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第一章 出会いと旅立ち 5

 投稿者:津波メール  投稿日:2006年11月26日(日)10時39分53秒
  No,5 ある夜、どこかの草原でのお話(前編)

 気がつくとそこは草原だった。
「……」
 目をつぶる。
「…………」
 目を開ける。
「………………」
 やっぱり草原だった。
 見渡す限りの草と木。それ以外何も見えない。
「……………………」
 大きく息を吸い、叫ぶ。
「嘘だろーーーーーーーーー!?」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「ったく。なんでオレがこんなわけわかんないとこ歩かなきゃいけないんだ?」
 呆然としていたところで何も始まらない。とりあえずあたりをうろついてみる。
 これって多分夢だと思う。しかも特別な。じゃなかったら誰かに呼び出された――わけないか。それこそ夢物語だ。
 さっき、椎名とゲームの話なんてしてたからかな。
『もし……そんなゲームのような別世界に行けるとしたらいってみたい?』
 観光でなら行ってみたい。でも危険なところだったら嫌。
 自分でもすっげーいい加減な考えだとは思う。でもやっぱり危険はやだ。だからこそああ言った。
 自分が危険にさらされるのもやだし他者でも見てていい気はしない。要するに怖がりなだけ。そんなオレがこんな夢をみているのもなんだかお笑いだ。
「やっぱり冒険はゲームの中でするのが一番だよ」
 誰にでもなくそう呟く。そもそも、しなくていい苦労はしないに限る。何事もなく日々平穏無事。誰になんと言われようがそれが一番だ。
「ん?」
 あれ、なにかひっかかるぞ。
 何気なくポケットに手をつっこむ。
「げ!」
 椎名のペンダントがない!
 部屋で見つけて、後で返すつもりでポケットに入れてたんだった。そのあとベッドでうつぶせになって――
「寝てたんだな。やっぱ」
 となるとやっぱこれは夢か。 横になった時に床に落としたのかも。なら探す必要もないか?
 けど、もしここで落としたのなら……。
「……探そ」
 どっちにしても探した方がよさそうなのは確かだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「おっかしーなー。そんなに時間はたってないはずだぞ?」
 あれから時間はたつはずなのに、オレはまだペンダントを見つけられずにいた。
「そんなに遠くに行ったはずはないけどなー」
 いくらぶつぶつ言いながら歩いてきたとはいえ、方向は間違ってないと思うけど。ほんとにどこに落としたんだ!?
 しばらくすると、はじめにいた(であろう)場所に着く。
 相も変わらず見渡す限りの草と木。 ただし、さっきと一つ違うのはオレの前に先客がいたことだった。
「……!?」
 栗色の髪に黒い目の男。身長はオレよりちょっと低く、見た目はオレと同じくらいの歳に見える。
 そいつは自分の手――正確には手の中にあるものを見つめ、なにやらひどく驚いたような顔をしている。
「あー、すみませーん」
「?」
「ちょっとそれ見せてください」
 言うと同時に相手の手に納まっていたものをひったくる。
 相手の手の中にあったのは小さなペンダント。銀色の鎖の先には青い球体、その中には女の人の肖像画。
「あー、やっぱり」
 それはまぎれもなく椎名のペンダントだった。
「これオレのなんです。拾ってもらってどうもありがとうございました」
 ぺこりと相手におじぎ。きびすをかえすとすたすたと歩く。
「ちょっと待て」
 ――と、簡単にはいかなかった。
「『オレの』だ? 嘘をつくな。これはアンタのものじゃない」
 男に片腕をねじ伏せられあっけなく奪い返される。
「大切な物なんです。返してくださいよ」
 空いた方の手で反撃に出たものの、そっちの腕もつかまれ返り討ちにあう。
「証拠は?」
 腕をねじ伏せたまま、男が言う。夢の中でくらい運動神経よくならないのだろーか、オレ。
「そんなものありませんよ。でもそれは間違いなくオレのなんです」
 腕をねじ伏せられたまま、オレが答える。もう少しいい夢はみれないんだろーか、オレ。
「大抵の泥棒はそう言って持ち物を奪っていくんだ。第一『大切な物』を普通こんなところで落とすか?」
 うう、いたいところを。
「そんなこと言ったって落としたんだから仕方ないじゃん」
 一応拾ってくれた人だからと敬語を使ってたのが、いつの間にか口調が元にもどってしまった。
「とにかく、これは俺が預かっておく。なんでこんなものがここにあるかわからないが俺はこれの持ち主を知ってるんだ。アンタも金がほしいならもっと別の商売しろよ」
 掴んでいた腕を放すと相手はきびすを返し歩きだす。
「ねえ待ってってば!」
 自由になった手で男の腕をつかむ。
「しつこいぞ。これはちゃんと持ち主に返すんだ」
「だからそれはオレの――いや、言い方が悪かった。
 オレの姉、知り合いのものなんです。彼女が大切にしてた物なんだけど、ポケットに入れてたらいつのまにか落っことしたみたいで」
 それでも男は無視をきめこみ歩き続ける。
「だから、それは椎名の物なんだってば!」
「……?」
 そこで、男の足が止まった。
「だから返してください――」
「今、何て言った?」
 男が振り返る。
「だからオレの姉貴のだって」
「……アンタの姉さんの名前は?」
「椎名。椎名まりい」
「『シーナ』!?」
 男の顔が驚愕のそれに変わる。あれ? この表情って。
「椎名を知ってんの?」
「知ってるもなにも――」
 そこまで言ってふと黙りこむ。 後には不気味な静寂。
「あの……?」
 オレの言葉を片手で制すと、大勢を低くする。
「何かいるの?」
 男の背中に聞いてみるも返事はない。
「あの……」
 再び同じ質問をしようとした時だった。
「アンタ、武器使えるよな?」
 正面を見据えたまま男が話しかけてくる。
「戦えるかって聞いたんだけど」
 戦う――ケンカか?
 自慢じゃないけど、生まれてこのかたケンカなんてしたこと――あるけど決して強くはない。むしろ弱い。
 この際だ。認めよう。オレには運動神経というものがない。いや、あるにはあるんだろーけど、体育で5どころか4を取ったことは一度もない。この前の昼休みがいい例だ。
 強いて言えば、自信があるのは反射神経のみ。それ以外は運動で目だった試しはほとんどない。
「わかんない」
「じゃあ覚悟しとけ。数が多そうだ」
「そんなに多いの?」
「見てみないとわからない」
 ゴクリ、と生ツバをのむ音が妙にリアルに聞こえる。オレにケンカをしろと……?
 しばらくすると、ケンカの相手が来た。
 

