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生贄1

 投稿者:アイス  投稿日:2008年12月 8日(月)19時28分11秒
返信・引用
  生 贄  アイス

 3千年前のエジプト、とある村。
ここでは日々の生活さえままならない者が、子供から大人まで働いていた。その数、30ほどか。
今、木材を運んでいる齢10歳くらいの少年――バクラも、その一人である。
木材を運んでは戻り、戻っては運び…… そんな機械的な作業を、朝から日の傾きかけた今まで、延々と繰り返していた。
その労働量は、大人にも劣らないだろう。

今もまた、新しい木材を背負う。と、

「わわわっ!!」

隣にあった木材が倒れてきた。
押しつぶされた、と思われたが。

「おい、大丈夫か?」

近くにいた同じ仕事の男が、木材を押さえていた。

「あ、はい! ありがとうございます!」

バクラはぺこりとお辞儀をすると、また運び始めた。





「よし! 今日はこれで終了だ!」

労働者のボロボロの服とは違う、綺麗な服を来た男の声。ここの統率者だった。
そこにいた労働者全員の手が止まる。

「今日分の労働量を渡す。呼ばれたものは出て来い!」

怒声にも近い統率者の声。それには
(本当はお前らにやる金なんかねぇが働いてるから仕方ねぇ)
という響きが含まれていた。
自分の名前が呼ばれ、その男の下へかけていくバクラ。

「ほらよ」

半ば押し付けられるようにして、賃金を渡される。
労働量とは明らかに不釣合いなその金額、だが彼はまだその価値はわからない。

「ありがとうございます!」

バクラは頭を下げると、労働場から離れた。





 小さな市場。
バクラは貰った金を強く握り、市場の、一つの小さな庇(ひさし)の中へ入っていく。
中にはいくつものパン、そしてその店の店主らしき小太りの中年女性の姿があった。

「おばさん、パンをおくれよ」

女性がバクラに目を向ける。
ぼろい服、汚れた体。女の機嫌は明らかに悪くなった。
バクラから金を受け取ると、

「はいよ」

少々その金とは不釣合いな、本当に小さなパンを投げる。
小さくジャンプし、そのパンを掴むバクラ。

「ありがとう」

そう言うや否や、彼はそのパンをほおばった。





 日が落ち、すっかり辺りも暗くなった頃。
バクラは市場の近くの、しっかりした石造りの建物が並ぶ道を歩いていた。

彼はその中のとある家――と家の小さな隙間に入っていく。
そこには、大きな石でおさえられたぼろきれ。
そこが、彼の住処だった。


彼はぼろきれの上から石を取り除くと、そのぼろきれに包まる。

「おやすみなさい」

誰に言うわけでもなく、一人つぶやく。
直後、彼は眠りについた。



次に彼が目を覚ましたのは、その一時間後。起こしたのは、馬の蹄の音だった。


むくりと体を起こし、通を見る。だがその視界は砂埃で塞がれた。濁った視界の中、遠く向こうに小さく、4頭ほどの馬が走り去っていくのがわずかに見てとれた。
少し遅れて、闇に良く映える火も小さく視界に映る。

(お祭りでもやってるのかな?)

バクラは包まっていたぼろきれをかぶると、火の見えるほうへ歩き出した。





 「何これ……」

火の元――バクラがパンを買った市場には、祭りとは程遠い惨状が広がっていた。

辺りの家々が燃え盛る。

人を乗せた馬が、暴れている。

町人たちは、叫び声をあげながら逃げ惑っている。

盗賊の、夜襲だった。


「おぅらおぅら、店先のものを全部出せ!!」

馬に乗った男たちが気まぐれに庇の中に入っては、その店の主人に怒鳴る。
それに頷けば、遠慮容赦なく全ての品物が掻っ攫われる。
かと言って首を横に振れば、店に火が放たれ、店主は刃物で傷つけられる。

バクラは、怖々そっと馬の後ろを追った。

今また、一つの店に馬と男が入っていく。
そこは夕方、バクラがパンを買った店だった。

店の女性が、慌ててパンをいくつか隠す。

「おい、ここにあるモンを全部出しな!!」
「わ、わかったよぉ……」

女は、隠したもの以外のパンを、全て男たちに差し出す。

「よしよし、物聞きのいい奴だな」

パンを持っていた皮袋に全て入れると、その店を去ろうとする。だが、

「おい、ちょっと待て」

その中の一人の男が他の3人を止めた。

「何だ?」
「この女、まだ隠してやがるぜ!」
「ひっ!!」

女の顔が、青ざめる。
男が言葉を続けた。

「さっき俺たちが店に入る直前、こいついくつかのパンを隠してやがった」
「そ、そんなことないよぉ……」
「嘘つけ! その庇の裏を見せてみな!!」
「お、お願いだよ、それだけはぁ……!」
「はあ~? 甘い事言ってんじゃねえ!!」

