんわ・・・大丈夫か?」
「はい・・・ありがとうございました」
「この辺あ~ゆ~アホ多いさかい、気ぃつけや・・・ほな、さいなら」
「あ、ちょっと!」
「何や?」
「お礼に、お茶くらい御馳走させて下さい」
「んな余計な気遣い、いらんわい」

遠慮したけれども、絵梨が引かない。結局は押し切られて、最寄りの喫茶店でコーヒーをゴチになった。
さて・・・店へ入ったは良いが、話が続かない。スピーカーから流れるザ・ピーナッツの曲を聴きながら、
向かい合った2人は無言で俯いて、モジモジしながらコーヒーを啜るばかりだった。やがて。

「私、緒川絵梨です」
「・・・粉木勘平や」
「大阪から来られたの?」
「そや」

って会話をキッカケに会話が弾みだした・・・聞けば絵梨は、粉木と同じく天涯孤独な身の上だった。
成績優秀だったので、奨学金で星命院大学へ通っているそうだ。粉木には何が何だかサッパリだったが、
柄島研究室なるグループに所属していて、門崎史郎と言う大学院生を中心に小難しい研究をしてるらしい。
他にも色々と話が弾んだが、絵梨がバイトに行く時間になってしまった。彼女は別れ際に頬を赤らめながら
「また会ってもらえますか?・・・ここに電話ください」と、破いたメモ帳に寮の電話番号を書いてよこした。

「絵梨ちゃん・・・・か。ええ娘やなぁ」

粉木はボ~ッと呆けた表情で、雑踏の中を足早に去って行く後ろ姿を何時までも見送った。
店を出た後も、絵梨の事が頭から離れない。ボ~ッとしすぎて電柱にぶつかったり犬の糞を踏んだりした。
ボロアパートに戻ってラジオつけたら夢路いとし・喜美こいしの漫才が流れたけれども、サッパリ耳に入らない。
挙句の果てには、銭湯でのぼせた・・・そして帰る途中、意を決してタバコ屋の赤電話をダイヤルした。
次の日から、粉木は人が変わったように真面目に働くようになった。
同僚から「核戦争の前触れか?」とからかわれた。実際『U-2撃墜事件』が発生して、米ソが一触即発となった。
だが粉木は、そんな雑音は一切無視した・・・夢も目的も無く過ごしてた東京暮らしに、一筋の光明が射したからだ。
2人の中は急速に進展していった。互いに忙しかったが、夜は必ず電話をした。
少しでも会える日は、嵐が吹き荒れようと会いに行った。数ヶ月も経ったら、絵梨が週末に泊りに来るようになった。
デートはもっぱら、当時の愛車だったホンダのベンリィCB92と言う125ccでのツーリングだった。
2人とも海が好きだったんで、休日は早起きして弁当を作って、お気に入りの海岸へと出かけた。
道路事情が酷かったり、元から中古のボロだったりした所為で、良く故障したりパンクしたりして押して帰った。

「・・・・すまんの・・・」
「気にしないで、私なら大丈夫だよ」
「もうちょっと待っとれや・・・来年ホンダから、250ccのカッコいい奴が出るねん。
 それ絶対に貯金で買うたる!そしたら、もっと快適やし、うんと遠くまで行けるでっ!!」
「うんっ!待ってる!」

そしてあの日も、何時もの海へと出かけた・・・・・
裸足になって波打ち際まで行ったり、呼ばれて振り返ったら水をかけられて「こいつぅ~!」と言いながら追いかけたり、
その時代の恋人っぽい事を一通りしてから、砂浜に並んで座って波を見つめた。暫く黙ってた粉木が、不意に絵梨に膝枕する。

「勘平・・・いきなり、どうしたの?」
「・・・いくつになっても甘えん坊~・・・」
「・・・・・・プッ・・・・・アハハハハハハハハハッ!!」
「・・あへぇ~っ」
「その口癖、何なのぉ~?」

何で急にそんな事をしたのか、今になっても解らない。その後「ぼちぼち帰るか」となり、珍しく故障もせず帰路をトコトコ走り、
通りすがりの中華料理屋でラーメン食ってから寮まで送って別れた・・・それが最後のデートだった。
2日後。早く仕事が上がったんで、一緒に晩飯でも食いに行こうかと星命院大学へ迎えに行った。
そして正門を通って駐輪場にベンリィを停めた時・・・ドオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!!!
爆音が響き渡って、空気がビリビリ震える!!しかも、何度か行った柄島研究室の方角から!!