第一章 出会いと旅立ち 4

 投稿者:津波メール  投稿日:2006年11月26日(日)00時33分37秒
  No,4  放課後

 授業はとっくに終わってたから坂井と寄り道して帰った。
 コンビニに本屋に買い食い。学校を出たのは早かったものの家に着くころには時計の針は6時をまわっていた。
「ただいまー」
「おかえりなさい」
 出迎えてくれたのはエプロン姿の女子。
「椎名? 帰ってたんだ」
「今日は五時間だったから……って昇くんもいっしょだよね」
「てっきり部活かと思ってた」
「始まるのが早かったから終わるのも早かったの」
 帰宅部のオレとは違い椎名は部活に入っている。部活は一通り見て回ったけど、めんどくさそうだったので結局パス。
「ん?」
 視線を感じてふりかえると、そこには椎名の心配そうな顔があった。
「頭、こぶができてるみたい。どこかにぶつけたの?」
「なんでもないなんでもない」
 まさかバスケやってて顔面にボールくらいましたなんて言えない。
「お父さんとお母さん帰るのが遅くなるって言ったから今日は私が夕飯作るね。シチューだけど食べれる?」
「いーよ。じゃあオレ上行ってるから」
「できたら呼びにいくね」
「うん」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 キーン、キーン!
「よっしゃ!」
 コントローラー片手に握りこぶし。
 今やってるのはプレステのRPG。最近買ったばっかで頑張ってはいるものの、敵が強くてなかなかクリアできない。ちなみにレベルは23。
 もうちょっとで中ボスのところにいけるな。でもこの時間帯でこのレベルってことは、やっぱもうちょっとレベル上げ必要か――なんてことを考えてると、ドアをノックする音がした。
「わ、ちょっと待って!」
 慌てて部屋を片付ける。こういう時、物がない部屋ってほんと助かる。
「どーぞ」
 入ってきたのはやっぱり椎名。エプロンはもうはずしてある。
「シチューできたよ」
「わかった。あとから行く」
 ゲームをセーブ画面に変える。
「……?」
「どーかした?」
 テレビの画面を珍しそうに見ている。
「これ? RPG」
「アール?」
「ロールプレイングゲームの略。異世界のアドベンチャーゲームって言ってもわかんないか。要するに別世界で冒険したつもりになるゲーム。これはCMでやってたんだけど見たことない?」
「あ、もしかして昨日テレビでやってた?」
「そ。よく知ってたな」
「その曲が耳に残ってて」
 椎名は『そうかー。これだったんだ』とひとしきり感心している。 そーいうもんなのか?
「けどなんか意外。椎名ってこーいうゲームなんかにはまったく興味なさそうってかんじだったから」
「そう?」
「あ、気に障ったならごめん」
「いいの。……おもしろそう」
「だろ? 簡単なのでいいなら貸すから今度やってみなよ」
 この調子なら対戦ゲームとかやれそうだ。話題のひとつくらいにはなるかも。そう思って呼びかけると、椎名の視線は別の方に向いていた。
「椎名?」
 さっきまでテレビとにらめっこしていたのに何故だか思いつめたような顔をしている。しばらくすると、真面目な顔でこう言った。
「もし……もしもだよ? こんな、ゲームみたいな場所にいけるとしたら、昇くんは行ってみたい?」
「……なんで?」
「なんとなく。そんなに深く考えなくていいから」
 普通なら『何言ってんだこいつ』なんて思うとこだけど相手が椎名だったからつい真剣に考えてしまった。
 目をつぶり腕を組んで。考えること約三分。
「そうだなー。……行ってみたいな。観光なら」
 それが、オレの出した結論だった。
「観光?」
「うん。知らないところとか不思議な場所。魔法なんていうのも一度生で見てみたいし。
 でも、そーいうのって大抵『悪い親玉を倒すために召喚された勇者』ってかんじだろ? オレはそんな苦労なんかしたくない。第一、そういう主人公にお決まりの正義感とか熱血とか持ち合わせてないし」
「……でも、昇くん優しいよ」
「かいかぶりすぎだって。仮に別世界なんてものがあったとしても、さ。わざわざそんないい加減な奴を呼び出すって奇特な奴はいないよ」
 もしいたらお目にかかってみたいもんだ。その前に行くことすら無理だろーけど。
「…………」
「椎名?」
「なんでもない。下にいこ。シチューさめちゃうよ」
 それだけ言うと階段を下りていく。その後姿が妙にさみしげで、なんだか後ろめたい気になってくる。
「椎名!」
 呼び止めて、振り向きざまに本を投げる。落とすかと思ったけどなんなく受け止める。もしかしてオレより反射神経いいのでは。そんなことを脳裏に思い浮かべるも今は気にしないことにする。
「それ貸すよ。気にいったら言って。続きあるから」
 椎名は本を大事そうに抱えると嬉しそうに言った。
「ありがとう!」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 椎名ってなんか変わったよなー。
 シチューを食べ終え再びゲームをやりながら、ふと考える。
 中学のころは同じクラスだったけど、どっちかっていうとおとなしい、言い方を変えれば暗かった。なんとなく近寄りがたい雰囲気もあったし。それが一緒に暮らすようになって明るくなって――よく笑うようになった。可愛くなった。坂井じゃないけどオレって幸せ者なのかもしれない。
「これもある意味一つの冒険じゃないのか?」
 誰にでもなくそうつぶやいてみる。
 ……バカらしい。一体何考えてんだ、オレ。
 チャラリーー♪
「あああーーーーっ!」
 空想に浸っていたのが悪かったのか、テレビ画面にはとっくに『GAME OVER』の文字が表示されていた。やっぱりレベルが低かったのか?
 時計は10時。区切りもいいし今日はこのへんにしとくか。
 テレビの電源を切り、テレビ台の下へゲーム機を片付ける。
「ん?」
 何か踏みつけたような感触がする。
 足をどけてほこりを払い、すみずみまで観察する。どうやら壊れてはいないみたいだ。
 オレが踏みつけたもの、それは小さなペンダントだった。
 銀色の鎖に青の球体。中には女の人の肖像画らしきものが彫られている。
「椎名のかな?」
 女物っぽいから母さんのものだって可能性もあるけど。まあ明日でもいいか。
 もう一度汚れを拭きとるとズボンのポケットにつっこむ。
 今日はなんか疲れた。学校でと夢の中でと二倍苦労したってかんじだ。
 本当は風呂に入って寝るつもりだったけど、疲れたからパス。着替えることもなくベッドにうつぶせになる。
 そしてそのまま夢の中へ――
 