男が持っていた刃物を女性に振りかざす。

決して優しくしてはくれなかったものの、自分にパンを売ってくれた相手。
バクラは、たまらなかった。

「だめーーーーーーーーっ!!!」

バクラは、女性の前に飛び出した。

「うあっ!」

彼の頬に、赤黒い花びらが散る。
男たちも店の女性も、絶句だった。
バクラは頬を押さえながら男を睨み、

「えっ……」

彼も絶句した。
刃物を持ったその男は、昼にバクラを倒れる木材から守ってくれた男に他ならなかった。

ようやく男が口を開く。

「てめぇ、同じ場所で働いてる小僧じゃねえか」

続け、バクラも言葉を紡いだ。

「おじさん……何やってるの?」
「見りゃわかるだろ? 市場を襲ってるのさ」
「で、でもおじさん、昼はあんなに一生懸命働いてたのに、どうして……!」

バクラの言葉、そして純粋な瞳に、男は嘲笑的な笑みを向けた。
彼の頭に手を置くと、諭すように話し始める。

「あのな、あんな金で食っていけるわけねぇだろ? てめぇはまだ自分の貰ってる金の価値がわかってねぇかも知れねえが、あれは俺たちの労働量から考えると明らかに少ねぇ。俺たちに金はいらねぇとか思われてんのかね」
「で、でもそんな理由で市場を襲うなんて」
「この市場の連中だってそうさ。見てたぜ? 今日てめぇがパン買うとこ。この店の女、てめぇの身なり見た瞬間いやな顔しやがった。それにだ。てめぇが出した金なら普通もっとデカいパンを買えるはずさ。だがこの女、金の価値の半分ぐらいのパンを出しやがった。 俺も同じだ。いつもここじゃ俺たちみたいな貧乏な奴は、ろくに買い物もさせてくれねえ。こっちは何も悪いことした覚えはないぜ? ただ、貧乏で服が汚いってだけで、俺たちは不当に差別されてんだ!!!」
「………」

バクラは、何も言えなかった。

「復讐さ! 復讐するのさ!! 俺たちを見下してきた連中にな!
この市場の奴らを、俺たちの足元に跪かせるのさ!!」
「おい、その辺にしとけ、そろそろ行くぞ」

興奮気味だった男をなだめるように、仲間の男が声をかける。

「おっと、そうだったな」

男は興奮から冷めると、庇の裏のパンも含め全て、自分の皮袋に入れた。
そして再び馬に乗り、

「なっ………」

走り出すことは出来なかった。
バクラが、馬の前に立ちふさがったのだ。

「ちゃんと働いてた、優しいおじさんはどこに行ったの!?」

震える、だが力強さも伺える声。
彼の瞳は、じっと男を見据えた。

暫しの沈黙。

先にその沈黙を破ったのは、男だった。

「……ったくよ」

男が馬から下りる。
そして、





バクラに向かって刃物を振りかざした。




「ああっ……!」

バクラが、倒れる。
転がった跡に、血が付着した。

「お、おじさん……」
「一つ言っておこう」

驚愕と悲しみの色が交じり合った瞳のバクラに、男が顔を近づける。

「人なんて信用しない方がいいぜ。誰だって何かありゃ相手を都合いいように使うモンなんだからな」

それだけ言うと、再び馬に乗り、仲間と共に走り去った。
バクラはその背中を、血を流しながら、涙を溜めたまま、見送るだけだった。
 
 

生贄2

 投稿者:アイス  投稿日:2008年12月 8日(月)19時23分4秒
返信・引用 編集済
  > No.1[元記事へ]

 翌日。
バクラは傷を抱えたまま仕事場にやってきた。
仕事場に、あの男の姿は見えない。

バクラは少し俯きながらも、手を動かし始めた。
そこに、統率者の声。

「おい、お前ら!」





「今日、お前ら……というかこの村の奴は全員、生贄になってもらうことになった」





その場が、凍りついた。
言葉が続く。

「というわけだから、今日は仕事はしなくていいから、ここでおとなしくしてろよ」

いつのまにか労働者たちは、無数の武器を持った者に囲まれていた。

「で、でも、どうして……!」

労働者の中の一人が叫ぶ。
それを切っ掛けに、そうだそうだ、理由を教えろ、と、あちこちから抗議の声があがり出した。
だが統率者はそれを全て、

「うるさい! 生贄は黙ってろ!」

の一言で切り捨てた。

事前に何の予告も無く、理由も知らされず、生贄のために殺される。
理不尽な怒りと恐怖に、労働者たちは震えていた。

勿論バクラも、その一人だった。

「どうして、ちゃんと働いてたのに……」

バクラは、あの男の言葉を思い出す。

――人なんて信用しない方がいいぜ――





「おい、立て! お前らの身を清めに行く!」


統率者が怒鳴る。
立ち上がるものは、当然、誰一人としていない。
統率者は軽く舌打ちすると、それを囲んでいた者たちに労働者を蹴らせた。
何人かのうめき声が聞こえた後、全員立ち上がり、歩き始めた。





 村の近くの泉に、労働者の集団は集められた。
突き落とされるように、泉に入れられていく。
バクラは自分も突き落とされるのを悟ったか、自ら泉に入る。

だが、まだ背丈の小さかったバクラは、泉の底に足が届かなかった。
自分のことだけで精一杯なのか、バクラの様子に気づく者はいない。

そして、彼は、





 「おい、あの小僧どうする?」
「ほっとけ、そのうち目覚ますだろ」

泉の淵で目を覚ました。

(助けてもらったのか……でも、このまま起き上がれば、結局生贄にされちゃうんだよね……だったら)

バクラは、誰も自分のほうを向いてない事を確認すると、




起き上がり、その場から逃げ出した。

遠く、出来るだけ遠くまで。





 そこでバクラは、目を覚ました。

(フン、ガキの頃の夢か……つまらねぇものを見ちまったぜ)

夜襲の晩、あの男に言われた言葉が、現在の彼の考えになっている。


「さぁ、今日も夜襲だ!」




今日も市場に、あの日と同じように、馬の蹄の音が響く。





FIN
 

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