「絵梨~~~~~~っ!!!!!!!!」

一目散に避難する学生達の河を逆流し、校舎へ飛び込んで階段を駆け上がり、柄島研究室へと走った!!
そしてドアを蹴り開けたら・・・・・・・想像もしたくない最悪な光景が展開されていた。
メチャメチャに壊れて転がる机や椅子。倒れた棚。飛び散る資料に薬品・・・そして、床に倒れてる絵梨。
慌てて駆け寄って抱き起したが、どうにも手の施しようが無い。「ケガ人や!!救急車を呼んでくれ~っ!!」と、
廊下に向かって叫ぶのが精いっぱいだった。懸命に呼びかけたり頬を擦ったりしたが、瞳の光が段々と弱々しくなっていく。

「絵梨っ!?死んだらあかんっ!!絵梨っ!!」
「か・・・ん・・・ぺい・・・・わ、た・・・し・・・」

何か言いかけた唇が閉じられ、瞼も閉じられ、そして2度と開く事は無かった。ただ呆然とする粉木。
その真後ろに、何時の間にやらトレンチコートを着た不気味な男が突っ立っていた。
何度か話は聞いてた、門崎史郎だと直感した。そして・・・・

「キキ―――――――ィィィィィ!!!!」
「!?・・・・何やっ!?」

黒い巨大な蝙蝠・・・妖怪・闇蝙蝠が、門崎史郎に付き従うかのように飛び回っている。

「・・・・実験は失敗か・・・・」
「何やとっ!?」
「・・・・・・・・・・・・・・・願いを叶えたくはないか?」
「・・・・・・・・・・・・・・?」
「俺の話に乗るなら、どんな願いも1つだけ叶えてやる」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

ムカつく男である。何の実験か知らぬが、大事な絵梨を死なせてしまったのだ。
咽び泣きながら土下座して「申し訳ありませんでしたぁ~!!」と謝罪するのが普通の神経ではないか?
それが何で、上から目線で「条件を聞き入れたら願いを叶えてやる」などと抜かしやがりくさるのか?
憤怒の形相で立ち上がった粉木は、振り向きざまに鉄拳を振るった・・・・が、拳は宙を切った。
門崎は瞬き1つするかしないかの間に数mほど移動してる。今度は足元に落ちてた小瓶を拾って投げつけた。
だが結果は同じだった。次の瞬間には部屋の反対側の壁際まで移動していて、瓶は掠りもせず砕け散った。
門崎は、プラスチックのケースみたいな平たい黒いモノを粉木に投げる。反射的に受け止めて“ケース”眺める。

「闇蝙蝠と契約しろ」
「契約?」
「そして戦え・・・・・・最後の1人になった時、どんな望みも1つだけ叶えてやる」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」

つくづくムカつく男だが、絵梨を元通りにするには奴の話に乗るより他に無さそうだ。
粉木はケース・・・・カードデッキから【CONTRACT】と書かれたカードを抜いて、闇蝙蝠に向けた。
異次元空間に吸い込まれた粉木の周囲を闇蝙蝠が飛び回り、マスクとスーツで全身を覆われる。
無地だったカードデッキに闇蝙蝠のマークが浮かぶ・・・・・・・【コードネーム:騎士】が誕生した。
ちなみに絵梨は、搬送先の病院で呆気なく死んでしまった。これが例えば西暦2002年くらいだったならば、
進んだ医療で植物状態ながらも生きながらえて、夜な夜な病室を訪れて「・・絵梨」と呟くくらいは出来たろう。
だが如何せん、当時の医療技術では手の施しようが無かったのである。