人物紹介

 投稿者:津波メール  投稿日:2006年11月26日(日)00時19分21秒
  大沢昇(おおさわのぼる)

 なぜか異世界、空都(クート)に来るはめになったごく普通の高校生(本人語)。
 見事なまでの苦労、不幸、ハ○体質だが持ち前の前向きさと根性で耐え抜くある意味健気な人でもある。
 典型的な日本人。間違っても美形ではない。

 髪の色・黒 目の色・黒
 身長170センチ、体重56キロ
 生年月日 2月13日(15歳)
 出身地 地球
http://www5e.biglobe.ne.jp/~kazana-s/n50.html
シェリア・ラシーデ・ミルドラッド

 ミルドラッドの領主の一人娘。黙っていればお姫様。
 気さくで元気。表面上は昇の主君という形になるが、当人も護衛となった男も自覚は無きに等しい。

 髪の色 金 目の色 明るい茶
 身長158センチ、体重48キロ
 生年月日 5月10日(15歳)
 出身地 空都(クート)
アルベルト・ハザー

 極悪人(命名、昇)。
 昇の師匠。
 人のよさそうな笑みできついことをずばずば言う。黙っていれば好青年に見えるだろう。
 神官長の一人息子であり本人も神官なのだが、使用しているのはもっぱら壷(つぼ)または鈍器である。

 髪の色 金 目の色 碧眼
 身長183センチ。体重72キロ
 生年月日 12月24日(23歳)
 出身地 空都(クート)
http://www5e.biglobe.ne.jp/~kazana-s/a50.html
大沢まりい Graces of blossoming

 昇の義理の姉。
 やや天然入ってるような気がしないでもないが、ここぞという時の意思は強い。運動神経は弟よりはるかにいい。
 会う人ほとんどが彼女のことを知っているのは一年前のことがあったから(SkyHigh,FlyHigh!参照)。
 ショウとの仲が気になるところ。それ以外にも謎がありそうだが……?

 髪の色 焦げ茶 目の色 明るい茶
 身長160センチ、体重47キロ
 生年月日 12月23日(15歳)
 出身地 地球
ショウ・アステム

 昇の命の恩人。まりいのペンダントを通じて知り合うことになる。
 年齢のわりに落ち着いていて頼りになるのだが、思い込みの激しい一面も。時には昇より子供っぽい一面を見せることもある。

 髪の色 栗色 目の色 黒
 身長165センチ、体重53キロ
 生年月日 8月14日(15歳)
 出身地 空都(クート)
シェーラザード・C・ユゲル・ジェネラス

 通称シェーラ、別名お嬢(命名、昇)。
 息をのむほどの美人だが?
 色々な意味で、いい性格をしている。いつも命令口調だが、本当はただ人との付き合い方を知らないだけ。最近は男装もするようになった。

 髪の色 緑みがかった金髪 目の色 翡翠(ひすい)色
 身長163センチ 体重50キロ 肌の色 褐色
 生年月日 7月15日
 出身地 空都(クート)
セイル

 シェーラをつけ狙う暗殺者。そのとばっちりで昇自身も狙われることに。
 黒フードを身に着けていたが顔を隠す必要もなくなったため今ははずしている。物珍しかったのか別の目的からか、なぜか昇につきまとう。

 髪の色 銀 目の色 青
 身長173センチ 体重58キロ
 出身地 空都(クート)
草薙諸羽(くさなぎもろは)

 『剣の一族』の末裔。ただし剣なるものが一体どのような役割を担っているのかは謎。
 行動力のある元気な女の子。空都(クート)には修行で来たと言っているが半分以上は好奇心。
 ちなみに他の世界での名前はソード・レインディア。

 髪の色 黒 目の色 黒
 身長152センチ 体重43キロ
 生年月日 1月8日(15歳)
 出身地 地球
リザ・ルシオーラ
 魔法よろづ屋商会の会長。ただし会長、会員は自分ひとり。
 アルベルトの親友で、いつも目立つ格好をしている――わりには誰も気づいてくれない。
 見た目とは違い物事を深く考えておりその言葉一つ一つに重みがある。

 髪の色 藍色 目の色 紫
 身長173センチ 体重 62キロ
 出身地 霧海(ムカイ)

カイ Graces of Shining
 かつてアルベルト、リザと共に旅をしていた人物。
 

小説って

 投稿者:津波メール  投稿日:2006年11月26日(日)00時17分55秒
  小説は読む人に楽しんでもらえる、笑顔をくれる人に読んでもらいたいと思って小説家になりたいと思いました。あんまり、らんぼうな言葉は使いたくありませんけどね。引き続き、私の自作EVER GREENを楽しんで下さいね。  

第一章 出会いと旅立ち  3

 投稿者:津波メール  投稿日:2006年11月26日(日)00時06分45秒
  No,3 ある午後、保健室? でのお話

「いてて……」
 文字通り顔が痛い。さっきボールをもろにくらったからだ。
 あいつら手加減ってものをしらんのか。あとで絶対とっちめてやる。
「痛っ!」
 にしても本当に痛い。
「気がついたようですよ」
「え、ほんと?」
 男と女の声。先生か?
「もしもーし、起きてます?」
 この際だからもう少し寝たふりしとこ。
「ねえ、起きてるんでしょ?」
 女が体をゆさぶるもあえて目をつぶったまま動かない。
「起きてって」
 しつこい先生だな。いつもサボってるわけじゃないんだからたまには見逃してくれたっていーじゃん。
「…………」
 足音が遠くなっていく。よかった、あきらめてくれたみたいだ。
 そう思ったのがまずかった。
「忠告したからね」
 へ?
 そう言うやいなや、毛布をおもいっきしひっぺがす。んでもってオレは勢いあまって床へまっさかさま。
「いってぇーーっ!」
「なんだ。やっぱり起きてるじゃない」
「いきなり床に突き落とすことはないだろ!」
「それはたまたま。ちゃんと忠告したって言ったでしょ?」
 くーっ。なんて女だ。
「アンタそれでも先生――」
 言いかけてとまる。
 金髪に明るい茶色の目。……変な格好。まるで……?
「どーかしたの?」
 女が心配そうな顔をする。
「あの……」
「何?」
「それ……ヅラ?」
「はぁ? 何言ってるのよ。この年でカツラをかぶるような女の子がいる?」
 ……だよな。
 だったら一体……。
「あなた庭で倒れてたのよ。感謝してよね。もし見つけたのがアタシじゃなかったら今頃大騒ぎよ」
「……ありがとうございます」
 言われるまま礼を言う。
「顔もちゃんと冷やしてあげたから。腫れたままじゃカッコ悪いものね」
「……それはどーも」
 足元にはぬれたタオルがあった。さっきたたき起こされた時に落としたんだろう。
「なーんてね。本当はアタシの連れがたまたま見つけたんだ」
 そう言って舌をペロリ。
(なら威張るなよ)
 そう言いたいところをかろうじてこらえる。
 今はそれどころじゃない。何か根本的な部分が間違ってるような気がする。
「…………」
 もう一回頭の中を整理してみよう。
 寝ていたのは大きなベッド。大きな窓に広くて豪華な部屋。目の前にいる女――女子だろう。容姿はどうであれ見た目はオレと同じ年くらいに見える――はどう見ても日本人じゃない。そのわりにはしっかり日本語だったけど。
 結論。ここは保健室――じゃない……!?
「大丈夫?」
 よっぽど間抜けな顔をしてたのか目の前の外国人が再び心配そうにこっちを覗きこむ。
「あの」
「何?」
「ここ……どこ?」
 我ながら間抜けな質問だと思う。
 でもこれが、ここに来て初めての彼女との会話だった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「ここはここよ。それしか答えようがないじゃない」
 わかるようなわからないような答えが返ってきた。
「そう……ですよねぇ」
 でもここはあきらかに保健室じゃない。かといって学校でもないだろう。もしかして今日から通うことになった留学生? なんて都合のいいことも考えたけど……絶対違う。
 本当にここは一体――
「あなた変わった格好してるわよね。特に髪と瞳。黒い髪なら見たことあるけど黒い瞳なんて初めて。あなた外国の人なんでしょう?」
 明るい茶色の目がくるくると元気よく動いている。
「はぁ」
 外国? 外国から来たのはそっちだろ?
 ……まてよ。むこうにとっておれが外国人なら、それこそここは――
「思い出すなぁ。一年前。まるで――」
「もうおよしなさい。困っているでしょう?」
 ふとまとまりかけたある考えが、その人物の声によって中断される。
「もう大丈夫みたいですね。顔の腫れもひいてきたみたいですし」
 そーいえば、はじめに聞いたのは男と女の声だった。
 こっちは金髪碧眼のちゃんとした大人の男。人のよさそうな顔だちをしている。色白かつ長身(180くらいありそうだ)からして典型的な外国人だ。
 そのわりには日本語うまいな。さっきの女子もだけど。
「……あなたは?」
「あなたの第一発見者ですね。この方をお探ししているときに偶然見つけたんです。庭に転がっていたものですから危うく踏みつけるところでした」
 この方、女子の方を指差して言う。
「ははは……」
 踏みつけられなくてよかった。
 話し口調からして彼女の保護者かなんかかな。
「行き倒れなんて今時珍しいですね。しかも人様の庭に。……失礼ですが、あなたのご出身は?」
「……は?」
「どこから来たのかと訊ねているんです。あなたが泥棒という可能性もありますから」
 本気で失礼だな。それに、なんかえらい言われよううだし。
「ここまで運んでもらったのは感謝しますけど、そう唐突にいわれて答える義理なんて――」
「ご出身は?」
 人好きのしそうな笑みで同じことを言う。
「…………」
 ヤロー。
「榊町(さかきまち)東区3丁目22-5」
「……質問を変えます。あなたの祖国は?」
「……日本です」
「ニホン?」
 女子がおうむがえしに聞く。
「珍しい名前ね。知ってる? ア――ふがっ!」
「ニホン――日本ですか?」
 女の口を手でふさぎながら、男が驚いたような声を上げる。
「それは地球にある島国の名前ですか?」
「う、うん」
 勢いに圧倒され、こくこくとうなずく。にしても地球の島国って大げさな。
「日本……」
「あのー?」
「…………」
「ううーー」
 腕の中で女がなにやらうめいているがそれは無視。
「ということは……」
「あのー。こっちからも質問ですけど、ここってどこなんですか?」
「…………」
「うううううーーーー」
「あのー」
「…………」
 話を聞けよ。
「あのっっ!!」
「はい?」
「手、放してあげたほうがいいんじゃ」
 さすがに抵抗する力もなくなったのか、男の腕の中で女子がぐったりしていた。
「これは失礼」
 手を放すと女がばったりと倒れる。あれだけ息を止められてたんだ、しばらくはしゃべれないだろーな。
「何するのよ! 息が止まるところだったじゃない!」
 ――でもないか。でも男はそれを無視して話を続ける。
「わかりました。お教えしますからあちらを向いてください」
「なんで――」
「向いてください」
「…………」
 驚いた表情を元に戻し、親切そうな笑みを浮かべながらさっきと似たようなことを言ってくる。だんだん、この笑顔がうさんくさいものに思えてきた。
 わかったよ。向けばいいんだろ!?
「そうそう。できれば目もつぶってください」
 こいつは……。
「これでいいんでしょ?」
 半ばやけくそで目をつぶる。……やっぱりあれはエセ笑顔だったんだ。
「もう少しで元の居場所に戻れますから。少し痛いかもしれませんが我慢してください」
 痛い?
「それってどういう……」
「ちょっと、何するの!?」
 オレの声と女のこえがハモる。
「へ?」
 悲鳴じみた声に思わず振り向いたその時。
 ゴンッ!
 何かが後頭部を直撃。当然オレは意識を失った。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 シーナという人にあったら伝えてください。
『時を紡ぐ旅人が現れた。水のかけらをその人に渡してください』と。