―何処かの街角―

粉木は、ひたすら妖怪退治に精を出す日々が続いてた。まだ他の【契約者】とは遭遇していない。
どんな奴と出会う事になるやら?想像もつかない。そいつが問答無用で襲って来た時は、願いの為に戦わねばならん。
【契約妖怪】は、他の妖怪を倒して命を喰らう事で強化される。強い妖怪を倒すほど、自分も契約妖怪も強くなる。
その反面、契約妖怪を飢えさせると自分が喰われてしまう・・・・。
粉木は念願のドリームCB72を購入した。だが、タンデムシートに跨ってるのは別の女性である。
成り行きで門崎史郎の妹である由依と知り合い、共に行動するようになったのだ。
粉木と由依は今、闇蝙蝠を強化するべく【妖怪・赤竜】を追跡している最中だった。
最強クラスと言っても過言ではない赤竜を喰わせれば、闇蝙蝠は格段に強くなる。そして契約者とのバトルが有利になる。
都電が真ん中を占領して、オート三輪や軽自動車が行き交う幹線道路を走る、粉木のドリームCB72。
その前方を、50ccのスーパーカブが走っている。前輪のカバーに【御礼新聞】と書かれた旗をバタバタさせていて、
見るからに人の良さそうな若い男が運転してた・・・赤竜は、その若い男を獲物として付け狙っていた。


―首都高をツーリング中のバカ共―

「やっぱり粉木じいさんが蓮ポジションじゃんっ!!!最初の方で『蓮・・・ゴホッ・・・』て言ってるじゃんっ!!!
 いくら『当時の風景・風俗を描写したり、要所でカンペーさんの持ちネタ入れてそれっぽく表現しましたよ』みたいに書いてもダメッ!!!
 てゆ~か、どう見ても俺モチーフの奴が出てきたっ!!!」
「鳩ポッポ・・・・さっきから、どうしたの?熱でもぁるの?」

堪りかねて明後日の方向にツッコミを入れる真司。何故に、そんなに怒ってる?気でも狂ったか?
粉木が蓮のポジション?真司がモチーフのキャラ?・・・何の事だ!?毎回毎回しつこいぞっ!!
これは『仮面ライダーザムシード外伝・粉木STORY激闘編』と言う、100%オリジナルの話だ!!
 

仮面ライダーザムシード外伝・粉木STORY激闘編1

 投稿者:ゾルダⅢ世  投稿日:2015年 3月24日(火)14時49分33秒
返信・引用
  ―プロローグ―

色々と大失敗をやらかした燕真と紅葉は、ちょっと気まずそうにYOUKAIミュージアムへ戻って来た。
「じいさん、怒ってるかな?多少の説教は覚悟しなきゃ」と思って扉を開けようとしたら、施錠されてて開かない。
ひょっとして、自宅に居るんだろうか?燕真と紅葉は、ミュージアムの隣にある粉木宅へ向かう・・・・・。
ほら、やっぱりだ!玄関ドアを開けたら、明らかに怒った顔で腕組みした粉木が立っていた。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・た、ただぃま・・・」

粉木はスゥ~っと大きく息を吸い込んで一拍置いてから・・・

「バッカモォォォォ~~~~~~~~~~~~ンンンッッッ!!!」
「・・・・ぐっ!」
「・・・ひゃぁぁぁぁ~~~~~っ・・・・」

同時にカメラが粉木宅の外になり、建物が“サザエさんのエンディングで磯野一家が飛び込む小さな家”みたいに
ボヨヨヨ~ンと揺れた!!これは、かなり拙い!!想定してたよりも、遥かに怒ってるじゃん!!
粉木の気迫に押された2人は、思わず気をつけしてギュッと目を閉じる。

「とりあえず、上がれっ!!」
「・・・・・・・・・・・はい」×2

言われるまま、見えない手錠で繋がれたかの如く居間へと連行されて、並んで床に正座。
絨毯ひいてあるから良いが、床に直だったら地獄である。粉木はキッチンで自分の分だけ茶を淹れて戻り、
ソファーに腰かけて茶を啜りつつ2人を睨む・・・迫力に圧倒された2人は、借りてきた猫みたいに大人しい。