 何が『時を紡ぐ』だよ。わけわかんねーよ。
 顔面の次は後頭部か? これじゃそのうち頭がつぶれるぞ。
「おーい大丈夫かー?」
「大丈夫なわけねーだろ!」
 ガバッ。
「いててて……」
「ほら言わんこっちゃない。もう少し寝てろ」
「坂井?」
「だから悪かったって。そうむきになるなよ」
 目の前にいるのは確かに坂井だった。金髪の女でも、人のよさそうな顔をして人を殴った外国人の男でもなく坂井。
「どうした? さっきからぼーっとしてっぞ」
「寝ぼけてんだよ。……ところで坂井」
「ん?」
「なんでここにいるんだ? 昼休みとっくにすぎてるだろ」
「昇くんが心配でこうして付き添ってやってたんだよ。うーん、オレってなんて優しい」
 やっぱり最後の付き添い発言はお前だったか。
「……ついでにもうひとつ聞くけど、お前オレがここで寝てる間何かした? 頭殴ったとか」
「なんでそんなことしなきゃなんねーんだよ」
「そーだよな。悪い。今の忘れて」
 やっぱあれはオレの思い過ごしか。
「まあ、しいて言うなら」
「言うなら?」
 坂井は細めの目をさらに細めてこう言った。
「耳元で子守唄歌ってやった。よく眠れたろ?」
「悪夢にうなされたわっ!!!!」
 反動で再び起き上がる。
「怒るな怒るな。ちょっとしたお茶目なんだから」
 そのお茶目にうなされる身にもなってみろ! ったく。
「でもおまえ、よっぽど打ち所悪かったんだな」
「?」
「後頭部。コブできてるぞ。殴ったってそのこと言ってたのか?」
 確かにコブがある。夢――じゃなかった!?
「痛っ!」
 どうやら無意識のうちに手をやっていたらしい。
「さわるなよ。どうせすぐに治るだろーし」
 さすがに坂井も苦笑する。
「もう帰ろうぜ。帰りまでお姉さまと一緒なわけじゃないだろ?」
「うん……」
 やっぱあれって夢だったのかなー。

 それは、ある平和な午後の出来事だった。
 

第一章 出会いと旅立ち  2

 投稿者:津波メール  投稿日:2006年11月26日(日)00時05分43秒
  No,2 学校

「~~♪」
 鼻歌を歌いつつ卵を割る。
 コショウをひとふり、程よく半熟になったところでひっくり返して皿に盛る。
「昇くん、味噌汁できたよ」
「こっちもできた。二人呼んできてくれる?」
「うん」
 オレの親父と椎名の母さんが再婚してはや二週間。お互いの生活習慣がぬけないのと全員が自炊できるようになるという意味合いもかねて、料理は当番制になった。
「お父さん、お母さーん、朝ごはんできたよ」
「おー」
 着替えもままならないまま、親父と椎名のお母さん――母さんがあわただしく下りてくる。親父のやつまだ寝ぼけてるな。ったく着替えくらいしろよ。
「昇くん目玉焼き焦げてる!」
「げっ!」
 朝食の当番は一週間ごとに変わる。今週はオレと椎名で、もっと細かく言うなら今日の献立は味噌汁とご飯にハムエッグとパンと牛乳。さらに細かく言えば、和食はオレと親父で洋食は椎名と母さんだ。
「今日のご飯おいしかったよ。椎名って料理上手いな」
「ありがとう」
 そう微笑んだ椎名の頭を母さんが軽く小突く。
「あんまりつけあがるんじゃないの。味噌汁の作り方だってきのうわたしが――」
「わーっ!」
『?』
「行ってきます! 昇くん早く!」
「あ、おい椎名待てって!」
 まだ時間に余裕はあるのに、通学用にしているスポーツバックを持つと慌てて家を出た。