「燕真っ!!」
「・・・・・はい・・・」
「仮面ライダーの変身者って自覚が無いんかいな!?今回の失敗は、オマエの責任やっ!!」
「・・・・・・・・」
「どうすんねん!?彼岸カバー割りよるし、カマイタチ逃がしよるし、彼岸カバー壊しよるし!!」
「・・・ごめんなさい」
「【閻魔GEAR】ちゃんと管理してへんから、こないな事になるねん!彼岸カバーどうすんねん!?」
「・・・・・・・・・・・・」
「お嬢が持ち出してたのが、不幸中の幸いやっ!!
 そこらの子供が持って行きよったら、もっとエライ事になっとったでっ!!
 まだまだヒヨッコとは言え、仮面ライダーやろっ!!閻魔GEARは、命の次くらいに大事にせいっ!!」

全くの正論でグゥの音も出ないんで、燕真はひたすら「はい」「ごめんなさい」と言うしか無かった。
ちなみに【閻魔GEAR】とは、YOUKAIウォッチや和船ベルトの総称である。
傍で聴いてた紅葉は「どうゃら、怒ってる1番の理由ゎ九谷焼のカバーを割った事らしい」と判断し、
「それだったら悪いのゎ燕真で、私ゎ関係なぃ」と思った。怒声が途切れて茶を啜る音がしたのを幸い、
そっと立ち上がって、ペコリと頭を下げて帰ろうとした。

「ぉ騒がせしましたぁ・・・・さょぅなら・・・」
「何処へ行くねん、お嬢?誰が帰って良い言うた?座れっ!」
「・・・・ぅ・・・・」

逃がしてくれる気は無いらしい。迫力に圧倒された紅葉は、向き直って正座した。

「燕真が管理責任に欠けとったのは確かやけど、お嬢が勝手に持ち出したのも悪いでっ!!」
「は・・・はぃ・・・」
「閻魔GEAR舐めたらあかんっ!!誰にもホイホイ使えるもん、ちゃうねんでっ!!」
「・・・・・・・・・・」
「アレは玩具やないねんっ!!ワシも所詮は中間管理職やから、詳しくは知らんけどな。
 上のもんが燕真を適合者に選んだんは、それなりの理由あるねん!!2度と、手ぇ出すなっ!!」
「・・・・・はぃ・・・」
「お嬢が無茶しよったさかい、カマイタチ逃がしよるし、彼岸カバー割れてもうたがなっ!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「またやりよったら、お嬢だろうとパチキやでっ!!彼岸カバー割れてもうたがなっ!!」
「・・・・もぅ絶対に、ゃりません・・・・」
「約束やぞっ!!また無茶やらかしよったら、出入り禁止やぞっ!!」
「・・・・はぃ、約束します・・・・」

その後も、粉木の説教は延々と続いた・・・内容を内訳すると、彼岸カバーを壊した事に対して6割。
仮面ライダーを名乗って戦う事の重さについて2割。カマイタチの封印失敗に対して2割ってとこだったろうか。
彼岸カバーどんだけ大事なんだろう?カマイタチを封印しそこなった事よりも、そっちに怒ってる。
粉木のマシンガントークは小1時間ばかり続き、2人はグッタリしつつ「はい」「はい」と返事しながら聞いていた。

「あ~・・・・あかん、あかん。何時の間にやら、彼岸カバーの話ばっかりしとったがな・・・
 わしが怒ってるのにはな、まだ理由があるねん」
「・・・・どんな?」
「あのな燕真・・・・オマエは、ワシの大事な仲間やねん」
「・・・・・仲間・・・」
「そや、仲間や・・・そんでワシはな、仲間が死ぬのだけは我慢できへんねん」
「粉木ぉじいちゃん・・・ひょっとして・・・・仲間が死んじゃった事ぁるの?」
「ああ。もう、だいぶ昔の話やけどな」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「これだけは、キチーっと言うとく。耳の穴かっぽじって聞け」
「・・・ああ」
「なぁに?」
「2人とも、絶対にワシより先には死なんて約束せい」
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・」
「何で黙るんやっ!?何で直ぐに、一言『はい』って返事せんっ!?」
「わ、解ったよ。約束する!!」
「ゎたしもっ!!」
「絶対やでっ!!破りよったら承知せんぞっ!!」
「破らねぇよ・・・俺だって、まだ死にたかないもんな」
「ゃりたい事、ぃっぱいぁるもんっ!!」
「・・・・・・・・・・・・」

ここで説教が一段落。粉木は冷めた茶を啜り、海苔巻あられを口に放り込んでコリコリと食ってから、
ふと明後日の方に視線を移した。視線の先は、引き戸を隔てて粉木の寝室・・・
その奥にある、小さな仏壇を供えてる方を向いている。朝飯を貰いに来ると、必ず仄かに線香の香りが漂っている。
燕真は拝んだことが無いけれども、誰を祀ってるんだろう?確か前に、天涯孤独の身だと聞いたけど。

「じいさん・・・」
「何や?」
「あの仏壇・・・・ひょっとして、さっき話した“死んだ仲間”を?」
「そうや」
「・・・・・・・・・・・・」
「丁度ええ機会や・・・・ワシの昔話、聞くか?」
「・・・・ああ」
「聞きたい!」

これから“仮面ライダー”として戦い抜く為に、どうしても聞いておかねばならぬ。そんな気がした。
紅葉にしても、ここまで首を突っ込んじゃってるし、何より好奇心が大きかった。
粉木は何時になく真剣な表情で自分を見上げてる2人を眺めて軽く微笑み、キッチンへ行って茶を注ぎ足して
戻ってから、ポツリポツリと語りだした。

今、若き日の粉木勘平の話が明かされる時が来た・・・・・・
最初は粉木の一人語り風でチャチャっと済ませようと思ってたんだけども、色々と盛り込んだら長くなったんで、
普通に物語風の文体で書く事にする。少しばかり長いが、暫く御付き合い願いたい。
それから、たまに入る雑音(真司のツッコミ)は、適当に聞き流して下さいませ。


―本編開始―

夜の幹線道をバイクが疾走してる。乗ってるのは、言うまでも無く若き日の粉木勘平だ。
ノーヘルOKな時代なんで、少し長めの髪をピンピンと突っ立てた頭に、直でゴーグルだけ付けている。
防寒で米軍払い下げのMA1を着てマフラーをきつく巻き、下はジーンズに革ブーツ。
一説によると、この頃は「髪が耳にかかってたら不良」「ジーンズ履いてたら不良」だったらしい。
つまり“ド不良丸出し”って格好である。ちなみに愛車は、大人の事情によりホンダ製だ。
ドリームCB72と言う、当時の若い奴等の間で人気だった250ccのスポーツモデルである。
http://pds.exblog.jp/pds/1/200705/11/32/b0076232_8185645.jpg
シフトダウンして左折。OHC2気筒エンジンの小気味よい排気音を響かせながら、終電が過ぎた駅前商店街に入った。
コンビニなどと言う便利な店が普及するのは遥か先の話なんで、こんな時間に開いてる店は居酒屋くらい。
軒先に赤提灯を提げた店から嬌声が漏れる他に、人通りは皆無と言っても良い。
脇目も振らず商店街を抜けて住宅街へ入り、粉木は愛車を道端に停めて、鋭い視線を前方に向けた。
20mばかり先を、勤め帰りらしい女性が1人で歩いてる。バイクの音を聞きつけた女性は、警戒するような表情で振り返った。
だが粉木がエンジンを止めてライトを消したんで、また前を向いて家路を急ぐ。ヒールの音がコツコツと響く。

キィィィ――――――――――――ン・・・・・ィィィ―――――――ン

普通の人間には聴こえない“妖怪接近音”が、粉木の耳にはしっかりと聴こえていた。女性を狙ってジリジリと接近してる。
粉木はキッと険しい表情になり、革パンツの尻ポケットに手を突っ込みながら呟いた。