 四月十八日。
 新しい高校にはようやくなれた。お花見シーズンももうそろそろ終わりに差し掛かり、入学式の頃には満開だった桜も今ではもう散り始めている。
 大沢昇(おおさわのぼる)。二月生まれの十五歳。四月八日をもってとある県立高校の一年生になった。
 オレのプロフィールは以上。強いて言えば、最近追加されたことが一つ。
 それは――
「昇くん、今日の味噌汁どうだった?」
「まあ普通だったけど」
「ほんと?」
「うん」
 そんなたわいもない会話をしながら学校へ向かう(道が近いから徒歩のほうが早い)。
 椎名。本名椎名まりい。
 親父と母さん――椎名のお母さんが再婚してもう一ヶ月たとうというのにもかかわらず、これだけはまだなれない。
 だいたい今までクラスメイトで『椎名』だったのに一体なんて呼べばいいんだ? 『姉貴』って呼ぶのもなんだかなー。かと言っていつまでたっても昔の苗字で呼んでちゃ変だろーし。
「昨日お母さんに味噌汁の作り方教えてもらったんだ。だからうまくできたかどうか心配だったの」
「それって……」
 ふと立ち止まり、考えこむ。
「もしかして椎名って料理作ったことない?」
「違う違うっ! 朝食を作るのが初めてだったの。今まで夕飯しか作ったことがなかったから」
 首をしきりに横に振る。いやそんなに否定しなくても。
「……おいしかった?」
 首をふるのをやめると、上目遣いで見上げる。
「うん」
「ほんとに?」
「ほんとほんと」
 大根とわかめの味噌汁だったけど、初めてにしては十分だ。
「よかったぁ」
 う……。
「?」
「なんでもない。いこ」
 追加されたこと。それは、同じ歳の可愛いお姉さんができたこと。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 徒歩にて十分。無事に学校到着。二人そろって県立楠木(くすのき)高校の一年生だ。
「じゃあオレ二階だから」
「うん」
 オレは6組で椎名は2組。そんなわけで6組の教室――二階へ上がる。クラスが一緒じゃなくてよかった。周りに何言われるかわかったもんじゃない。
「昇くん」
「ん?」
「あの……」
 椎名はひとしきりもじもじさせたあと、(多分そうだろう)やや気恥ずかしそうに(はずだ、多分)言った。
「『まりい』でいいよ」
「は?」
「わたしだけ『昇くん』じゃなんか申し訳ないし。姉弟になったんだから、ね」
 義姉の思わぬ発言に体が固まってしまう。
「今すぐじゃなくてもいいから。じゃーね」
 半ば呆然と立ち尽くすオレを一人残し義理の姉は足早に去っていった。
 『ね』と言われても……。
「昇くーん」
「うぐっ!」
 固まっていたのはほんの一瞬のこと。背後から急に首をしめつけられる。
「坂……井」
「朝から二人仲良く登校? 見せつけてくれるねー。こっちはまだ一人だっていうのに、んー?」
「苦しい。手ぇ放せ」
「おー悪い悪い。つい力んじゃってねー」
 絶対わざとだろーが。
 今、笑顔でオレの首を絞めてきた茶髪の男は坂井。クラスメートで昔からの友人だったりする。
「今日はたまたま一緒に来ただけだって。オレと椎名が姉弟だってこと知ってるだろ?」
 そう言うと、友人は笑顔のままささやいた。
「もちろん知ってますとも。一年前は赤の他人だったってこともな」
「…………」
 坂井は小学校からの友達。なぜか高校まで同じでしかも同じクラス。ここまでくるとほとんど腐れ縁といってもいい。当然オレの中学時代も知ってるわけで。
「ばらしちゃおっかなー」
「なっ!?」
「うそうそ。そんなことしても余計に空しくなるだけだろ。こんなのは黙ってても自然にばれるもんだろ」
「……そーだけど」
 人ができてるのかできてないのか。坂井はこーいうやつだ。
「にしても、お前っていつまでたっても『椎名』なのな。いい加減やめたらどーだ?」
 友人の一言に、さっきの姉のセリフを思い浮かべる。
「どした?」
「さっき、椎名に名前で呼べって言われた」
「それって……」
 坂井はひとしきり考えこんだふりをすると(ふりだろうあれは)肩をポンとたたいた。
「やるのは二人っきりの時だ。わかったな」
「お前……」
 こいつは何を考えてんだか。大体親がいるのにどーやって何をどーしろというんだ。
「いいよなー。可愛いあの子がある日突然お姉さまに。普通どう考えたってありえない状況だろ。
 オレも一度でいいから、そういう幸運に恵まれてみたいよ」
「簡単に言うなよ。これもこれで結構苦労してんだから」
「とかなんとか言って、本当は喜んでるだろ」
「……うん」
 つい正直に答えてしまうのが悲しい。けど普通はそーだろ? これが男の性ってもんだ。
「ということでオレの宿題やっておくよーに」
「なんでそーなる!」
 そんな会話をしつつ、授業が始まる。オレの日常はまさに平和そのものだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「大沢いったぞー」
「おー!」
 昼飯を食べたあと、クラスの何人かとつれだってバスケ。やってる理由はいたって簡単。単に体を動かすのが好きだから。
 ボールを受け取ってシュート!
 ッテンテンテン……。
『…………』
 はずれた。見事に外れた。
 体を動かすのは好き。でも実際は思い通りに動いてくれない。体力は人並み。運動神経も普通のはず……なのに。
「大沢―、もうちっと体鍛えよーなー」
「るせーっ!!」
 運動はそれなりにやってる。太ってて体を動かすのがきついわけでも、病気で激しい運動ができないわけでもない。けど、なかなか思うようにはいかないわけで。
 運動音痴ではないはずだ。……たぶん。
「昇、そっちいったぞー」
「へ?」
 ゴガッ!
 ふりむいたのと顔面に鈍い衝撃を受けたのはほぼ同時だった。
「あーらら。見事ストライク」
「普通狙ってもできないよな」
「おーい大丈夫かー?」
 んなわけねーだろ。
「よかったな昇。これで一時間はサボれるぞ」
「あっそれじゃオレ付き添う。なんて友達思いなんだオレ」
 ちっくしょー。人事だと思いやがって。後で絶対とっちめてや……る…………。