「・・・・2度も3度も、させるかいな」

その数秒後、住宅街の通りがフラッシュを何十個も同時に焚いたような閃光に照らされて、直ぐに元の暗がりに戻った。
粉木は何処へ消えたのか?彼の愛車が薄暗い街路灯に照らされてポツンと停まってるばかり。
女性は何も知らず、鼻歌を唄いながら自宅へと歩いている。その直ぐ傍ら・・・・
普通の人間には見る事の出来ない異空間で、異形の戦士とモンスターとの死闘が繰り広げられていた。


☆アバンタイトル終了してオープニング☆

朝焼けに包まれて 走りだした 行くべき道を
情熱のベクトルが ボクの胸を 貫いてゆく

どんな危険に 傷つく事があっても

夢よ踊れ この地球(ほし)の下で
憎しみを映し出す 鏡なんて壊すほど

夢に向かえ まだ不器用でも
生きている激しさを 身体中で確かめたい

【仮面ライダーザムシード外伝・粉木STORY激闘編】←タイトルロゴ

☆オープニングが終わってCM(カラー放送は始まってるが、まだ大半が白黒映像)☆


1961年(昭和36年)の話である・・・・・
まだ貧しい時代だった。ろくに区画整理もされてない街に、現在の感覚では掘立小屋に等しい粗末な家がビッシリと並んでる。
ちょっと裏通りへ入れば、都心でも未舗装路が珍しくなかった。東京でさえ、場所によっては畑が広がって馬や牛が引く荷車が見られた。
つぎはぎだらけの粗末な服を着て、慢性的なタンパク質不足が原因で青白い鼻水を垂らした子供達。
庶民の月給は、4万円前後だったろうか?『車とクーラーとカラーテレビの3点を所有するのがステイタス』とされたが、無理な話である。
頑張っても軽自動車が買えればマシな方。前年に国産初のカラーテレビが発売されたが、庶民には夢のまた夢な値段だった。

でもまぁ、貧しいけれど活気に溢れた時代でもあった。

『一生懸命に働いてりゃ、そのうち暮らしが良くなる』と希望を持てたし、実際に少しずつだが所得は上がっていた。
世界に目を向ければ、4月にソ連の宇宙船ボストーク1号が、ガガーリン飛行士を乗せて世界初の有人宇宙飛行に成功した。
娯楽の王様は、映画とスポーツ観戦だったと思う・・・
力道山の空手チョップが悪役外人レスラーを打ちのめす姿に熱狂する人々。
石原裕次郎が演じる、挫折した若者の青春を描いたドラマ。
吉永小百合&浜田光夫コンビの純愛物に、植木等の喜劇・・・銀幕のスター達が、庶民に夢を提供する。
坂本九の名曲『上を向いて歩こう』が『SUKIYAKI』と言うタイトルで、アメリカのビルボード誌で1位を獲得する快挙を成し遂げた。
東海道新幹線と東名高速道路の2大事業を筆頭に、交通機関や道路のインフラが、急ピッチで進んでいた。
近代的なデザインのホテル等も次々と建てられる・・・3年後の東京オリンピック開催に向けて、国民が一丸となっていた。

だがこの年、行方不明者数が無視できないレベルになっていた。全く無かったと言う事は無いが、尋常でない人間が忽然と消えていた。
自ら失踪する理由が全く不明な人達が、何の前触れもなく行方をくらましてしまう。しかも、常識では考えられない消え方をしていた。
・・・幼子を待たせてデパートの試着室へ入った女性が、それきり出てこなかった・・・
・・・走行中の路面電車から、運転手と乗客が全て消えた・・・
警察では失踪事件として片づけられたが、それらは全て、異次元から訪れた【妖怪】の仕業だった。
都市伝説的に妖怪の噂が広がって、人々は本能的に「只事じゃない」と恐怖したが、だからと言って成す術も無い。
妖怪が持つ人智を超えた力の前に、人間は余りにも無力だった。

だが、救世主は存在した。

危機一髪で助けられた人達が語る“異形の妖怪ハンター達”の話が、じわじわと広がって行った。
「黒くて空を飛んでた」「緑色で、気障な口調だった」「紫色で狂暴だった」「胸回りの寸法が残念な女性だった」
どうやら“救世主”は複数存在するらしい。色々な目撃証言が錯綜して、彼等の正体はサッパリ不明だった。
たった2つ、共通点があった・・・・西洋の甲冑を思わせるマスクとスーツで素顔を隠し、未来的な高性能バイクに乗っている。
この特徴が元で、何時しか人々は異形の妖怪ハンター達をこう呼んだ・・・【仮面ライダー】

「仮面ライダーか・・・・ワシは【コードネーム:騎士】やから、仮面ライダー騎士か・・・
 ・・・語呂が悪いのぅ・・・そや!騎士を英語にして、仮面ライダーナイト・・・うん、悪うないな」
「どうしたの勘平?」
「何でもあらへん、独り言や」

ここは住宅街の中にある、小さな喫茶店『花鳥』の店内。成り行きで知り合った門崎由依と言う少女の叔母がオーナーだ。
掘立小屋みたいな粗末な家が大半だった当時にしては、かなり洒落た部類な造りの建物である。

♪I walk along the city streets you used to walk along with me♪
♪And every step I take reminds me of just how we used to be♪
♪Well, how can I forget you, girl?♪

エルビス・プレスリーのレコードが静かに流れる店内には、粉木と由依の2人だけ。今は休業中なのだ。
カウンター席に座った粉木は、由依が淹れてくれた紅茶を啜りながら、世間で噂の“仮面ライダー”に想いを巡らせていた。
何を隠そう、粉木は“仮面ライダー”の1人なのである。
尤も本人達は、自らを【契約者】と呼称し、互いの事はコードネームで呼んでいた。
契約者・・・
狙った妖怪を従わせ、その能力を引き出す事が出来る力を秘めた不思議なカードで、異形の戦士への変身能力を得た者の事である。
粉木は【騎士】のコードネームで呼ばれる契約者だった。契約した妖怪は【闇蝙蝠】と言う。
槍を主な武器としてるが、闇蝙蝠の能力を使った分身術や超音波攻撃を駆使したトリッキーな戦法を得意としている。
ちなみに契約者達は、自分達を正義の味方とは認識していなかった。皆それぞれ、どうしても叶えたい望みを持っている。
今の時点で何人の契約者が存在するのかは不明なのだが、彼等は“最後の1人に生き残って、願いを叶える為”に戦っている。
妖怪退治をしているのは、あくまでも自分の契約妖怪にエサを与える為。それが結果的に人助けになってるだけの話だ。

(絵梨・・・・・絶対に生き返らせて、幸せにしたる!)


―首都高をツーリング中のバカ共―

「コラコラコラコラァァ~~~~~~~ッッッッッッッ!!!!!!!!!!!
 色々な意味で、ダメだぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ッッッッ!!!!!!」
「ゎっ!?ビックリしたぁ~・・・・ぃきなりどぅしたの鳩ポッポ?」
「何で、1号ライダー登場の10年前に、仮面ライダーが世間で認知されてんだよっ!?
 しかも、俺等の話と設定を丸パクリじゃねえかっ!!
 『当時の風景・風俗を描写して、それっぽく表現しましたよ』みたいに書いてもダメッ!!!
 てゆ~か、俺を殺すなぁぁぁぁぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~っっ!!!!
 この流れじゃ、どう考えても“粉木さんの死んだ親友”って、俺じゃんっ!!!!」
「・・・変なのぉ」

堪りかねて明後日の方向にツッコミを入れる真司。何故に、そんなに怒ってる?気でも狂ったか?
龍騎の設定を丸パクリ?真司が死ぬ?・・・何の事だ!?言いがかりは、止めたまえ失礼なっ!!
これは『仮面ライダーザムシード外伝・粉木STORY激闘編』と言う、100%オリジナルの話だ!!
 

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