 大沢昇、十五歳。
 それは、こんな穏やかな日の出来事だった。
 

第一章 出会いと旅立ち

 投稿者:津波メール  投稿日:2006年11月26日(日)00時03分56秒
  No,1 始まり

 眠い。とてつもなく眠い。
「……10時か」
 時計を見てつぶやく。
 昨日寝たの何時だったっけ。確か夜中までゲームしてて、そのまま寝ちゃったんだな。今日は休みだし、しばらく寝てても罰は当たらないだろ。
 よし、そうと決まったらもう一眠りしよ。
「昇ー、いい加減に起きたらどうだー?」
 下から親父の声がする。ったく言ってるそばから。
「休みなんだからもうちょっと寝かせろって」
「今日は外食だぞー。食わないのか?」
「外食? 珍しーじゃん。何かいいことでもあったわけ?」
 いつもはケチってばっかのくせに。どーいうかぜのふきまわしだ?
「あったからこれから行くんだろ。いいから早く降りてこい。それともそのままの格好で会いに行く気か?」
「会いにって……?」
 ……。
 …………。
「やっべええええええっ!」
 自分であげたなんとも間抜けな大声が部屋中に響いた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「改めまして。こいつは僕の息子の昇(のぼる)です。見た目通り、かわいげのない奴ですがよろしくおねがいします」
 なーにが『僕』だ。男にかわいげがあったら余計気持ち悪いだろーが。
「悪かったな。そっちだって一体そのどこが『普通の格好』なんだよ」
 『普通の格好でいい』とか言っておきながら、しっかりスーツを着こなしている中年オヤジにジト目をやる。
「何か言ったか昇くん」
「別に」
「二人とも本当に仲がよろしいんですね」
『どこがっ!!』
 なぜかハモってしまうのが……悲しいかな。

 オレ、大沢昇(おおさわのぼる)。十五歳。
 中学を卒業したばかりでもうすぐ地元の高校に進学する。
 今日はわけあって親父と一緒にとある小料理屋に来ている。
「じゃあこちらからも改めまして。この子は娘のまりいです。どうかよろしくおねがいします」
 そう言ったのは髪の長い女性。親父よか少し年下だと聞いてたけど下手すれば二十代でも十分通用しそうだ。
「まりいです。これからよろしくお願いします」
 焦げ茶色の髪と茶色の目をした女子が頭を下げる。
『…………』
 ここでしばし会話が止まる。
「あの。私の顔に何かついてますか?」
「いやいや。こんな可愛い子がこれから自分の娘になるかと思うとつい顔がこうなってしまって」
(スケベ親父)
「ほら息子もこんなに喜んでる」
(いででででで)
 こんな時にかぎってしっかり聞いていたらしく、かかとでつま先をめいっぱい踏みつけられた。
「お互い自分の子供の紹介ばかりしているのも変ですね。じゃあ今度はわたしが。……椎名つかさです。不束(ふつつか)者ですがこれからよろしくお願いします」
「つかささん、もう『椎名』じゃないでしょう?」
「あ……」
 髪の長い女性――『つかさ』さんの顔に赤みがさす。
「これからは『大沢つかさ』になるんです。あと僕……俺、大沢勝義もこれからよろしくおねがいします」
 今度は親父が頭を下げる。 辺りに流れるのはテレビドラマさながらの甘い雰囲気。
 なんだかなー。いづらいことこのうえない。
「じゃあオレ、先に帰ってるから。ゆっくりしてきなよ」
「あっ私も!」
 気恥ずかしさに二人そそくさと店をあとにする。まあ恋人同士、夫婦水入らずごゆっくり。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「親父のやつなにやってんだか」
 中年夫婦がよろしくやってる中、オレと椎名は店のあたりをぶらついていた。
「だいたい今日みんなで会うことは前から決まってたんだし。今更照れたってしょーがないだろ」
 しかもこれからずっと一緒に暮らすことになるのに。
「でも嬉しそうだったよ。おじさんも……お母さんも」
「まあ親父もあれで男だしなー」
 そう言うと隣で椎名がクスッと笑った。
「大沢君、それってなんかオヤジくさい」
 椎名のセリフに一瞬硬直してしまう。椎名って時々ひどいことを平気で言うよな。
「ごめん。傷ついた?」
「……ちょっと」
「ごめんなさいっ!」
 まあこうやってすぐにあやまってくれるからいーけど。
「うそうそ。冗談だって。
 それよかさ、椎名こそよかったの? 親父……父さんと、椎名のお母さんの再婚」
 オレの家はオレと親父との二人暮し。母さんは十歳の時に死んだ。それからは親父に男手一つで育てられてきた。新しい縁談の話も何度か周りから勧められたことがあったものの、当分は一人でいいとただ黙々と働いていた。
 そんなある日椎名のお母さんを見て一目ぼれ。何をとちくるったのかそのまま口説き倒した。でも椎名のお母さんには娘が、養子がいるとのこと。熱血馬鹿の親父はそれでもかまわないと言い張りとうとう今日までこぎつけたってわけだ。こーいうところは別の意味で尊敬する。
 あとは息子であるオレの了解を得るのみ(どーりであの時特上寿司の出前なんか取ったわけだ)。その話を聞いた時、オレはすぐに賛成した――わけではなく、あまりのことに開いた口がふさがらなかった。しかも再婚相手の子供、オレの義理の姉弟となる人が当時の学校のクラスメイト、椎名だと聞いた時は本当に驚いた。
 たまたま椎名と一緒の当番になったあの日、椎名は再婚についてどう思っているのかをそれとなく聞き出そうとした。それが急に倒れられたもんだから(その時の椎名は体が弱く病気がちだった)結局聞けずじまい。保健室に連れて行ったものの、そのまま帰るのも気がひけたから佐藤(椎名の友達)に知らせて二人で椎名を連れて帰った。そこで椎名のお母さんに初対面。いい人そうだったし反対する理由もなくあっさり了解したってわけだ。
「…………」
「椎名?」
「大沢君は、私が養女だってことは知ってるよね?」
「……うん」
 それもつい最近知った。同じクラスだった時はおとなしいとか物静かとは思ってたけど、まさかそんな事情があったとは知らなかったから親父の再婚話の次に驚いた。
「今はちゃんと『お母さん』って呼んでるけど、ずっとお母さんのこと『おかあさん』って呼べなかった。頭ではずっと前からわかってたんだけど、私は捨てられた子なんだ……って。うじうじしている自分が大っ嫌いだった。
 でも色々あって、最近になってようやく『おかあさん』って呼べるようになって。そしたら今まで悩んでいたのが急にばかばかしくなっちゃった」
 そう言って背を向ける。
 感傷的になったんだろうか。なんか悪いこと聞いたかも。
「あ、あれ? 今何の話してたっけ?」
「……再婚の話」
「そうそう。その話。私は賛成だよ。お母さん幸せそうだったし。おじさんもいい人だし」
 親父はただのスケベジジイなだけだけどな。二人とも絶対騙されてるぞ。
「それ聞いて安心した。今まで男二人だったから味気ないかもしれないけどまあ何とかなるさ。あっそーだ。家事のことなら安心していーよ。二人生活ながかったからある程度のことはできるし」
「家事なら私も一応……できるよ」
「なら大丈夫だな。分担制でいこーよ。そのほうがだんぜん楽だし」
「うん」
 そう思うと気が楽になってきた。二人よりも多いほうが料理のしがいもあるだろーし、なにより華やぐ。
「椎名はいつからうちに引っ越すの?」
「三日後くらいかな。まだ荷造りが終わってないから」
「そっか」
「もっと遅いほうがよかった?」
「そうじゃなくって……」
「大沢君」
「ん?」
「これからよろしくおねがいします」
 そう言って再び頭を下げる。
「やめろって。そんなことされてもオレどーしたらいいかわかんねーもん」
「でも……」
「『でも』じゃないって前から言ったろ?」
「……うん」
 いきさつはどうであれオレたちは家族になったわけだし。これからは硬いこと抜きに限る。
「あ、そういえば」
「ん?」
「大沢君の誕生日っていつ?」
「二月だけど」
 オレの誕生日は二月の十三日。バレンタインデーのいっこ手前だ。おかげで誕生日とバレンタインを一緒にしたプレゼントをもらうことが多い。当然本命はゼロ。
「私は十二月二十三日。じゃあ今日から私大沢君のお姉さんだね」
「…………」
「大沢君?」
「なんでもない」
 確かに。戸籍上はそうなる。知り合い(しかもかわいい)と一つ屋根の下。これって実はすっげー幸せなことなのかもしれない。
「じゃあ帰ろーか。そろそろ親父たちもほとぼりさめてるだろーし」
「そうだよね」
 そうしてオレたちは元の店に戻った。

 四月。一年の始まり。とある田舎町に四人の家族が生まれた。

 家長、大沢勝義。
 妻、つかさ。
 長女、まりい。
 長男、昇。

 そしてこれは、オレにとっても大きな分岐点、冒険のはじまりだった。
 

宣伝です

 投稿者:  投稿日:2006年10月25日(水)17時45分53秒
  題名通りです

実は、私はとあるHPを作っています
それは、小説関連中心的に作りました
見る機会があればぜひ来てください

http://plaza.rakuten.co.jp/tokuninasibaka/
 

早智の物語

 投稿者:早智  投稿日:2006年 6月 3日(土)18時37分0秒
  私の名前は「早智」

中学1年生になったばかり

私は小学校6年間いじめばかりを受けていて

違う中学へと入学する事にした

この学校だったら安心できると信じてたのに・・・

私はこの中学3年間もこんな苦しい思いをするとは

思わなかった-・・・
 

夏りんご 予告!

 投稿者:りこ  投稿日:2006年 3月22日(水)18時07分49秒
  この掲示板に「夏りんご」という自作の小説を書こうとおもいます!
あらすじは、妹が、兄に恋をする話です!(簡単に言えばね・・・
 

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